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三略 中略(ちゅうりゃく)

01 夫三皇無言、而化流四海。故天下無所歸功。帝者體天則地、有言有令、而天下太平。君臣讓功、四海化行、百姓不知其所以然。故使臣不待禮賞有功、美而無害。
夫(そ)れ三皇(さんこう)は言(げん)無(な)くして、化(か)、四(し)海(かい)に流(なが)る。故(ゆえ)に天(てん)下(か)、功(こう)を帰(き)する所(ところ)無(な)し。帝(てい)は天(てん)を体(たい)し地(ち)に則(のっと)り、言(げん)有(あ)り令(れい)有(あ)りて、天(てん)下(か)太平(たいへい)なり。君臣(くんしん)、功(こう)を譲(ゆず)り、四(し)海(かい)に化(か)行(おこな)われて、百(ひゃく)姓(せい)は其(そ)の然(しか)る所以(ゆえん)を知(し)らず。故(ゆえ)に臣(しん)をして礼(れい)賞(しょう)を待(ま)たずして功(こう)有(あ)り、美(び)にして害(がい)無(な)からしむ。
  • ウィキソース「三略」参照。
  • 三皇 … 古代の伝説上の三人の皇帝。伏(ふっ)羲(き)・神農(しんのう)・女(じょ)媧(か)。または伏羲・神農・黄帝(こうてい)。または伏羲・神農・燧人(すいじん)、または天皇(てんこう)・地(ち)皇(こう)・人皇(じんこう)など、異説が多い。ウィキペディア【三皇五帝】参照。
02 王者制人以道、降心服志、設矩備衰。四海會同、王職不廢。雖有甲兵之備、而無戰闘之患。君無疑於臣、臣無疑於主、國定主安、臣以義退。亦能美而無害。霸者制士以權、結士以信、使士以賞。信衰則士疏、賞虧則士不用命。
王者(おうじゃ)は人(ひと)を制(せい)するに道(みち)を以(もっ)てし、心(こころ)を降(くだ)し志(こころざし)を服(ふく)し、矩(く)を設(もう)けて衰(すい)に備(そな)う。四(し)海(かい)会同(かいどう)し、王(おう)職(しょく)廃(はい)せず。甲兵(こうへい)の備(そな)え有(あ)りと雖(いえど)も、戦闘(せんとう)の患(うれい)無(な)し。君(きみ)、臣(しん)を疑(うたが)うこと無(な)く、臣(しん)、主(しゅ)を疑(うたが)うこと無(な)く、国(くに)定(さだ)まり主(しゅ)安(やす)く、臣(しん)は義(ぎ)を以(もっ)て退(しりぞ)く。亦(ま)た能(よ)く美(び)にして害(がい)無(な)し。覇(は)者(しゃ)は士(し)を制(せい)するに権(けん)を以(もっ)てし、士(し)を結(むす)ぶに信(しん)を以(もっ)てし、士(し)を使(つか)うに賞(しょう)を以(もっ)てす。信(しん)衰(おとろ)うれば則(すなわ)ち士(し)疏(うと)く、賞(しょう)虧(か)くれば則(すなわ)ち士(し)、命(めい)を用(もち)いず。
  • 戰闘 … 底本では「闘戰」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 疏 … 底本では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
03 軍勢曰、出軍行師、將在自專。進退内御、則功難成。軍勢曰、使智使勇、使貪使愚。智者樂立其功、勇者好行其志、貪者邀趨其利、愚者不顧其死。因其至情而用之。此軍之微權也。軍勢曰、無使辯士談説敵美。爲其惑衆。無使仁者主財。爲其多施而附於下。軍勢曰、禁巫祝、不得爲吏士卜問軍之吉凶。軍勢曰、使義士不以財。故義者不爲不仁者死。智者不爲闇主謀。
軍勢(ぐんせい)に曰(いわ)く、軍(ぐん)を出(いだ)し師(し)を行(や)るに、将(しょう)は自(みずか)ら専(もっぱ)らにするに在(あ)り。進退(しんたい)内(うち)より御(ぎょ)すれば、則(すなわ)ち功(こう)成(な)り難(がた)し、と。軍勢(ぐんせい)に曰(いわ)く、智(ち)を使(つか)い勇(ゆう)を使(つか)い、貪(たん)を使(つか)い愚(ぐ)を使(つか)う。智(ち)者(しゃ)は其(そ)の功(こう)を立(た)てんことを楽(たの)しみ、勇者(ゆうしゃ)は其(そ)の志(こころざし)を行(おこな)わんことを好(この)み、貪者(たんじゃ)は其(そ)の利(り)に趨(おもむ)かんことを邀(もと)め、愚(ぐ)者(しゃ)は其(そ)の死(し)を顧(かえり)みず。