春望詞四首其三(薛濤)
春望詞四首其三
春望の詞四首其の三
春望の詞四首其の三
風花日將老
風花 日に将に老いんとするに
佳期猶渺渺
佳期 猶お渺渺
- 佳期 … よい時節。ここでは、(恋人と会うための)うれしい約束の日。『楚辞』九歌・湘夫人に「白薠に登りて望みを騁せ、佳期を与にせんとして夕べに張る」(登白薠兮騁望、與佳期兮夕張 )とある。白薠は、白い浮き草。白はますげ。ウィキソース「九歌」参照。また、南朝斉の謝朓の楽府「王主簿の思う所有りに同ず」(『玉台新詠』巻十、『楽府詩集』十七)に「佳期期すれども未だ帰らず、望望として鳴機を下る」(佳期期未歸、望望下鳴機)とある。鳴機は、織り鳴らしていた機。ウィキソース「同王主簿有所思」参照。
- 猶 … 「なお」と読み、「やはり」「それでもなお」と訳す。以前からの状況が続いている意を示す。『孟子』滕文公上篇に「猶お以て善国と為す可し」(猶可以爲善國)とある。善国は、善の行われる立派な国。ウィキソース「孟子/滕文公上」参照。
- 渺渺 … はるかに遠いさま。南朝斉の謝朓「江丞の北のかた瑯琊城を戍るに和す」詩(『古詩紀』巻七十)に「蒼江は忽ち渺渺たり、馬を駆りて復た悠悠たり」(蒼江忽渺渺、驅馬復悠悠)とある。蒼江は、蒼い水の長江。ウィキソース「和江丞北戍琅邪城」参照。
不結同心人
結ばず 同心の人
- 不結 … (恋人とは)結ばれない。
- 同心人 … 心を同じくする恋人。「古詩十九首」(其六、『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻一)に「同心にして離居せば、憂傷して以て終に老いなん」(同心而離居、憂傷以終老)とある。離居は、離れ離れに暮らすこと。憂傷は、思い悩み悲しむこと。ウィキソース「涉江採芙蓉」参照。
空結同心草
空しく結ぶ 同心の草
- 同心草 … 草を同心結びに結ぶこと。同心結びは、ひもの結び方の一種で、夫婦の愛情の固い結びつきに喩えられる。「銭唐蘇小歌」(『玉台新詠』巻十)に「何れの処にか同心を結ぶ、西陵松柏の下」(何處結同心、西陵松柏下)とある。銭唐は、浙江省杭州市にあった地名。蘇小は、晋代または南斉時代の名妓。ウィキソース「錢唐蘇小歌」参照。
余説
この詩には佐藤春夫と那珂秀穂の名訳がある。
しづ心なく散る花に
なげきぞ長きわが袂
情をつくす君をなみ
つむや愁のつくづくし
(佐藤春夫『車塵集』)
なげきぞ長きわが袂
情をつくす君をなみ
つむや愁のつくづくし
(佐藤春夫『車塵集』)
風に花ちるたそがれの
春のなごりぞほのかなる
思ほゆ君にわが逢はで
むなしく結ぶめをと艸
(那珂秀穂『支那歴朝閨秀詩集』)
春のなごりぞほのかなる
思ほゆ君にわが逢はで
むなしく結ぶめをと艸
(那珂秀穂『支那歴朝閨秀詩集』)
テキスト
- 『全唐詩』巻八百三(排印本、中華書局、1960年)
- 『薛濤詩』([清]馮兆年輯、『翠琅玕館叢書』第四集所収)
- 『薛涛詩箋』(張篷舟箋、四川人民出版社、1981年)
- 『名媛詩帰』巻十三([明]鍾惺編、明刊本、内閣文庫蔵)
- 『万首唐人絶句』五言・巻二十(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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