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韋員外家花樹歌(岑参)

韋員外家花樹歌
員外いんがいいえじゅうた
岑參しんじん
  • 七言古詩。好・老・掃(上声皓韻)、當・郎・香(下平声陽韻)。
  • ウィキソース「韋員外家花樹歌」参照。
  • 韋員外 … 韋は、姓。人物については不詳。員外は、官名。員外郎。本来は定員外の官。各長官(郎中)の補佐役。
  • 花樹歌 … 花咲く木の歌。員外の家で催された花見の宴での、花を賞しながら員外一家を称えた詩。
  • 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。荊州江陵(現在の湖北省荊州市江陵県)の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、けつかく州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適こうせきとともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
今年花似去年好
今年こんねんはな去年きょねん
  • 花 … 『唐百家詩選』では「春」に作る。
  • 似去年好 … 「去年のきにたり」と読んでもよい。去年に似て素晴らしい。去年に似て美しい。
去年人到今年老
去年きょねんひと今年こんねんいたりて
  • 到今年老 … 今年になって一つ年をとっている。
  • 今年花似去年好、去年人到今年老 … 「年年歳歳 花相似たり、歳歳年年 人同じからず」(劉廷芝「代悲白頭翁」)とほぼ同じ考え方。
始知人老不如花
はじめてる ひといてはなかざるを
  • 始知 … そこではじめて気がつく。
  • 不如花 … (変わりなき美しさを繰り返す)花には及ばないことを。
  • 如 … 『四部叢刊本』には「如一作及」と注する。『唐百家詩選』では「及」に作る。
可惜落花君莫掃
しむし らっ きみはらうことかれ
  • 可惜 … いとおしい。いとしい。
  • 落花 … 散り落ちる花。北斉のしょうかく「春日曲水」詩(『初学記』では「春賦」に作る)に「落花 かぞうれども限り無し、飛鳥 花を排してわたる」(落花無限數、飛鳥排花度)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷120」「初學記/卷第三」参照。
  • 君 … 君よ。韋員外を指す。
  • 莫掃 … 掃き捨てないでくれたまえ。
君家兄弟不可當
きみいえ兄弟けいてい たるからず
  • 君家兄弟 … 君の家の兄弟には。韋員外の兄弟を指す。
  • 不可当 … かなわない。匹敵することができない。
列卿御史尚書郎
列卿れっけい ぎょ しょう書郎しょろう
  • 列卿 … 諸卿の位にある者。唐代、太常寺(祭祀と儀礼を掌る)・光禄寺(宮中の酒食を掌る)・衛尉寺(宮中の武器庫や儀仗を掌る)・宗正寺(皇帝の宗室を掌る)・太僕寺(車や馬などを掌る)・大理寺(司法・裁判を掌る)・鴻臚寺(賓客を掌る)・司農寺(穀物・貨幣などを掌る)・太府寺(財貨と交易を掌る)の九寺(寺は、官署の意)の長官を列卿といった。前漢の楊惲よううん「孫会宗に報ずるの書」(『文選』巻四十一、『漢書』巻六十六)に「うんの家まさに隆盛なりし時、朱輪に乗る者十人、位は列卿に在り、爵は通侯たり」(惲家方隆盛時、乘朱輪者十人、位在列卿、爵爲通侯)とある。朱輪は、身分の高い人が乗った朱塗りの車。通侯は、諸侯のこと。ウィキソース「報孫會宗書」「漢書/卷066」参照。
  • 御史 … 官吏の監察を主とする職。『周礼』春官、御史に「邦国・都鄙とひ及び万民の治令を掌り、以てちょうさいたすく」(掌邦國都鄙及萬民之治令、以贊冢宰)とある。冢宰は、六卿りくけいの一つ。六官りっかんを統括する長官。天子をたすけて百官を率いた。ウィキソース「周禮/春官宗伯」参照。
  • 尚書郎 … 尚書省の部課長級の官吏。『後漢書』百官志に「尚書六人、六百石。本注に曰く、成帝初めて尚書四人を置き、分かちて四曹と為す、と。……侍郎三十六人、四百石。本注に曰く、一曹に六人有り、文書を作り起草することをつかさどる、と」(尚書六人、六百石。本注曰、成帝初置尚書四人、分爲四曹。……侍郎三十六人、四百石。本注曰、一曹有六人、主作文書起草)とある。ウィキソース「後漢書/卷116」参照。
朝囘花底恆會客
ちょうよりかえれば てい つねかくかい
  • 朝回 … 朝廷から帰宅すると。
  • 花底 … 花の咲く木陰に。
  • 恒会客 … いつも客を集めて宴会が開かれる。『史記』信陵君伝に「公子ここに於いて乃ち置酒し大いに賓客をかいす」(公子於是乃置酒大會賓客)とある。置酒は、酒宴を開くこと。ウィキソース「史記/卷077」参照。
  • 恒 … 『唐百家詩選』では「常」に作る。
  • 會客 … 『寛保刊本』では「會合」に作り、「一作會客」と注する。
花撲玉缸春酒香
はなぎょくこうってしゅんしゅかんば
  • 玉缸 … 玉で作った酒がめ。「缸」は「甌」に作るテキストもある。
  • 撲 … 打つ。ここでは、花びらがひらひらと散りかかり、酒がめに当たること。
  • 春酒 … 春に熟す酒。春に仕込む酒。ここでは、春の日に飲む酒の意。『詩経』豳風ひんぷう・七月に「此の春酒をつくりて、以て寿じゅたすく」(為此春酒、以介眉壽)とある。眉寿は、眉が長く伸びるまで長生きする人。長寿の人。ウィキソース「詩經/七月」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百九十九(排印本、中華書局、1960年)
  • 『岑嘉州集』巻上([明]許自昌編、『前唐十二家詩』所収、万暦三十一年刊、内閣文庫蔵)
  • 『岑嘉州集』巻四(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『岑嘉州詩』巻二(『四部叢刊 初篇集部』所収、第二次影印本、蕭山朱氏蔵明正徳刊本)
  • 『岑嘉州詩』巻四(寛保元年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩5』所収、汲古書院、略称:寛保刊本)
  • 『唐詩品彙』巻二十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻十七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『古今詩刪』巻十三(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐百家詩選』巻四([北宋]王安石編、世界書局、1979年)
  • 廖立箋注『岑嘉州詩箋注』巻二(中国古典文学基本叢書、中華書局、2004年)
  • 劉開揚箋注『岑参詩集編年箋注』(巴蜀書社、1995年)
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