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憲問第十四 47 闕黨童子將命章

379(14-47)
闕黨童子將命。或問之曰、益者與。子曰、吾見其居於位也。見其與先生並行也。非求益者也。欲速成者也。
闕党けっとうどうめいおこなう。あるひとこれいていわく、えきするものか。いわく、われくらいるをるなり。先生せんせいならくをるなり。えきもとむるものあらざるなり。すみやかにらんことをほっするものなり。
現代語訳
  • 闕(ケツ)村出の少年が取りつぎ役をしている。だれかがそれについてきく。――「よくできる子ですか。」先生 ――「あれは一人まえの席にかけていましたよ。先輩と肩をならべて歩いていたんです。勉強するたちじゃない。はやくおとなになりたいんだ。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • けつという村の出身の少年が孔子様の家で取次役とりつぎやくをしているのを見て、ある人が、「先生が取次をおさせになるところをみると、よほど出来上がった少年とみえますな。」と言った。孔子様がおっしゃるよう、「イヤそうではありません。実はあの少年は生意気で困るのです。少年は座敷のすみにすわるべきものだのに、あれはおとなのくべき席にすわります。また、年長者と行くときにはうしろからついて行くべきものであるのに、あれはおとなとならんであるきます。さようなことでは、はやくおとなぶって速成そくせいあまんじ、たい晩成ばんせいを期するものとはいえませんから、行儀作法見習のために取次役をさせているのであります。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • けつという村の出身だった一少年が、先師の家で取次役をさせられていた。そこである人が、先師にたずねた。――
    「あの少年もよほど学問が上達したと見えますね」
    先師はこたえられた。――
    「いやそうではありません。私はあの少年がおとなの坐る席に坐っていたのを見ましたし、また先輩と肩をならべて歩くのを見ました。あの少年は学問の上達を求めているのでなく、早くおとなになりたがっているのです。それで実は取次でもやらして、仕込んでみたいと存じまして……」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 闕党 … 闕という村の名。「党」は、五百戸の村のこと。
  • 童子 … 元服前の少年。
  • 将命 … 「将」は「おこなう」と読む。命令を受けて来客の取り次ぎをする。
  • 或 … 「あるひと」と読む。
  • 益 … 進歩向上する。ものになる。
  • 其居於位 … 少年が大人の座る座席に座る。
  • 先生 … 年長者。先輩。ここでは教師や師匠の意ではない。
  • 並行 … 肩を並べて歩く。一歩下がって歩くのが作法。
  • 速成 … 早く物事を成し遂げる。早く一人前になろうとする。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人は当に少長の礼を行うべきを戒むるなり」(此章戒人當行少長之禮也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 闕党童子将命 … 『集解』に引く馬融の注に「闕党の童子命をおこなうとは、賓主の語を伝えて之に出入するなり」(闕黨之童子將命者、傳賓主之語出入之也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「五百家を党と為す。此の党に闕と名づく。故に闕党と云うなり。童子は、未だ冠せざる者の称なり。命を将うは、是れ賓主の辞を伝うるなり。闕党の中に一小児有り、能く賓主の辞を伝えて出入するを謂うなり」(五百家爲黨。此黨名闕。故云闕黨也。童子、未冠者之稱。將命、是傳賓主之辭。謂闕黨之中有一小兒、能傳賓主之辭出入也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「闕党は、党の名なり。童子は、未だ冠せざる者の称なり。命を将うは、賓主の語を伝えて出入するを謂うなり。時に闕党の童子能く賓主の命を伝うるなり」(闕黨、黨名。童子、未冠者之稱。將命、謂傳賓主之語出入。時闕黨之童子能傳賓主之命也)とある。また『集注』に「闕党は、党の名なり。童子は、未だ冠せざる者の称なり。命を将うは、賓主の言を伝うるを謂う」(闕黨、黨名。童子、未冠者之稱。將命、謂傳賓主之言)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 将命 … 『義疏』では「将命矣」に作る。
  • 或問之曰、益者与 … 『義疏』に「或ひと小児の辞を伝うるを見る。故に孔子に問いて云う、此の童子にして辞を伝う。是れ自ら進益の道を求むるか、と」(或見小兒傳辭。故問孔子云、此童子而傳辭。是自求進益之道也與)とある。また『注疏』に「或る人其の童子の能く命を将うを見る、故に孔子に問いて曰く、此の童子は是れ自ら進益の道を求むるか、と」(或人見其童子能將命、故問孔子曰、此童子是自求進益之道也與)とある。また『集注』に「或る人此の童子学に進益有り。故に孔子之をして命を伝えしめ、寵を以て之を異とするを疑うなり」(或人疑此童子學有進益。故孔子使之傳命、以寵異之也)とある。
