送秘書晁監還日本国(王維)
送祕書晁監還日本國
秘書晁監の日本国に還るを送る
秘書晁監の日本国に還るを送る
- 〔テキスト〕 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)、『王摩詰文集』巻九(略称:蜀刊本)、『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収)、顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻七(略称:顧起経注本)、顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)、趙殿成注『王右丞集箋注』巻十二(略称:趙注本)、『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻一百二十七、『文苑英華』巻二百六十八、『極玄集』、『唐詩品彙』巻七十四、他
- 五言排律。東・空・風・紅・中・通(平声東韻)。
- ウィキソース「送祕書晁監還日本國」参照。
- 秘書晁監 … 秘書監の晁衡、阿倍仲麻呂(698~770)のこと。中国名を朝衡、または晁衡という。「晁」は「朝」の古字。入唐留学生として唐の玄宗に仕え、中国で死んだ。李白や王維などと交際があった。「秘書監」は、宮中の図書を掌る秘書省の長官。ウィキペディア【阿倍仲麻呂】参照。
- 晁 … 『蜀刊本』では「朝」に作る。
- 国 … 『唐詩選』には「国」の字がない。
- 還 … 『文苑英華』では「帰」に作り、「集作還」とある。
- 『極玄集』では詩題を「送晁監帰日本」に作る。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞集』十巻(または六巻)がある。ウィキペディア【王維】参照。
積水不可極
積水 極む可からず
- 積水 … 海のこと。『荀子』儒効篇に「積土は山と為り、積水は海と為る」(積土而爲山、積水而爲海)とあるのに基づく。ウィキソース「荀子/儒效篇」参照。
- 不可極 … 果てしなく広がっていて、極めようもない。
安知滄海東
安んぞ滄海の東を知らん
- 安 … 「いずくんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~(する)のか、いや~ない」と訳す。反語の意を示す。
- 滄海 … 東方の大海原。その中に仙人が住む島があると伝えられた。
九州何處遠
九州 何れの処か遠き
- 九州 … ここでは中国の外にある九つの国。
- 何処遠 … どこが一番遠いだろうか(きっと君の故国、日本であろう)。
- 遠 … 『全唐詩』には「一作所」とある。『極玄集』では「所」に作る。『静嘉堂本』では「去」に作る。
萬里若乘空
万里 空に乗ずるが若し
- 万里 … 君の故国へ帰る万里の船旅。
- 万 … 『静嘉堂本』では「五」に作る。
- 乗空 … 虚空を飛んでゆく。頼りない様子。『列子』黄帝第二に「空に乗ずること実を履むが如し」(乘空如履實)とあるのに基づく。「実」は、地のこと。
向國唯看日
国に向って唯だ日を看
- 向国 … 故国に向われるには。
- 唯看日 … ただ太陽の出る方角を目指すばかり。
- 唯 … 『唐詩選』『静嘉堂本』『蜀刊本』『趙注本』『文苑英華』では「惟」に作る。同義。
歸帆但信風
帰帆は但だ風に信すのみ
- 帰帆 … 帰りゆく船。
- 帆 … 『全唐詩』『顧起経注本』『趙注本』には「一作途」とある。
- 信 … まかせる。
鰲身映天黑
鰲身 天に映じて黒く
- 鰲身 … 大海亀の胴体。
- 鰲 … 『静嘉堂本』『蜀刊本』『極玄集』では「鼇」に作る。正字。「鰲」は異体字。
- 映天黒 … 空を背景に黒々とその姿を映す。
- 天 … 『蜀刊本』では「晩」に作る。
魚眼射波紅
魚眼 波を射て紅なり
- 魚眼 … 大魚の眼。
- 魚 … 『全唐詩』『顧起経注本』『趙注本』には「一作蜃」とある。『文苑英華』には「作蜃」とある。
- 射波紅 … 波を射るように紅く輝くことであろう。
鄉樹扶桑外
郷樹 扶桑の外
- 郷樹 … 故郷の木々。
- 樹 … 『唐詩選』では「国」に作る。
- 扶桑 … 東方の島にあり、日の出る所にあると伝えられた神木の名。のち、その木の生えている土地をいう。転じて、日本を指す。
- 外 … (扶桑の木の)さらに向こう。
主人孤島中
主人 孤島の中
- 主人 … その家の主であるあなたは。晁衡、阿倍仲麻呂を指す。
- 孤島中 … 絶海にただ一つある島国にお住いになる。日本を指す。
別離方異域
別離 方に異域
- 別離 … 今ここで君とお別れして。
- 異域 … 中国を遠く離れたよその地方。別の世界の人となること。
音信若爲通
音信 若為でか通ぜん
- 音信 … 「いんしん」とも読む。便り。手紙。
- 若為 … どのようにして。どうやって。
- 若 … 『文苑英華』では「苦」に作る。
- 通 … 通わせる。送る。
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