衛霊公第十五 9 子貢問爲仁章
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子貢問爲仁。子曰、工欲善其事、必先利其器。居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者。
子貢問爲仁。子曰、工欲善其事、必先利其器。居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者。
子貢、仁を為すことを問う。子曰く、工、其の事を善くせんと欲すれば、必ず先ず其の器を利にす。是の邦に居るや、其の大夫の賢者に事え、其の士の仁者を友とす。
現代語訳
- 子貢が人の道のふみかたをきく。先生 ――「しごとをうまくやるには、まず道具をよくする。どこの国に住んでいても、そこの家老のかしこい人につかえ、そこの家来のよくできた人とつきあうこと。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 子貢が仁を行う方法をおたずねした。孔子様がおっしゃるよう、「大工が善い仕事をしようと思えば、まず、のみをとぐようなもので、仁を行うにはまずもって自身の仁徳をみがかねばならぬ。それにはその国々で、大夫の賢い人をえらんでこれに事え、仁徳あるの士をえらんでこれを友とすることが肝要じゃ。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 子貢が仁を行なう道についてたずねた。先師がこたえられた。――
「大工はよい仕事をやろうと思うと、必ずまず自分の道具を鋭利にする。同様に、仁を行なうには、まず自分の身を磨かなければならない。それには、どこの国に住まおうと、その国の賢大夫を選んでこれに仕え、その国の仁徳ある士を選んでこれを友とするがよい」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 子貢 … 前520~前446。姓は端木、名は賜。子貢は字。衛の人。孔子より三十一歳年少の門人。孔門十哲のひとり。弁舌・外交に優れていた。また、商才もあり、莫大な財産を残した。ウィキペディア【子貢】参照。
- 為仁 … 仁徳を修めて実践すること。
- 工 … 大工などの職人。
- 善其事 … 自分の仕事を上手にしようとする。
- 利其器 … 道具を鋭利にする。道具を磨いて手入れをする。
- 居是邦 … ある国にいるとき。どの国にいても。
- 大夫 … 周代、諸侯国の家老。一国の重臣。
- 賢者 … 賢い人。
- 士 … 卿・大夫・士の士で、中堅の役人層を指す。
- 仁者 … 仁徳のある人。
補説
- 『注疏』に「此の章は仁を為すの法を明らかにするなり」(此章明爲仁之法也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 子貢 … 『史記』仲尼弟子列伝に「端木賜は、衛人、字は子貢、孔子より少きこと三十一歳。子貢、利口巧辞なり。孔子常に其の弁を黜く」(端木賜、衞人、字子貢、少孔子三十一歳。子貢利口巧辭。孔子常黜其辯)とある。ウィキソース「史記/卷067」参照。また『孔子家語』七十二弟子解に「端木賜は、字は子貢、衛人。口才有りて名を著す」(端木賜、字子貢、衞人。有口才著名)とある。ウィキソース「孔子家語/卷九」参照。
- 問為仁 … 『義疏』に「仁を為す人の法を問うなり」(問爲仁人之法也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「子貢仁を為さんことを欲するも、未だ其の法を知らず、故に之を問う」(子貢欲爲仁、未知其法、故問之)とある。
- 工欲善其事、必先利其器 … 『集解』に引く孔安国の注に「言うこころは工は利器を以て用と為す」(言工以利器爲用)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「将に仁術を為すに答えんと欲す。故に先ず為に譬えを設くるなり。工は、巧師なり。器は、斧斤の属なり。言うこころは巧師は巧芸般輸の若しと雖も、而れども作器利ならざれば、則ち巧事成らず。如し其の作事する所善からんと欲せば、必ず先ず磨きて其の器を利にするなり」(將欲答於爲仁術。故先爲設譬也。工、巧師也。器、斧斤之屬也。言巧師雖巧藝若般輸、而作器不利、則巧事不成。如欲其所作事善、必先磨利其器也)とある。また『注疏』に「将に仁を為すことに答えんとし、先ず為に譬えを設くるなり。若し百工其の為す所の事を善くせんと欲せば、当に先ず用うる所の器を脩利すべし」(將答爲仁、先爲設譬也。若百工欲善其所爲之事、當先脩利所用之器)とある。
