奉和幸韋嗣立山荘応制(李嶠)
奉和幸韋嗣立山莊應制
「韋嗣立の山荘に幸す」に和し奉る 応制
「韋嗣立の山荘に幸す」に和し奉る 応制
- 五言排律。居・漁・輿・裾・虛・疏・餘・書・魚・廬(平声魚韻)。
- 『全唐詩』巻61所収。ウィキソース「奉和幸韋嗣立山莊侍宴應制 (李嶠)」参照。
- 奉和幸韋嗣立山莊應制 … 『全唐詩』では「奉和幸韋嗣立山莊侍宴應制」に作る。
- この詩は、景龍三年(709)、中宗(在位684、705~710)が長安東の驪山近くの韋嗣立の山荘に行幸した時に作った詩に、臣下が中宗の命によって唱和したもの。
- 韋嗣立 … 660~719。字は延構。中宗のとき、同中書門下三品(宰相)であった。
- 幸 … 「幸す」と読んでもよい。天子が外出することの敬語。行幸。
- 応制 … 天子の命令によって作られた詩文。
- 李嶠 … 645~714。初唐の宮廷詩人。趙州賛皇(河北省石家荘市)の人。字は巨山。麟徳元年(664)、進士に及第。則天武后のとき、監察御史から同鳳閣鸞台平章事(宰相)となったが、玄宗の即位とともに、廬州(安徽省合肥市)別駕に左遷された。杜審言、崔融、蘇味道とともに「文章四友」と呼ばれる。『李嶠雑詠』二巻が残っている。
南洛師臣契
南洛 師臣の契り
- 南洛 … 長安の東方を東へ流れ、洛陽の南を通って黄河に注ぐ洛水の南。山荘のある場所を指す。
- 師臣 … 臣下にして天子の師でもある者。韋嗣立を指す。
- 契 … 交わり。つながり。
東巖王佐居
東巌 王佐の居
- 東巌 … 東にある岩山。驪山を指す。
- 王佐 … 天子の補佐役。韋嗣立を指す。
- 居 … すまい。
幽情遺紱冕
幽情 紱冕を遺れ
- 幽情 … 俗界を離れた静寂な感情。
- 紱冕 … 「紱」は高官の帯びる印綬(官印をぶら下げる組紐)。「冕」は冠。高位高官の喩え。
- 遺 … 忘れ去る。
宸眷矚樵漁
宸眷 樵漁を矚る
- 宸眷 … 天子に目をかけられること。天子の恩寵。
- 樵漁 … きこりと漁師。
- 矚 … 視察する。
制下峒山蹕
制は下る 峒山の蹕
- 制下 … 天子の命令がその地に下される。
- 峒山 … 崆峒山。甘粛省平凉市にあるが、ここでは山荘近くの驪山を指す。黄帝が広成子という隠者にこの山をたずねて道を学んだという、『荘子』在宥篇にある故事「黄帝立ちて天子たること十九年、令天下に行わる。広成子の空同の上に在りと聞く。故に往きて之を見る」(黄帝立爲天子十九年、令行天下。聞廣成子在於空同之上。故往見之)を踏まえ、中宗を黄帝に、韋嗣立を広成子に準えている。ウィキソース「莊子/在宥」参照。
- 蹕 … 行列の先ばらい。天子が行幸するとき、通り道にいる人を退かせたこと。
恩囘灞水輿
恩は回る 灞水の輿
- 恩回 … 天子の恵みがめぐってくること。
- 灞水 … 川の名。霸水とも。関中八川の一つ。陝西省藍田県の東倒谷の中に源を発し、滻水と合し、渭水に注ぐ。これを渡らないと驪山と往来できない。『漢書』地理志、京兆尹の条の注に「霸水も亦た藍田谷より出でて、北のかた渭に入る。(師)古茲水と曰う、秦の穆公名を更め、以て霸功を章かにし、子孫に視す」(霸水亦出藍田谷、北入渭。古曰茲水、秦穆公更名、以章霸功、視子孫)とある。『漢書評林』巻二十八(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 輿 … こし。天子を乗せて、かついで運ぶ乗り物。
松門駐旌蓋
松門 旌蓋を駐め
