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南楼望(盧僎)

南樓望
南楼(なんろう)の望(ぼう)
盧(ろ)僎(せん)
  • ウィキソース「南望樓」参照。
  • この詩は、ある春の日、作者がある町の南楼に登り、周りの景色を眺望しながら望郷の念を詠んだもの。
  • 詩題 … 南楼からの眺め。南楼は、町を囲む城壁の南門の上に建てられた望楼。『全唐詩』では「南の望楼(ぼうろう)」(南望樓)に作る。
  • 望 … 眺め。眺望。
  • 盧僎 … 生没年不詳。初唐の詩人。相(そう)州臨(りん)漳(しょう)県(河北省臨漳県)の人。字(あざな)は不詳。中宗が皇帝に復位(在位705~710)した頃、聞(ぶん)喜(き)県(山西省聞喜県)の尉から集賢院学士・吏部員外郎を歴任した。現存する詩は十四首。ウィキペディア【盧僎】(中文)参照。
去國三巴遠
国(くに)を去(さ)って 三(さん)巴(ぱ)遠(とお)く
  • 去国 … 長安の都を去って。国は、国都長安を指す。また、故郷(故国)とする説もある。劉宋の顔延之「謝監霊運に和す」詩(『文選』巻二十六)に「国を去って故里に還り、幽門に蓬藜(ほうれい)を樹(う)う」(去國還故里、幽門樹蓬藜)とある。監は、秘書監。幽門は、静かな門。蓬藜は、蓬(よもぎ)や藜(あかざ)。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。また『荘子』徐無鬼篇に「子(し)、夫(か)の越の流人を聞かずや。国を去ること数日なれば、其の知る所を見て喜ぶ」(子不聞夫越之流人乎。去國數日、見其所知而喜)とある。こちらの国は故郷(故国)の意。ウィキソース「莊子/徐無鬼」参照。
  • 三巴 … 後漢の頃、巴郡・巴東・巴西の三つの郡があった地域。現在の四川省東部、湖北省に近いところを指す。『華陽国志』巴志に「(劉(りゅう))璋(しょう)、乃ち永寧を改めて巴郡と為し、固陵を以て巴東と為し、(龐(ほう))羲(ぎ)を徙(うつ)して巴西の太守と為す。是れを三巴と為す」(璋乃改永寧爲巴郡、以固陵爲巴東、徙羲爲巴西太守。是爲三巴)とある。劉璋は、後漢末の群雄の一人。巴郡は、現在の重慶市一帯。巴東は、湖北省との省境辺。龐羲は、後漢末の武将。巴西は嘉陵江上流。ウィキソース「華陽國志/卷一」参照。
登樓萬里春
楼(ろう)に登(のぼ)れば 万(ばん)里(り)春(はる)なり
  • 登楼 … 南楼に登れば。南楼に登って眺望すれば。三国魏の王粲「登楼の賦」(『文選』巻十一)に「茲(こ)の楼に登りて以て四(よも)に望み、聊(いささ)か暇(か)日(じつ)以て憂いを銷(け)す」(登茲樓以四望兮、聊暇日以銷憂)とある。四(よも)は、四方。暇日は、暇(ひま)なとき。ウィキソース「登樓賦」参照。
  • 万里春 … 万里の彼方まで春景色である。隋の盧(ろ)思道「上(じょう)巳(し)に禊飲(けいいん)す」詩(『古詩紀』巻一百三十二)に「聊(いささ)か一樽(いっそん)の酒を持して、共に千里の春を尋(たず)ぬ」(聊持一樽酒、共尋千里春)とある。上巳は、五節句の一つ。陰暦三月三日。桃の節句。禊飲は、禊(みそ)ぎして飲宴すること。ウィキソース「上巳褉飲」参照。
傷心江上客
心(こころ)を傷(いた)ましむ 江(こう)上(じょう)の客(かく)
  • 傷心 … 私の心を傷ませるのは。胸が傷むのは。前漢の司馬遷「任(じん)少(しょう)卿(けい)に報(ほう)ずるの書(しょ)」(『文選』巻四十一)に「故に禍(わざわい)は欲(よく)利(り)より憯(いた)ましきは莫(な)く、悲しみは傷(しょう)心(しん)より痛(いた)ましきは莫く、行いは先(せん)を辱(はずか)しむるより醜(みにく)きは莫く、詬(はじ)なるは宮(きゅう)刑(けい)より大いなるは莫し」(故禍莫憯於欲利、悲莫痛於傷心、行莫醜於辱先、而詬莫大於宮刑)とある。先は、祖先。ウィキソース「報任少卿書」参照。また、前漢の蘇武「詩四首」(『文選』巻二十九)の第二首に「俛(ふ)仰(ぎょう)して内に心を傷ましめ、涙下(くだ)りて揮(ふる)う可からず」(俛仰内傷心、涙下不可揮内傷心)とある。俛仰は、うつむいたり、あおむいたりすること。揮は、拭(ぬぐ)うこと。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
  • 江上客 … 作者が今、目にしている、南楼の下を流れる川のほとりを往来する旅人。また、江上の客を作者自身とする説もある。劉宋の謝霊運「南楼の中(うち)にて遅(ま)つ所の客(かく)を望む」詩(『文選』巻三十)に「楼に登りて誰(た)が為にか思う、江に臨みて来客(らいかく)を遅(ま)つ」(登樓爲誰思、臨江遲來客)とある。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
不是故鄉人
是(こ)れ故(こ)郷(きょう)の人(ひと)ならず
  • 不是故郷人 … 江上を往来する旅人は、一人としてわが故郷の人ではない。みな他郷の人ばかりだ。なお、江上の客を作者自身と解釈した場合は「私は結局、この土地を故郷とする人間ではないのだ」と訳すことになる。劉宋の湯恵休の楽府「江南の思い」(『楽府詩集』巻二十六)に「情を垂れて春草に向かえば、是れ故郷の人なるを知る」(垂情向春草、知是故郷人)とある。情を垂れるとは、心を込めること。春草に向かうとは、春の草をじっと見つめること。ウィキソース「樂府詩集/026卷」参照。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 春・人(上平声真韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻九十九(排印本、中華書局、1960年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻十九(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩解』巻二十一(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻三十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『国秀集』巻上(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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