>   漢詩   >   歴代詩選:中唐   >   送友人(薛濤)

送友人(薛濤)

送友人
友人ゆうじんおく
薛濤せっとう
  • 五言絶句。霜・蒼・長(下平声陽韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷803」参照。
  • 友人 … 誰であるかは不明。
  • 送 … 見送る。
  • 薛濤 … 768~831。中唐の女流詩人。長安の人。あざな洪度こうたく。良家の出であったが成都へ移った後、父が亡くなり生活が苦しくなったため妓女となった。白居易・劉禹錫などの文人と交際があり、特に元稹と親しかったという。深紅色の小型詩箋、薛濤箋を考案した。『薛濤詩』一巻がある。ウィキペディア【薛濤】参照。
水國蒹葭夜有霜
水国すいこくけん よる しも
  • 水国 … 水の多い土地。成都を指す。成都は、四川省の省都。ウィキペディア【成都市】参照。劉宋の顔延之「始安郡より都に還るとき、張湘州と巴陵城楼に登る作」詩に「水国は地の嶮なるものをめぐらし、河山はまことに重復す」(水國周地嶮、河山信重復)とある。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。
  • 蒹葭 … あしのまだ生長しきっていないもの。ひめよし。『詩経』秦風「蒹葭」に「蒹葭蒼蒼たり、白露霜と為る」(蒹葭蒼蒼、白露爲霜)とある。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。その毛伝に「興なり。蒹は、れんなり。葭は、あしなり。蒼蒼は、盛んなるなり。白露ぎょうれいして霜と為り、然る後に歳事成るは、国家は礼を待ちて、然る後に興るに興す」(興也。蒹、薕。葭、蘆也。蒼蒼、盛也。白露凝戾爲霜、然後歲事成、興國家待禮、然後興)とある。薕は、すだれよし。また、その鄭箋に「蒹葭は衆草の中に在りて、蒼蒼然としてつよく盛んなり。白露凝戻して霜と為るに至れば、則ち成りて黄なり。興するは、衆民の襄公の政令に従わざる者、周の礼を得て以て之を教うれば、則ち服するに喩う」(蒹葭在衆草之中、蒼蒼然彊盛。至白露凝戾爲霜、則成而黃。興者、喩衆民之不從襄公政令者、得周禮以教之、則服)とある。ウィキソース「毛詩正義/卷六」参照。また、その集伝に「蒹は、かんに似て細く、高さ数尺。又た之をれんと謂う。葭は、蘆なり」(蒹、似萑而細、高數尺。又謂之薕。葭、蘆也)とある。ウィキソース「詩經集傳/卷之三」参照。
月寒山色共蒼蒼
つきさむくして さんしょく とも蒼蒼そうそう
  • 山色 … 山の色合い。山の景色。北宋の蘇軾「湖上に飲す、初めは晴れ後に雨ふる二首」詩(其二)に「水光すいこう 瀲灧れんえんとして 晴れてまさに好く、山色 空濛くうもうとして 雨も亦た奇なり」(水光瀲灧晴方好、山色空濛雨亦奇)とある。水光は、水面の輝き。瀲灧は、小波さざなみが静かにゆれ動いて光りきらめくさま。ウィキソース「飲湖上初晴後雨」参照。
  • 共 … 霜の降りたけん・寒々とした月・山色など、すべてともに。
  • 蒼蒼 … 月の光に照らされて青白く見えるさま。『詩経』秦風「蒹葭」の「蒹葭蒼蒼たり」の句から思い浮かべたもの。上記【蒹葭】の注参照。『史記』天官書に「正月、斗は牽牛とともあしたに東方に出づ。名づけて監徳と曰う。いろ蒼蒼として光有り」(正月與斗牽牛晨出東方。名曰監德。色蒼蒼有光)とある。ウィキソース「史記/卷027」参照。
誰言千里自今夕
たれう せん 今夕こんせきよりすと
  • 誰言 … 誰が言うだろうか、いや誰も言わない。反語。北周の庾信「詠懐に擬す二十七首」詩(其二十六)に「誰か言う 気は世をおおうと、あしたに起きて帳中ちょうちゅうに歌う」(誰言氣蓋世、晨起帳中歌)とある。気は世を蓋うは、わが意気は天下をおおい尽くす。項羽「垓下の歌」を踏まえている。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷125」参照。
  • 千里 … 千里の別れ。千里は、非常に遠い道のり。『荘子』きょきょう篇に「足跡は諸侯の境に接し、しゃは千里の外に結ぶ」(足跡接乎諸侯之境、車軌結乎千里之外)とある。胠篋は、箱を開く。転じて、こそ泥のこと。車軌は、車輪の跡。ウィキソース「莊子/胠篋」参照。
  • 自今夕 … 今晩から始まる。「越人歌」(『玉台新詠』巻九)に「今夕なんの夕べぞ、舟を中流にく」(今夕何夕兮、搴舟中流)とある。中流は、川の真ん中。搴は、ひき出す。漕ぎ出す。ウィキソース「越人歌」参照。
離夢杳如關塞長
離夢りむようとして関塞かんさいごととおからん
  • 離夢 … 離別の夢。別れた人の夢。ここでは、遠くへ行ったあなたを見る夢。南朝梁の江淹「別れの賦」(『文選』巻十六)に「離夢のてきちょくたるを知り、別魂べっこんの飛揚するをおもう」(知離夢之躑躅、意別魂之飛揚)とあり、その劉良注に「こうの離夢をおもい知り、躑躅して進まず」(意知行子離夢、躑躅不進)とある。躑躅は、行っては止まり、行っては止まりして進まない様子。双声の語。別魂は、別れた人の魂。行子は、旅人。ウィキソース「別賦」「六臣註文選 (四庫全書本)/卷16」参照。
  • 杳 … はるかに遠いさま。前漢の楊雄「甘泉の賦」(『文選』巻七)に「上天のこと、杳としてきょくたり」(上天之縡、杳旭卉兮)とあり、その李善注に「縡は、事なり。杳は、深遠なり」(縡、事也。杳、深遠也)とある。旭卉は、測り難いこと。ウィキソース「昭明文選/卷7」参照。
  • 関塞 … 国境の関所としてのとりで。『漢書』賈山伝に「昔者むかし、秦の政は力もて万国をあわせ、富天下をたもち、六国を破りて以て郡県と為し、長城を築きて以て関塞と為す」(昔者、秦政力幷萬國、富有天下、破六國以爲郡縣、築長城以爲關塞)とある。ウィキソース「漢書/卷051」参照。
  • 塞 … 『全唐詩』には「一作路」と注する。『薛濤詩』『名媛詩帰』『才調集』『万首唐人絶句』では「路」に作る。「関路」ならば、関所への道の意。
  • 長 … ここでは、距離的に長く、とても遠いということ。
テキスト
  • 『全唐詩』巻八百三(排印本、中華書局、1960年)
  • 『薛濤詩』([清]馮兆年輯、『翠琅玕館叢書』第四集所収)
  • 『薛涛詩箋』(張篷舟箋、四川人民出版社、1981年)
  • 『名媛詩帰』巻十三([明]鍾惺編、明刊本、内閣文庫蔵)
  • 『才調集』巻十(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻六十五(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行