帰園田居五首 其一(陶潜)
歸園田居五首 其一
園田の居に帰る五首 其の一
園田の居に帰る五首 其の一
- 〔テキスト〕 『先秦漢魏晋南北朝詩』晋詩巻十七、『古詩賞析』巻十三 晋詩、『古詩源』巻八 晋詩、『陶淵明集』巻二、『古文真宝』前集 巻三、他
- 五言古詩。山・間・閑(平声刪韻)、年・淵・田・前・煙・巓・然(平声先韻)通押。
- ウィキソース「歸園田居」参照。
- 帰園田居 … 田舎の住居に帰る。「園田」は田舎。義熙二年(406)、四十二歳の作。
- 園田 … 『古詩賞析』『古詩源』『古文真宝』では「田園」に作る。
- 陶潜 … 365~427。東晋末の詩人。潯陽(江西省九江市)の人。名は潜、字は淵明、一説には元亮ともいわれる。五柳先生と号した。後世の人々から靖節先生という諡を賜った。四十一歳のとき、彭沢県の県令となったが八十日で辞任し、「帰去来の辞」を作って帰郷した。以後は出仕することなく、隠逸詩人として田園生活を送った。その詩は唐代になって多くの詩人に多大な影響を与えた。ウィキペディア【陶淵明】参照。
少無適俗韻
少きより俗韻に適する無く
- 少 … 若い頃から。
- 無適俗韻 … 世俗の風習に適応できない。世俗と調子が合わない。「俗韻」は世俗の調子。世俗の風習。「俗に適う韻無く」と読んでもよい。
性本愛丘山
性 本 丘山を愛す
- 性 … 生まれつき。
- 丘山 … 山や丘などの自然。
誤落塵網中
誤りて塵網の中に落ち
- 誤 … 間違って。
- 塵網 … 俗世間の煩雑さ。役人生活を指す。
一去三十年
一去 三十年
- 一去 … 「一たび去りて」と読んでもよい。(自然の生活を離れて)それ以来ずっと。
- 三十年 … 陶淵明が最初に官職に就いたのが太元十八年(393)、二十九歳のときであり、最後の官職である彭沢県の県令を辞めたのが義熙元年(405)、四十一歳のときである。従って「十三年」の誤りであろう。
羈鳥戀舊林
羈鳥は旧林を恋い
- 羈鳥 … かごの中の鳥。また、渡り鳥とする解釈もあるが、ここでは次の「池魚」とともに、不自由な役人生活をしている自分自身の喩えと思われるので採らない。
- 旧林 … もと棲んでいた林。古巣の林。
- 恋 … 恋しく思う。
池魚思故淵
池魚は故淵を思う
- 池魚 … 池の中の魚。
- 故淵 … もと住んでいた川の淵。
- 思 … 懐かしむ。
開荒南野際
荒を南野の際に開き
- 荒 … 草の生い茂った荒れ地。
- 南野 … 南の野原。南の郊外の地。
- 際 … ここでは辺り。
- 開 … 開墾する。
守拙歸園田
拙を守りて園田に帰る
- 守拙 … 世渡りの下手な態度・気質をそのまま守る。
- 園田 … 故郷の村。
方宅十餘畝
方宅 十余畝
- 方宅 … 四角な宅地。
- 十余畝 … 十畝ほど。「畝」は面積の単位。当時の一畝は約五アール。
草屋八九間
草屋 八九間
- 草屋 … 草ぶきの粗末な家。
- 八九間 … 八つか九つの部屋がある。「間」は、建物の柱と柱との間を数える単位。一間が一部屋にあたる。
楡柳蔭後簷
楡柳 後簷を蔭い
- 楡柳 … 楡の木や柳の木。
- 後簷 … 家の後ろの軒端。
- 蔭 … 覆う。影を作る。
桃李羅堂前
桃李 堂前に羅なる
- 桃李 … 桃や李。
- 堂前 … 表座敷の前。広間の前。前庭。または母屋の前。
- 羅 … 並べて植えてある。
曖曖遠人村
曖曖たり 遠人の村
- 曖曖 … 遠く霞んで見えるさま。重言。
- 遠人村 … 遠い人の村。転じて、遠くの村。
依依墟里煙
依依たり 墟里の煙
- 依依 … 煙が緩やかにたなびくさま。重言。
- 墟里 … 村里。村落。集落。
狗吠深巷中
狗は吠ゆ 深巷の中
- 狗 … 犬。
- 深巷 … 奥まった路地。
- 狗吠深巷中 … 次の句とともに、『楽府詩集』巻二十八、相和歌辞三、「雞鳴(古辭)」の「雞鳴髙樹巓、狗吠深宮中」の句を踏まえる。ウィキソース「樂府詩集/028卷」参照。
雞鳴桑樹巓
鶏は鳴く 桑樹の巓
- 桑樹 … 桑の木。
- 巓 … てっぺん。『古詩賞析』『古詩源』『古文真宝』では「顚」に作る。同義。
戶庭無塵雜
戸庭 塵雑無く
- 戸庭 … 戸口から庭先の辺り。門の内。
- 塵雑 … 世俗の煩わしい雑事。
虛室有餘閑
虚室 余閑有り
- 虚室 … 何もない部屋。がらんとした部屋。『荘子』人間世第四の「彼の闋しき者を瞻れば、虚室に白を生じ、吉祥は止まるものに止まる」(瞻彼闋者、虛室生白、吉祥は止止)とあるのに基づく。「白」は日光。白光。ウィキソース「莊子/人間世」参照。
- 余閑 … 十分なゆとり。十分な余裕。また、ゆったりとした静けさという解釈もある。
- 閑 … 「閒」に作るテキストもある。同義。
久在樊籠裏
久しく樊籠の裏に在りしも
- 樊籠裏 … 鳥かごの中。束縛された役人生活に喩える。「裏」は「裡」に作るテキストもある。
復得返自然
復た自然に返るを得たり
- 自然 … 本来の自分。自由で束縛のない状態。
- 得返 … 立ち返ることができた。取り戻すことができた。
こちらもオススメ!
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |