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春望詞四首其三(薛濤)

春望詞四首其三
しゅんぼうしゅさん
薛濤せっとう
  • 五言絶句。老・草(上声皓韻)、渺(上声篠韻)通用。
  • ウィキソース「全唐詩/卷803」参照。
  • 春望 … 春のながめ。『全唐詩』には「一作望春」と注する。
  • 詞 … ここでは、「うた」の意。宋代に流行した「ツー」(韻文の一つ。一句の長短が不ぞろいで、俗語を多く使うもの)のことではない。
  • 薛濤 … 768~831。中唐の女流詩人。長安の人。あざな洪度こうたく。良家の出であったが成都へ移った後、父が亡くなり生活が苦しくなったため妓女となった。白居易・劉禹錫などの文人と交際があり、特に元稹と親しかったという。深紅色の小型詩箋、薛濤箋を考案した。『薛濤詩』一巻がある。ウィキペディア【薛濤】参照。
風花日將老
ふう まさいんとするに
  • 風花 … 風に吹かれて散る花。「晋の白紵はくちょの歌辞三首」(其三)に「陽春白日 風花かんばし、すうすれば明月、舞えば瑶璫ようとう」(陽春白日風花香、趨歩明月舞瑤璫)とある。趨歩は、小走りに走ること。瑶璫は、び玉が揺れ、耳飾りのぎょくが光ること。ウィキソース「樂府詩集/055卷」参照。
  • 日 … 日ごとに。
  • 将老 … (風花が)老いようとしている。終わりに近づこうとしている。西晋の陸機「歎逝たんせいの賦」(『文選』巻十六)に「末契まっけい後生こうせいに託し、将に老いんとしてかくと為る」(託末契於後生、余將老而爲客)とある。末契は、友人の端くれ。また、年長者が若い人と交際すること。ウィキソース「歎逝賦」参照。
佳期猶渺渺
佳期かき 渺渺びょうびょう
  • 佳期 … よい時節。ここでは、(恋人と会うための)うれしい約束の日。『楚辞』九歌・湘夫人に「白薠はくはんに登りて望みをせ、佳期をともにせんとして夕べに張る」(登白薠兮騁望、與佳期兮夕張 )とある。白薠は、白い浮き草。白はますげ。ウィキソース「九歌」参照。また、南朝斉の謝朓の楽府「王主簿の思う所有りに同ず」(『玉台新詠』巻十、『楽府詩集』十七)に「佳期期すれども未だ帰らず、望望としてめいを下る」(佳期期未歸、望望下鳴機)とある。鳴機は、織り鳴らしていたはた。ウィキソース「同王主簿有所思」参照。
  • 猶 … 「なお」と読み、「やはり」「それでもなお」と訳す。以前からの状況が続いている意を示す。『孟子』滕文公上篇に「猶お以て善国と為す可し」(猶可以爲善國)とある。善国は、善の行われる立派な国。ウィキソース「孟子/滕文公上」参照。
  • 渺渺 … はるかに遠いさま。南朝斉の謝朓「江丞の北のかた瑯琊城をまもるに和す」詩(『古詩紀』巻七十)に「蒼江は忽ち渺渺たり、馬を駆りて復た悠悠たり」(蒼江忽渺渺、驅馬復悠悠)とある。蒼江は、あおい水の長江。ウィキソース「和江丞北戍琅邪城」参照。
不結同心人
むすばず 同心どうしんひと
  • 不結 … (恋人とは)結ばれない。
  • 同心人 … 心を同じくする恋人。「古詩十九首」(其六、『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)に「同心にして離居せば、ゆうしょうして以てついに老いなん」(同心而離居、憂傷以終老)とある。離居は、離ればなれに暮らすこと。憂傷は、思い悩み悲しむこと。ウィキソース「涉江採芙蓉」参照。
空結同心草
むなしくむすぶ 同心どうしんくさ
  • 同心草 … 草を同心結びに結ぶこと。同心結びは、ひもの結び方の一種で、夫婦の愛情の固い結びつきに喩えられる。「銭唐せんとうしょう」(『玉台新詠』巻十)に「何れの処にか同心を結ぶ、西陵松柏のもと」(何處結同心、西陵松柏下)とある。銭唐は、浙江省杭州市にあった地名。蘇小は、晋代または南斉時代の名妓。ウィキソース「錢唐蘇小歌」参照。
余説
この詩には佐藤春夫と那珂秀穂の名訳がある。
 しづ心なく散る花に
 なげきぞ長きわがたもと
 なさけをつくす君をなみ
 つむやうれひのつくづくし
 (佐藤春夫『車塵集』)
 風に花ちるたそがれの
 春のなごりぞほのかなる
 思ほゆ君にわが逢はで
 むなしく結ぶめをと艸
 (那珂秀穂『支那歴朝閨秀詩集』)
テキスト
  • 『全唐詩』巻八百三(排印本、中華書局、1960年)
  • 『薛濤詩』([清]馮兆年輯、『翠琅玕館叢書』第四集所収)
  • 『薛涛詩箋』(張篷舟箋、四川人民出版社、1981年)
  • 『名媛詩帰』巻十三([明]鍾惺編、明刊本、内閣文庫蔵)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻二十(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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