送友人(薛濤)
送友人
友人を送る
友人を送る
水國蒹葭夜有霜
水国の蒹葭 夜 霜有り
- 水国 … 水の多い土地。成都を指す。成都は、四川省の省都。ウィキペディア【成都市】参照。劉宋の顔延之「始安郡より都に還るとき、張湘州と巴陵城楼に登る作」詩に「水国は地の嶮なるものを周らし、河山は信に重復す」(水國周地嶮、河山信重復)とある。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。
- 蒹葭 … 蘆のまだ生長しきっていないもの。ひめよし。『詩経』秦風「蒹葭」に「蒹葭蒼蒼たり、白露霜と為る」(蒹葭蒼蒼、白露爲霜)とある。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。その毛伝に「興なり。蒹は、薕なり。葭は、蘆なり。蒼蒼は、盛んなるなり。白露凝戻して霜と為り、然る後に歳事成るは、国家は礼を待ちて、然る後に興るに興す」(興也。蒹、薕。葭、蘆也。蒼蒼、盛也。白露凝戾爲霜、然後歲事成、興國家待禮、然後興)とある。薕は、すだれよし。また、その鄭箋に「蒹葭は衆草の中に在りて、蒼蒼然として彊く盛んなり。白露凝戻して霜と為るに至れば、則ち成りて黄なり。興するは、衆民の襄公の政令に従わざる者、周の礼を得て以て之を教うれば、則ち服するに喩う」(蒹葭在衆草之中、蒼蒼然彊盛。至白露凝戾爲霜、則成而黃。興者、喩衆民之不從襄公政令者、得周禮以教之、則服)とある。ウィキソース「毛詩正義/卷六」参照。また、その集伝に「蒹は、萑に似て細く、高さ数尺。又た之を薕と謂う。葭は、蘆なり」(蒹、似萑而細、高數尺。又謂之薕。葭、蘆也)とある。ウィキソース「詩經集傳/卷之三」参照。
月寒山色共蒼蒼
月寒くして 山色 共に蒼蒼
- 山色 … 山の色合い。山の景色。北宋の蘇軾「湖上に飲す、初めは晴れ後に雨ふる二首」詩(其二)に「水光 瀲灧として 晴れて方に好く、山色 空濛として 雨も亦た奇なり」(水光瀲灧晴方好、山色空濛雨亦奇)とある。水光は、水面の輝き。瀲灧は、小波が静かにゆれ動いて光りきらめくさま。ウィキソース「飲湖上初晴後雨」参照。
- 共 … 霜の降りた蒹葭・寒々とした月・山色など、すべてともに。
- 蒼蒼 … 月の光に照らされて青白く見えるさま。『詩経』秦風「蒹葭」の「蒹葭蒼蒼たり」の句から思い浮かべたもの。上記【蒹葭】の注参照。『史記』天官書に「正月、斗は牽牛と与に晨に東方に出づ。名づけて監徳と曰う。色蒼蒼として光有り」(正月與斗牽牛晨出東方。名曰監德。色蒼蒼有光)とある。ウィキソース「史記/卷027」参照。
誰言千里自今夕
誰か言う 千里 今夕よりすと
- 誰言 … 誰が言うだろうか、いや誰も言わない。反語。北周の庾信「詠懐に擬す二十七首」詩(其二十六)に「誰か言う 気は世を蓋うと、晨に起きて帳中に歌う」(誰言氣蓋世、晨起帳中歌)とある。気は世を蓋うは、わが意気は天下を蓋い尽くす。項羽「垓下の歌」を踏まえている。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷125」参照。
- 千里 … 千里の別れ。千里は、非常に遠い道のり。『荘子』胠篋篇に「足跡は諸侯の境に接し、車軌は千里の外に結ぶ」(足跡接乎諸侯之境、車軌結乎千里之外)とある。胠篋は、箱を開く。転じて、こそ泥のこと。車軌は、車輪の跡。ウィキソース「莊子/胠篋」参照。
- 自今夕 … 今晩から始まる。「越人歌」(『玉台新詠』巻九)に「今夕何の夕べぞ、舟を中流に搴く」(今夕何夕兮、搴舟中流)とある。中流は、川の真ん中。搴は、ひき出す。漕ぎ出す。ウィキソース「越人歌」参照。
離夢杳如關塞長
離夢は杳として関塞の如く長からん
- 離夢 … 離別の夢。別れた人の夢。ここでは、遠くへ行ったあなたを見る夢。南朝梁の江淹「別れの賦」(『文選』巻十六)に「離夢の躑躅たるを知り、別魂の飛揚するを意う」(知離夢之躑躅、意別魂之飛揚)とあり、その劉良注に「行子の離夢を意い知り、躑躅して進まず」(意知行子離夢、躑躅不進)とある。躑躅は、行っては止まり、行っては止まりして進まない様子。双声の語。別魂は、別れた人の魂。行子は、旅人。ウィキソース「別賦」「六臣註文選 (四庫全書本)/卷16」参照。
- 杳 … はるかに遠いさま。前漢の楊雄「甘泉の賦」(『文選』巻七)に「上天の縡、杳として旭卉たり」(上天之縡、杳旭卉兮)とあり、その李善注に「縡は、事なり。杳は、深遠なり」(縡、事也。杳、深遠也)とある。旭卉は、測り難いこと。ウィキソース「昭明文選/卷7」参照。
- 関塞 … 国境の関所としての塞。『漢書』賈山伝に「昔者、秦の政は力もて万国を并せ、富天下を有ち、六国を破りて以て郡県と為し、長城を築きて以て関塞と為す」(昔者、秦政力幷萬國、富有天下、破六國以爲郡縣、築長城以爲關塞)とある。ウィキソース「漢書/卷051」参照。
- 塞 … 『全唐詩』には「一作路」と注する。『薛濤詩』『名媛詩帰』『才調集』『万首唐人絶句』では「路」に作る。「関路」ならば、関所への道の意。
- 長 … ここでは、距離的に長く、とても遠いということ。
テキスト
- 『全唐詩』巻八百三(排印本、中華書局、1960年)
- 『薛濤詩』([清]馮兆年輯、『翠琅玕館叢書』第四集所収)
- 『薛涛詩箋』(張篷舟箋、四川人民出版社、1981年)
- 『名媛詩帰』巻十三([明]鍾惺編、明刊本、内閣文庫蔵)
- 『才調集』巻十(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
- 『万首唐人絶句』七言・巻六十五(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
こちらもオススメ!
| 歴代詩選 | |
| 古代 | 前漢 |
| 後漢 | 魏 |
| 晋 | 南北朝 |
| 初唐 | 盛唐 |
| 中唐 | 晩唐 |
| 北宋 | 南宋 |
| 金 | 元 |
| 明 | 清 |
| 唐詩選 | |
| 巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
| 巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
| 巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
| 巻七 七言絶句 | |
| 詩人別 | ||
| あ行 | か行 | さ行 |
| た行 | は行 | ま行 |
| や行 | ら行 | |