- 松門 … 松の門の前。
- 旌蓋 … 旗さしものと、車の絹傘。天蓋。
- 駐 … 立ち止まる。
薜幄引簪裾
薜幄 簪裾を引く
- 薜幄 … つたかずらを結んだ幄。「薜」は、つたかずらの類。「幄」は、上から屋根状に覆った幕。
- 簪裾 … 冠をとめるかんざしと、着物のすそ。ここでは正装した百官を指す。
- 引 … 引き入れる。導き入れる。案内する。
石磴平黃陸
石磴 黄陸に平らかにして
- 石磴 … 石段。
- 黄陸 … 天の黄道。すなわち太陽の軌道。
- 平 … 同じ高さにまで登っていく。同じ高さにまで長く続く。
煙樓半紫虛
煙楼 紫虚に半ばせり
- 煙楼 … 靄のかかった楼閣。
- 紫虚 … 天。大空。雲や霞が日の光で紫色になることから。
- 半 … 半分に達する。
雲霞仙路近
雲霞 仙路近く
- 雲霞 … 色づく雲。「霞」は「かすみ」ではなく、朝夕の赤く色づく雲のこと。
- 仙路 … 仙界への道。
琴酒俗塵疏
琴酒 俗塵疏なり
- 琴酒 … 琴と酒との風雅な楽しみ。「酒」は底本では「書」に作るが、諸本に従い改めた。
- 俗塵 … 俗世間の煩わしい事柄。
- 疏 … 遠ざかる。離れている。
喬木千齡外
喬木 千齢の外
- 喬木 … 高い木。
- 千齢外 … 千年以上経っている。
懸泉百丈餘
懸泉 百丈の余
- 懸泉 … 滝のこと。
- 百丈 … 極めて長いこと。一丈は、十尺。唐代の尺には、大尺(約30センチ)と小尺(約25センチ)がある。従って大尺で一丈は、約3メートル。百丈は、約3百メートル。
- 丈 … 『全唐詩』には「一作尺」とある。
- 余 … 余り。
崖深經鍊藥
崖は深くして 経て薬を錬り
- 崖深 … 深く切り立った崖の底。
- 経 … かつて。
- 錬薬 … 不老不死の仙薬を練った(場所)。
穴古舊藏書
穴は古りて 旧と書を蔵す
- 穴古 … 古びた洞穴。
- 旧 … 昔。昔から。
- 蔵書 … 帝王の珍しい書物がしまわれているという。
樹宿摶風鳥
樹には宿る 風に摶つ鳥
- 樹宿 … 木々の上に巣を作っている。
- 摶風鳥 … 風に羽ばたいて天翔る大鳥。「摶」は羽ばたいて風を打つこと。『荘子』逍遙遊篇に「鵬の南冥に徙るや、水の撃すること三千里、扶揺を摶ちて上る者九万里、去りて六月を以て息う者なり」(鵬之徙於南冥也、水撃三千里、摶扶搖而上者九萬里、去以六月息者也)とあるのに基づく。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。「扶揺」は、つむじ風。この句は韋嗣立を喩えている。
池潛縱壑魚
池には潜む 壑に縦にする魚
- 池潜 … 池の中には。池の底には。池に潜んでいる。
- 潛 … 『全唐詩』には「一作遊」とある。
- 縦壑魚 … 谷をわがもの顔で自由に泳ぎ回る大魚。「壑」は谷。この句も韋嗣立の喩え。
寧知天子貴
寧んぞ知らん 天子の貴きを
- 寧 … 「いずくんぞ」「なんぞ」と読み、「どうして~であろうか」「まさか~ではあるまい」と訳す。反語の意を示す。
- 天子貴 … 天子の貴い身分をも顧みられず。
尚憶武侯廬
尚お武侯の廬を憶わんとは
- 武侯 … 蜀の諸葛亮(孔明)の尊称。武郷侯に封ぜられたのでこう呼ぶ。
- 憶武侯廬 … 孔明を軍師に迎えるため、劉備が三たび草深い廬に訪れたという、いわゆる「三顧の礼」の故事を踏まえる。
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