飲酒二十首 其五(陶潜)
飮酒二十首 其五
飲酒二十首 其の五
飲酒二十首 其の五
- 〔テキスト〕 『先秦漢魏晋南北朝詩』晋詩巻十七、『文選』巻三十、『古詩源』巻九 晋詩、『古詩賞析』巻十三 晋詩、『陶淵明集』巻三、『古文真宝』前集 巻二、他
- 五言古詩。喧・言(平声元韻)、偏(平声先韻)、山・還(平声刪韻)通押。
- ウィキソース「飲酒二十首」参照。
- 飲酒 … 『文選』『古文真宝』前集では「雑詩二首 其一」に作る。
- この詩は、人の住む村里に身を置きながらも、自然と一体になった隠者暮らしができる、という作者の境地を詠んだもの。
- 陶潜 … 365~427。東晋末の詩人。潯陽(江西省九江市)の人。名は潜、字は淵明、一説には元亮ともいわれる。五柳先生と号した。後世の人々から靖節先生という諡を賜った。四十一歳のとき、彭沢県の県令となったが八十日で辞任し、「帰去来の辞」を作って帰郷した。以後は出仕することなく、隠逸詩人として田園生活を送った。その詩は唐代になって多くの詩人に多大な影響を与えた。ウィキペディア【陶淵明】参照。
結廬在人境
廬を結びて人境に在り
- 結廬 … 粗末な家を構える。「廬」は粗末な家。
- 人境 … 世俗の人の住んでいる所。人里。村里。隠者が住む山林でないことをいう。
而無車馬喧
而も車馬の喧しき無し
- 而 … 「しかも」「しかるに」「しかれども」と読み、「しかし」「~ではあるが」「それなのに」「~であっても」と訳す。逆接の意を示す。なお、「しかして」「しこうして」と読む場合は並列や順接の意を示す。
- 車馬 … 馬に引かせる乗用の車のこと。当時は官吏専用の乗物なので、ここでは訪れる役人の車馬を指す。役人が作者に出仕を促しに来たと思われる。
- 喧 … 騒がしさ。やかましさ。喧騒。
- 無車馬喧 … 役人の車馬の来訪する騒がしさもなく、心静かに暮らしている。
問君何能爾
君に問う 何ぞ能く爾ると
- 問君 … 自問自答の形式。もしも人が~と私に問えば。「君」は作者自身を指す。
- 何能爾 … どうしてそのような状態でいられるのか。
- 何能 … どうして~できるのか。
- 爾 … そのように。「然」と同じ。「爾」は第一・二句を指す。俗世間の中で暮らしながら、心静かな心境でいること。
心遠地自偏
心遠ければ 地 自ずから偏なり
- 心遠 … 私の心は俗世間を遠く離れている。
- 地 … 住む土地。
- 自 … 自然に。
- 偏 … 辺鄙な所。心が俗世間を遠く離れているため、人里に住んでいても、あたかも人里を離れた辺鄙な所にいるようであるということ。
采菊東籬下
菊を采る 東籬の下
- 采 … 摘み取る。「採」と同じ。
- 東籬 … 東側の垣根。東側の生け垣。「籬」は柴や竹を編んだ垣根。
- 下 … ~の所で。そばで。あたりで。
悠然見南山
悠然として南山を見る
- 悠然 … 「作者の心がゆったりとしている。ゆったりとした気持ちで」と解釈する説、「南山の様子がゆったりとしている」と解釈する説、「作者から南山までが遥か遠いさまである」と解釈する説とに分かれる。
- 南山 … 南方にある山。江西省九江市の南方にある廬山を指す。ウィキペディア【廬山】参照。
- 見 … 『文選』では「望」に作る。
山氣日夕佳
山気 日夕に佳く
- 山気 … 山の気配。山の景色。山のたたずまい。山中の空気。山にたちこめる霧・靄。
- 日夕 … 夕暮れ。
- 佳 … 素晴らしい。美しい。立派だ。
飛鳥相與還
飛鳥 相与に還る
- 飛鳥 … 飛ぶ鳥。
- 相与 … お互いに連れだって。
- 還 … (ねぐらへと)帰っていく。
此中有眞意
此の中に真意有り
- 此中 … この何気ない風景の中にこそ。「此」は第五句から八句までを指す(諸説あり)。
- 真意 … 自然と一体になって悠然と生きていくという、人間としての本来の姿。人間としての真の在り方。なお、「自然の真理。自然の妙趣。自然の真実さ」という解釈もある。
欲辨已忘言
弁ぜんと欲して已に言を忘る
- 欲弁 … (真意について)言葉で説明しようとすると。
- 已 … 「すでに」と読み、「もはや」「もう」「早くも」と訳す。
- 忘言 … 言葉を忘れてしまった。
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