其(そ)の至(し)情(じょう)に因(よ)って之(これ)を用(もち)う。此(こ)れ軍(ぐん)の微(び)権(けん)なり、と。軍勢(ぐんせい)に曰(いわ)く、弁(べん)士(し)をして敵(てき)の美(び)を談説(だんぜい)せしむる無(な)かれ。其(そ)の衆(しゅう)を惑(まど)わすが為(ため)なり。仁者(じんしゃ)をして財(ざい)を主(つかさど)らしむる無(な)かれ。其(そ)の多(おお)く施(ほどこ)して下(しも)に附(ふ)するが為(ため)なり、と。軍勢(ぐんせい)に曰(いわ)く、巫(ふ)祝(しゅく)を禁(きん)じて、吏士(りし)の為(ため)に軍(ぐん)の吉(きっ)凶(きょう)を卜(うらな)い問(と)うことを得(え)ざらしむ、と。軍勢(ぐんせい)に曰(いわ)く、義士(ぎし)を使(つか)うに財(ざい)を以(もっ)てせず。故(ゆえ)に義(ぎ)者(しゃ)は不(ふ)仁者(じんしゃ)の為(ため)に死(し)せず。智(ち)者(しゃ)は闇主(あんしゅ)の為(ため)に謀(はか)らず、と。
04 主不可以無徳。無徳則臣叛。不可以無威。無威則失權。臣不可以無徳。無徳則無以事君。不可以無威。無威則國弱、威多則身蹶。故聖王御世、觀盛衰、度得失、而爲之制。故諸侯二師、方伯三師、天子六師。世亂則叛逆生、王澤竭則盟誓相誅伐。徳同勢敵、無以相傾。乃攬英雄之心、與衆同好惡、然後加之以權變。故非計策、無以决嫌定疑。非譎奇、無以破姦息寇。非陰謀無以成功。
主(しゅ)は以(もっ)て徳(とく)無(な)かる可(べ)からず。徳(とく)無(な)ければ則(すなわ)ち臣(しん)は叛(そむ)く。以(もっ)て威(い)無(な)かる可(べ)からず。威(い)無(な)ければ則(すなわ)ち権(けん)を失(うしな)う。臣(しん)は以(もっ)て徳(とく)無(な)かる可(べ)からず。徳(とく)無(な)ければ則(すなわ)ち以(もっ)て君(きみ)に事(つか)うる無(な)し。以(もっ)て威(い)無(な)かる可(べ)からず。威(い)無(な)ければ則(すなわ)ち国(くに)弱(よわ)く、威(い)多(おお)ければ則(すなわ)ち身(み)蹶(つまず)く。故(ゆえ)に聖王(せいおう)の世(よ)を御(ぎょ)するや、盛衰(せいすい)を観(み)、得失(とくしつ)を度(はか)りて、之(これ)が制(せい)を為(な)す。故(ゆえ)に諸侯(しょこう)は二師(にし)、方伯(ほうはく)は三(さん)師(し)、天(てん)子(し)は六(ろく)師(し)なり。世(よ)乱(みだ)るれば則(すなわ)ち叛(はん)逆(ぎゃく)生(しょう)じ、王沢(おうたく)竭(つ)くれば則(すなわ)ち盟誓(めいせい)して相(あい)誅(ちゅう)伐(ばつ)す。徳(とく)同(おな)じく勢(いきお)い敵(てき)すれば、以(もっ)て相(あい)傾(かたむ)くる無(な)し。乃(すなわ)ち英雄(えいゆう)の心(こころ)を攬(と)り、衆(しゅう)と好悪(こうお)を同(おな)じうし、然(しか)る後(のち)に之(これ)に加(くわ)うるに権変(けんぺん)を以(もっ)てす。故(ゆえ)に計策(けいさく)に非(あら)ずんば、以(もっ)て嫌(けん)を決(けっ)し疑(ぎ)を定(さだ)むる無(な)し。譎(けつ)奇(き)に非(あら)ずんば、以(もっ)て姦(かん)を破(やぶ)り寇(こう)を息(や)むる無(な)し。陰謀(いんぼう)に非(あら)ずんば、以(もっ)て功(こう)を成(な)す無(な)し。
  • 攬 … 底本では「擥」に作る。「攬」の本字。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
  • 謀 … 『直解』では「計」に作る。
05 聖人體天、賢人法地、智者師古。是故三略爲衰世作。上略設禮賞、別姦雄、著成敗。中略差徳行、審權變。下略陳道徳、察安危、明賊賢之咎。故人主深曉上略、則能任賢擒敵。深曉中略、則能御將統衆。深曉下略、則能明盛衰之源、審治國之紀。人臣深曉中略、則能全功保身。