  • 子曰、吾見其居於位也 … 『集解』の何晏の注に「童子は隅坐するに位無し。成人は乃ち位有るなり」(童子隅坐無位。成人乃有位也)とある。また『義疏』に「孔子答えて云う、其れ益を求むるの事に非ざるなり。礼に童子隅坐するも、別に位有ること無し。而るに此の童子譲らず。乃ち或る人並びて位に居るなり」(孔子答云、其非求益之事也。禮童子隅坐、無有別位。而此童子不讓。乃與或人竝居位也)とある。
  • 見其与先生並行也 … 『集解』に引く包咸の注に「先生は、成人なり。並び行くは、たがいて後に在らざるなり」(先生、成人也。竝行、不差在後也)とある。また『義疏』に「先生とは、成人、己に先んずるの生を謂うなり。師を謂うに非ざるなり。礼に、父のよわいには随行し兄の歯には雁行す、と。此れ童子行くに長に譲らず。故に先生と並び行くなりと云う」(先生者、成人、謂先己之生也。非謂師也。禮父之齒隨行、兄之齒雁行。此童子行不讓於長。故云與先生竝行也)とある。雁行は、少し遅れて行くこと。また『集注』に「礼に、童子当に隅坐して随行すべし」(禮、童子當隅坐隨行)とある。
  • 非求益者也。欲速成者也 … 『集解』に引く包咸の注に「礼に違いて、速やかに成らんことを欲する者なり。則ち益を求むる者に非ざるなり」(違禮、欲速成者也。則非求益者也)とある。また『義疏』に「孔子又た云う、此の童子既に位に居りて並び行けば、則ち自ら進益の道を求むるに非ず。正に是れ速やかに成人ならんと欲するのみ。礼に違いて速やかに成らんことを欲する者は、是れ益を求むるの道に非ざるなり、と」(孔子又云、此童子既居位竝行、則非自求進益之道。正是欲速成人耳。違禮欲速成者、非是求益之道也)とある。また『注疏』に「孔子或る人に答えて言う、此の童子は進益を求むる者に非ざるなり、乃ち是れ速やかに成人ならんと欲する者なり。知るは、礼にては、童子は隅坐するの位無く、成人は乃ち位有り。今吾れ此の童子を見るに、其れ成人の位に居る。礼にては、父のよわいには随行し、兄の歯には雁行す。今吾れ此の童子を見るに、其れ先生・成人なる者と並び行き、たがいて後に在らず、謙に違い礼を越ゆ、故に速やかに成人ならんと欲す者にして、益を求むるに非ざるを知るなり、と」(孔子答或人言、此童子非求進益者也、乃是欲速成人者也。知者、禮、童子隅坐無位、成人乃有位。今吾見此童子、其居於成人之位。禮、父之齒隨行、兄之齒鴈行。今吾見此童子、其與先生成人者並行、不差在後、違謙越禮、故知欲速成人者、非求益也)とある。また『集注』に「孔子言う、吾れ此の童子を見るに、此の礼に循わず。能く益を求むるに非ず。但だ速やかに成らんと欲するのみ、と。故に之を使令の役に給し、長少の序を観しめ、揖遜ゆうそんの容を習わしむ。蓋し抑えて之を教うる所以にして、寵して之を異とするに非ざるなり」(孔子言、吾見此童子、不循此禮。非能求益。但欲速成爾。故使之給使令之役、觀長少之序、習揖遜之容。蓋所以抑而教之、非寵而異之也)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「論に曰く、夫子の童子に於ける、豈に甚だ寛に過ぐること無からんや。蓋し聖人の人を教うるや、開導誘掖ゆうえきを以て務めと為して、束縛せつを以て、事と為さず。これを樹を種うるに譬う、幹を屈して枝をわだかむる者は、其の観るものを悦ばすに足ると雖も、然れども其の材に達するを見ず。しんの間に生ずる者は、人力を煩わさざれども、自ずから棟梁の材有り」(論曰、夫子於童子、豈無甚過寛乎。蓋聖人之教人也、以開導誘掖爲務、而不以束縛羈紲、爲事。譬諸種樹、屈幹蟠枝者、雖足悦其觀、然不見其達材。生於岑蔚間者、不煩人力、自有棟梁之材)とある。誘掖は、脇から導き助けること。羈紲は、手綱。岑蔚は、山の峰で木が茂った所。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「仁斎先生曰く、夫子の童子に於ける、……寛に過ぐるというを以て之をもくす可からざるなり、と。味わい有るかな其の之を言うこと。……朱子おもえらく、或る人疑う此の童子、学に進益有り、故に孔子之をしてを命を伝えしめ、以て之をちょうす、と。非なり。或る人孔子の時に在りて、亦た必ず謁をつかさどるは童子の職たることを知る。豈に此を以て之を寵異すと為さんや。亦た其の位に居るを見、其の先生と並び行くを見る、故に其の益者なるを以ての故に先生・長者進めて之と友たるかと疑う。是れ問う所以なり。……益者は、即ち益者三友なり。益者を求むは、友に取るなり。進益の義に非ず」(仁斎先生曰、夫子於童子、……不可以過寛目之也。有味乎其言之。……朱子謂、或人疑此童子、學有進益、故孔子使之傳命、以寵異之。非也。或人在孔子之時、亦必知典謁爲童子之職。豈以此爲寵異之乎。亦見其居於位也、見其與先生並行也、故疑其以益者故先生長者進而與之友。是所以問也。……益者、即益者三友也。求益者、取於友也。非進益之義)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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