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子罕第九 25

230(09-25)
子曰、三軍可奪帥也。匹夫不可奪志也。
いわく、三軍さんぐんすいうばきなり。ひっこころざしうばからざるなり。
現代語訳
  • 先生 ――「集団は、大将を入れかえてもいい。個人は、意志をうばうわけにはいかぬ。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「大軍で守っている大将をとりこにすることはできても、ひとりの人間の志を動かすことはできない。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「大軍の主将でも、それを捕虜にできないことはない。しかし、一個の平凡人でも、その人の自由な意志をうばうことはできない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 三軍 … 大軍のこと。一軍は一万二千五百人。三軍は三万七千五百人。周代の制度では、天子は六軍、諸侯は三軍を持つものと規定されていた。
  • 帥 … 総大将。
  • 可奪 … 奪うことができる。
  • 匹夫 … もとの意味は「身分の低い男」であるが、ここでは「一人の男」の意。「三軍」に対応させている。
  • 志 … こころざし。意思。
  • 不可奪 … 変えさせたり、奪い取ることはできない。
  • 匹夫不可奪志 … 故事成語「匹夫も志を奪うべからず」参照。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人の志を守りて移らざるを言うなり」(此章言人守志不移也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 三軍可奪帥也。匹夫不可奪志也 … 『集解』に引く孔安国の注に「三軍はおおしと雖も、人心は一に非ざれば、則ち其の将帥は之を奪いて取る可し。匹夫は微なりと雖も、苟くも其の志を守れば、得て奪う可からざるなり」(三軍雖衆、人心非一、則其將帥可奪之而取。匹夫雖微、苟守其志、不可得而奪也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此れ人能く志を守れば、独夫と雖も亦た奪う可からざるを明らかにするなり。若し其の心堅からざれば、衆しと雖も必ず傾く。故に三軍を奪う可し。匹夫をばたがうること無きなり。いわゆる匹夫たる者は、言うこころは其れ賤し、但だ夫婦相配匹するのみ。又た云う、古えには人質にして、衣服たんきょうなり、二人の衣裳唯だ共に一匹を用う、故に匹夫匹婦と曰うなり、と」(此明人能守志、雖獨夫亦不可奪。若其心不堅、雖衆必傾。故三軍可奪。匹夫無回也。謂爲匹夫者、言其賤、但夫婦相配匹而已也。又云、古人質、衣服短狹、二人衣裳唯共用一匹、故曰匹夫匹婦也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「万二千五百人を軍と為す。帥は、将軍を謂うなり。匹夫は、庶人を謂うなり。三軍は衆しと雖も、人心一ならずんば、則ち其の将帥も奪いて之を取る可し。匹夫は微なりと雖も、いやしくも其の志を守れば、得て奪う可からざるなり。士大夫已上にはしょうよう有り。庶人は賤しければ、但だ夫婦相匹配するのみ、故に匹夫と云う」(萬二千五百人爲軍。帥、謂將軍也。匹夫、謂庶人也。三軍雖衆、人心不一、則其將帥可奪而取之。匹夫雖微、苟守其志、不可得而奪也。士大夫已上有妾媵。庶人賤、但夫婦相匹配而已、故云匹夫)とある。妾媵は、諸侯の家に嫁入りするときの、付き添いの女のこと。
  • 『集注』に引く侯仲良の注に「三軍の勇は人に在り。匹夫の志は己に在り。故に帥は奪う可きも、志は奪う可からず。し奪う可くんば、則ち亦た之を志と謂うに足らず」(三軍之勇在人。匹夫之志在己。故帥可奪、而志不可奪。如可奪、則亦不足謂之志矣)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ人の志無かる可からざるを言うなり。夫れ三軍はおおしと雖も、人心一ならざれば、則ち其の帥をも奪いて之を取る可し。匹夫は微なりと雖も、苟くも其の志を守らば、則ち得て奪う可からざるなり。志のたっとぶ可きこと此くの如し」(此言人之不可無志也。夫三軍雖衆、人心不一、則其帥可奪而取之。匹夫雖微、苟守其志、則不可得而奪也。志之可尚也如此)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「此れ人君の為にして之を言う、其の匹夫・ひっを侮らざらんことを欲せり。後儒は知らず、誤って学者の其の志を立つることを欲すと謂う。儱侗ろうとうなるかな」(此爲人君而言之、欲其不侮匹夫匹媍焉。後儒不知、誤謂欲學者之立其志。儱侗哉)とある。儱侗は、ぼんやりとしてはっきりしないさま。無知。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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