聖人(せいじん)は天(てん)を体(たい)し、賢人(けんじん)は地(ち)に法(のっと)り、智(ち)者(しゃ)は古(いにしえ)を師(し)とす。是(こ)の故(ゆえ)に三(さん)略(りゃく)は衰世(すいせい)の為(ため)に作(つく)る。上略(じょうりゃく)は礼(れい)賞(しょう)を設(もう)け、姦雄(かんゆう)を別(わか)ち、成敗(せいはい)を著(あらわ)す。中略(ちゅうりゃく)は徳行(とくこう)を差(さ)し、権変(けんぺん)を審(つまび)らかにす。下(げ)略(りゃく)は道徳(どうとく)を陳(の)べ、安(あん)危(あん)を察(さっ)し、賢(けん)を賊(そこな)うの咎(とが)を明(あき)らかにす。故(ゆえ)に人主(じんしゅ)、深(ふか)く上略(じょうりゃく)を暁(さと)れば、則(すなわ)ち能(よ)く賢(けん)を任(にん)じ敵(てき)を擒(とりこ)にす。深(ふか)く中略(ちゅうりゃく)を暁(さと)れば、則(すなわ)ち能(よ)く将(しょう)を御(ぎょ)し衆(しゅう)を統(す)ぶ。深(ふか)く下(げ)略(りゃく)を暁(さと)れば、則(すなわ)ち能(よ)く盛衰(せいすい)の源(みなもと)を明(あき)らかにし、治(ち)国(こく)の紀(き)を審(つまび)らかにす。人臣(じんしん)、深(ふか)く中略(ちゅうりゃく)を暁(さと)れば、則(すなわ)ち能(よ)く功(こう)を全(まっと)うし身(み)を保(たも)つ。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
06 夫高鳥死、良弓藏、敵國滅、謀臣亡。亡者非喪其身也。謂奪其威、廢其權也。封之於朝、極人臣之位、以顯其功、中州善國、以富其家、美色珍玩、以悦其心。夫人衆一合而不可卒離。權威一與而不可卒移。還師罷軍、存亡之階。故弱之以位、奪之以國。是謂霸者之略。、故霸者之作、其論駁也。存社稷、羅英雄者、中略之勢也。故世主秘焉。
夫(そ)れ高(こう)鳥(ちょう)死(し)して良弓(りょうきゅう)蔵(かく)れ、敵国(てきこく)滅(ほろ)びて謀臣(ぼうしん)亡(ほろ)ぶ。亡(ほろ)ぶとは、其(そ)の身(み)を喪(うしな)うに非(あら)ざるなり。其(そ)の威(い)を奪(うば)われ、其(そ)の権(けん)を廃(はい)せらるるを謂(い)うなり。之(これ)を朝(ちょう)に封(ほう)じ、人臣(じんしん)の位(くらい)を極(きわ)め、以(もっ)て其(そ)の功(こう)を顕(あらわ)し、中州(ちゅうしゅう)の善国(ぜんこく)、以(もっ)て其(そ)の家(いえ)を富(と)まし、美(び)色(しょく)珍玩(ちんがん)、以(もっ)て其(そ)の心(こころ)を悦(よろこ)ばしむ。夫(そ)れ人(じん)衆(しゅう)は一(ひと)たび合(がっ)すれば、卒(にわ)かに離(はな)す可(べ)からず。権(けん)威(い)は一(ひと)たび与(あた)うれば、卒(にわ)かに移(うつ)す可(べ)からず。師(し)を還(かえ)し軍(ぐん)を罷(や)むるは、存亡(そんぼう)の階(かい)なり。故(ゆえ)に之(これ)を弱(よわ)くするに位(くらい)を以(もっ)てし、之(これ)を奪(うば)うに国(くに)を以(もっ)てす。是(こ)れを覇(は)者(しゃ)の略(りゃく)と謂(い)う。故(ゆえ)に覇(は)者(しゃ)の作(おこ)るは、其(そ)の論駁(ろんばく)なり。社(しゃ)稷(しょく)を存(そん)し英雄(えいゆう)を羅(あみ)するは、中略(ちゅうりゃく)の勢(せい)なり。故(ゆえ)に世(せ)主(しゅ)は焉(これ)を秘(ひ)す。
  • 美 … 底本では「mojikyo_font_050864」に作る。「美」の本字。
  • 悦 … 底本では「説」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 權威 … 底本では「威權」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 駁 … 底本では「駮」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 世 … 『直解』では「勢」に作る。
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