- 居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者 … 『集解』に引く孔安国の注に「人は賢友を以て助けと為すなり」(人以賢友爲助也)とある。また『義疏』に「合わせ譬えて答えを成すなり。是は、猶お此のごときなり。言うこころは人賢才美質有りと雖も、而れども此の国に居住し、若し賢に事えず、仁を友とせずんば、則ち其の行い成らず。工器の利ならざるが如きなり。必ず行い成らんことを欲せば、当に此の国の大夫の賢者に事え、又た此の国の士の仁者を友とすべきなり。大夫は貴きが故に事うと云い、士は賤しきが故に友と云うなり。大夫に賢と言い、士に仁と云うは、之を互言するなり」(合譬成答也。是、猶此也。言人雖有賢才美質、而居住此國、若不事賢、不友於仁、則其行不成。如工器之不利也。必欲行成、當事此國大夫之賢者、又友此國士之仁者也。大夫貴故云事、士賤故云友也。大夫言賢、士云仁、互言之也)とある。また『注疏』に「此れ譬えを設くるなり。言うこころは工は器を利くするを以て用を為し、人は賢友を以て助けと為す。大夫は尊きが故に事と言い、士は卑しきが故に友と言う。大夫に賢と言い、士に仁と言うは、互文なり」(此設譬也。言工以利器爲用、人以賢友爲助。大夫尊故言事、士卑故言友。大夫言賢、士言仁、互文也)とある。また『集注』に「賢は、事を以て言い、仁は、徳を以て言う。夫子嘗て謂う、子貢己に若かざる者を悦ぶ、と。故に是れを以て之に告ぐ。其の厳憚切磋する所有りて以て其の徳を成さんと欲するなり」(賢、以事言、仁、以德言。夫子嘗謂、子貢悦不若己者。故以是告之。欲其有所嚴憚切磋以成其德也)とある。厳憚は、恐れ憚ること。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 仁者 … 『義疏』では「仁者也」に作る。
- 『集注』に引く程頤の注に「子貢仁を為さんことを問いて、仁を問うに非ざるなり。故に孔子之に告ぐるに仁を為すの資を以てするのみ」(子貢問爲仁、非問仁也。故孔子告之以爲仁之資而已)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「為は、猶お助のごときなり。猶お衛の君を為くの為のごとし。……工、其の器を利にせざれば、則ち其の事善ならず。人、賢師友無ければ、則ち其の徳成らず。薫陶漸磨の益、甚だ大なりと謂う可し」(爲、猶助也。猶爲衞君之爲。……工不利其器、則其事不善。人無賢師友、則其德不成。薫陶漸磨之益、可謂甚大)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「子貢仁を為るを問う。仁を為は、己を克くして礼を復むは仁を為るなりの如し。仁政を行うを謂うなり。程子曰く、仁を問うに非ざるなり。故に孔子之を告ぐるに仁を為すの資を以てするのみ、と。仁斎又た資の字に因りて為を訓じて助と為す。夫れ衛君を為くの為を助と訓ずる者は、其の去声たるを明らかにするなり。豈に義を異にせんや。倭人と謂う可きかな。蓋し子貢は智多く、自ら用うるの失有り。故に之に仁政を行わんと欲せば、必ず人才を須つことを告ぐるなり。其の大夫の賢者に事え、其の士の仁者を友とすとは、子貢の今日に拠りて之を言うのみ。子賤単父の宰と為る。父事する所の者三人、兄事する所の者五人、友とする所の者十一人、と。豈に然らざらんや。且つ先王民を安んずるの道、仁之を尽くせり。然れども勇智忠和種種の徳有る者は、仁必ず衆徳を待ちて而うして後成る。故に先王の道、仁之を尽くせり。而も未だ嘗て仁之を尽くすと言わざる者は、是れが為の故なり。故に王者の天下を治むるは、必ず人才を須ちて而うして後治まる。又た按ずるに、孔子仁を許すこと少なければ、則ち仁者は宜しく少なきが若かるべし。而るに此に其の士の仁者と曰う。是れ仁者も亦た得易きなり。蓋し其の大夫の賢者に事え、其の士の仁者を友とするも、亦た古語にして、孔子之を称するのみ」(子貢問爲仁。爲仁、如克己復禮爲仁。謂行仁政也。程子曰、非問仁也。故孔子告之以爲仁之資而已。仁齋又因資字而訓爲爲助。夫爲衞君之爲訓助者、明其爲去聲也。豈異義乎。可謂倭人哉。蓋子貢多智、有自用之失。故告之欲行仁政、必須人才也。事其大夫之賢者、友其士之仁者、據子貢之今日而言之耳。子賤爲單父宰。所父事者三人、所兄事者五人、所友者十一人。豈不然乎。且先王安民之道、仁盡之矣。然有勇智忠和種種之德者、仁必待衆德而後成焉。故先王之道、仁盡之矣。而未嘗言仁盡之者、爲是故。故王者之治天下、必須人才而後治。又按、孔子少許仁、則仁者宜若少。而此曰其士之仁者。是仁者亦易得也。蓋事其大夫之賢者、友其士之仁者、亦古語、而孔子稱之耳)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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