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衛霊公第十五 17 子曰君子義以爲質章

396(15-17)
子曰、君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之。君子哉。
いわく、くんもっしつし、れいもっこれおこない、そんもっこれだし、しんもっこれす。くんなるかな。
現代語訳
  • 先生 ――「よくできた人は正義を根本とし、礼儀のある態度で、つつましく発表し、誠実にまとめあげる。人物だなあ。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「君子が事をすには、どうをもって土台とする。しかし道義一点いってんりで押し通そうとすると、人の感情を害してかえって道義が通らぬ故、礼をもってほどよくこれを行い、したがって言葉を出すにも謙遜けんそんをむねとし、言行げんこういっの信をもって道義をじょうじゅする。それでこそ君子なれ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「君子は道義を自分の本質とし、礼にかなってそれを実行にうつし、へりくだってそれを言葉にあらわし、誠意を貫いてその社会的実現を期する。それでこそ君子だ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 義 … 正義。道義。筋を通すこと。
  • 質 … 本質。根本。主義。
  • 礼 … 礼儀。伝統的な習慣。
  • 之 … 「行之」「出之」「成之」、三つとも「義」を指す。
  • 行 … 実行する。
  • 孫 … 謙遜。「孫」は「遜」に同じ。
  • 出 … 発言する。
  • 信 … 信義。誠意。社会的信用。
  • 成 … 完成する。達成する。
補説
  • 『注疏』に「此の章は君子の行いを論ずるなり」(此章論君子之行也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君子義以為質 … 『集解』に引く鄭玄の注に「義以て質と為すは、操行を謂うなり」(義以爲質、謂操行也)とある。操行は、品行のこと。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「義は、宜なり。質は、本なり。人の性同じからざるを識る。各〻其の宜しき所を以て本と為す」(義、宜也。質、本也。人識性不同。各以其所宜爲本)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「義以て質と為すは、操執して以て行う者は、当に義を以て体質と為すべきを謂う」(義以爲質、謂操執以行者、當以義爲體質)とある。また『集注』に「義とは、事を制するの本。故に以て質幹と為す」(義者、制事之本。故以爲質幹)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 礼以行之 … 『義疏』に「各〻宜しき所を以て本と為すと雖も、之を行うこと皆須らく礼にかなうべきなり」(雖各以所宜爲本、而行之皆須合禮也)とある。また『注疏』に「之をかざるに礼を以てし、然る後に之を行う」(文之以禮、然後行之)とある。
  • 孫以出之 … 『集解』に引く鄭玄の注に「孫以て之を出だすは、言語を謂う」(孫以出之、謂言語)とある。また『義疏』に「行い礼にかなうに及んで、こと之を出だすに必ず遜順ならしむるなり」(行及合禮、而言出之必使遜順也)とある。また『注疏』に「其の言語を孫順して以て之を出だす」(孫順其言語以出之)とある。
  • 孫 … 『義疏』では「遜」に作る。
  • 信以成之 … 『義疏』に「行い信にして礼にかないて、言遜順にして出塞す。終に須らく信以て之を成すべきなり」(行信合禮、而言遜順而出塞。終須信以成之也)とある。また『注疏』に「信を守りて以て之を成す」(守信以成之)とある。
  • 君子哉 … 『義疏』に「上の義の如くなれば、君子の行いを為すと謂う可きなり」(如上義、可謂爲君子之行也)とある。また『注疏』に「此の四つを能くする者は、君子と謂う可きかな」(能此四者、可謂君子哉)とある。また『集注』に「而して之を行うに必ず節文有り、之を出だすに必ず退遜を以てし、之を成すに必ず誠実在り。乃ち君子の道なり」(而行之必有節文、出之必以退遜、成之必在誠實。乃君子之道也)とある。
  • 『集注』に引く程顥または程頤の注に「義以て質と為すは、質幹の如く然り。礼もて此を行い、孫もて此を出だし、信もて此を成す。此の四句は、只だ是れ一事、義を以て本と為す」(義以爲質、如質幹然。禮行此、孫出此、信成此。此四句、只是一事、以義爲本)とある。
  • 『集注』に引く程顥の注に「敬以て内を直くすれば、則ち義以て外を方にす。義以て質と為せば、則ち礼以て之を行い、孫以て之を出だし、信以て之を成す」(敬以直内、則義以方外。義以爲質、則禮以行之、孫以出之、信以成之)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「論に曰く、聖門仁義を以て並べ称して、仁を大なりと為す。而るに此に義以て質と為すと曰う者は、何ぞや。蓋し義は聖人の大用、万事の其の理を得て、人道の禽獣に別なる所以なり。時有りて仁よりも重し。故に曰く、義以て上と為す、と。又た曰く、義に之れともしたがう、と。若し夫れ仏老の徒、道にたがう所以の者は、義の至重なるを知らざるが故なり、と」(論曰、聖門以仁義並稱、而仁爲大焉。而此曰義以爲質者、何也。蓋義者聖人之大用、萬事之所以得其理、而人道之別於禽獸也。有時而重於仁。故曰、義以爲上。又曰、義之與比。若夫佛老之徒、所以差道者、不知義之至重故也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「君子は、卿大夫を指す。而して朝聘の事を以て之を言う。蓋し朝聘の事は、当時の卿大夫の重務なり。仁なる者は、君道なり。義なる者は、臣道なり。故に政を語るときは則ち仁を言う。朝聘は君命を奉じて以て行う。臣の事なり。故に義以て質と為すと曰う。質は体質なり。鄭玄曰く、操行を謂う、と。之を失せり。君子朝聘の事、皆義を以て其の体質と為す。而うして朝聘に礼有り。故に礼以て之を行う。言辞は以て遜順ならざる可からず。故に孫以て之を出だす。鄭玄曰く、孫以て之を出だすは、言語を謂う、と。之を得たり。辞気を出だすというが如き、凡そ出だすと曰うは、皆言語なり。朝聘の事は信を貴ぶ。故に信以て之を成す。能く此の四者を行わば、君子の徳無しと雖も、亦た以て君子たる可し。故に君子なるかなと曰う。……朱子は又た孫を以て退孫と為し、信を誠実と為す。皆非なり。仁斎曰く、聖門仁義を以て並称す。……殊に知らず仁義並称するは、孟子よりはじまり、而して孔門子思ししに至って、礼義並称せしことを」(君子、指卿大夫。而以朝聘之事言之。蓋朝聘之事、當時卿大夫重務也。仁者、君道也。義者、臣道也。故語政則言仁。朝聘奉君命以行。臣之事也。故曰義以爲質。質體質也。鄭玄曰、謂操行。失之矣。君子朝聘之事、皆以義爲其體質。而朝聘有禮。故禮以行之。言辭不可以不遜順。故孫以出之。鄭玄曰、孫以出之、謂言語。得之矣。如出辭氣、凡曰出、皆言語也。朝聘之事貴信。故信以成之。能行此四者、雖無君子之德、亦可以爲君子。故曰君子哉。……朱子又以孫爲退孫、信爲誠實。皆非矣。仁齋曰、聖門以仁義並稱。……殊不知仁義並稱、昉自孟子、而孔門至子思、禮義並稱矣)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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