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郡中即事(羊士諤)

郡中即事
郡(ぐん)中(ちゅう)即(そく)事(じ)
羊(よう)士(し)諤(がく)
  • 七言絶句。殘・寒・干(上平声寒韻)。
  • ウィキソース「郡中即事三首」参照。
  • 詩題 … 「荷(はす)の花(はな)を翫(もてあそ)ぶ」(翫荷花)とするテキストもある。『全唐詩』では「郡中即事三首其二」に作り、二首目の句末に「此首題一作翫荷花」と注する。『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『唐百家詩選』では「郡中即事二首其一」に作る。
  • 郡中 … 郡の役所の中で。
  • 即事 … 目の前の情景や事柄に即して、見たままに詠じた詩。
  • この詩は、郡の役所での宴席で、見たままの情景を即興的に詠んだもの。作者が資州(四川省)の刺史に左遷されていた頃の作と思われる。
  • 羊士諤 … 756~?。中唐の詩人。泰山(山東省)の人。貞元元年(785)、進士に及第。順宗のとき、宣州(安徽省)巡官となったが、王叔文に睨まれて、汀(てい)州(しゅう)寧化県(福建省寧化県)の尉に左遷された。憲宗の元和初年(807頃)、宰相李吉甫の推薦で監察御史に抜擢されたが、また宰相を批判したため、資州(四川省)の刺史に左遷された。『羊士諤詩集』一巻がある。ウィキペディア【羊士諤】参照。
紅衣落盡暗香殘
紅(こう)衣(い) 落(お)ち尽(つ)くして 暗香(あんこう)残(のこ)る
  • 紅衣 … 蓮の赤い花びら。蓮の花びらを赤い着物に喩えたもの。北周の庾信「彭(ほう)城(じょう)館(かん)に入(い)る」詩に「槐庭(かいてい)緑(りょく)穂(ほ)垂(た)れ、蓮(れん)浦(ぽ)紅(こう)衣(い)落(お)つ」(槐庭垂緑穗、蓮浦落紅衣)とある。蓮浦は、蓮の生えた水辺。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷125」参照。
  • 暗香 … どこからともなく漂ってくるかすかな香り。そこはかとない香り。ほのかな香り。暗は、外に現れないもの。隠れているもの。ここでは、蓮の花の香りをいう。晩唐のの許渾「故友の旧居を過(よぎ)る」詩(『全唐詩』巻五百三十)に「高竹疏翠を動かし、早蓮暗香を飄(ひるがえ)す」(高竹動疏翠、早蓮飄暗香)とある。ウィキソース「過故友舊居」参照。
葉上秋光白露寒
葉(よう)上(じょう)の秋(しゅう)光(こう) 白(はく)露(ろ)寒(さむ)し
  • 葉上 … 丸く大きな蓮の葉の上。
  • 秋光 … 秋の光。北周の庾信「霊法師の昆明池に遊ぶに和す」詩の第二首に「秋(しゅう)光(こう)晩天(ばんてん)に麗(うるわ)しく、鷁(げき)舸(か)中(ちゅう)川(せん)に泛(うか)ぶ」(秋光麗晚天、鷁舸泛中川)とある。晩天は、夕方の空。鷁舸は、鷁首の飾りのある船。中川は、中位の川。ウィキソース「文苑英華 (四庫全書本)/卷0164」参照。
  • 白露 … しらつゆ。白い夜露。露の美称。『詩経』秦風・蒹(けん)葭(か)に「蒹葭蒼蒼たり、白露霜と為る」(蒹葭蒼蒼、白露爲霜)とある。蒹葭は、丈の低い葦。ひめよし。ウィキソース「詩經/蒹葭」参照。
  • 寒 … 寒々と輝いている。
越女含情已無限
越女(えつじょ)情(じょう)を含(ふく)むこと已(すで)に限(かぎ)り無(な)し
  • 越女 … 越(今の浙江省)の国の女。越の国は西施を代表として、美人の産地といわれた。ここでは郡の役所の宴席での妓女を指す。『史記』楚世家に「荘王(そうおう)、左(ひだり)に鄭(てい)姫(き)を抱(いだ)き、右(みぎ)に越女(えつじょ)を抱(いだ)き、鐘(しょう)鼓(こ)の間(あいだ)に坐(ざ)す」(莊王左抱鄭姬、右抱越女、坐鐘鼓之閒)とある。ウィキソース「史記/卷040」参照。
  • 越 … 『古今詩刪』では「趙」に作る。
  • 含情 … 感情をおさえて胸の中にしまっておき、そぶりでそれとなく表すこと。ここでは秋の愁いを胸に抱くこと。南朝梁の江淹「冠軍建平王に従い、廬山の香炉峰に登る」詩(『文選』巻二十二)に「蘭(らん)を藉(し)いて素(もと)より意(い)多(おお)く、風(かぜ)に臨(のぞ)んで黙(もく)して情(じょう)を含(ふく)む」(藉蘭素多意、臨風默含情)とある。ウィキソース「從冠軍建平王登廬山香爐峰」参照。
  • 已無限 … (愁いが)もはや限りないほど深い。
莫教長袖倚闌干
長袖(ちょうしゅう)をして闌干(らんかん)に倚(よ)らしむる莫(な)かれ
  • 長袖 … 長い舞の袖。舞衣(まいぎぬ)の嬌艶なるさまをいう。『韓非子』五蠹(ごと)篇に「鄙(ひ)諺(げん)に曰(いわ)く、長袖(ちょうしゅう)は善(よ)く舞(ま)い、多(た)銭(せん)は善(よ)く賈(か)う、と」(鄙諺曰、長袖善舞、多錢善賈)とある。ウィキソース「韓非子/五蠹」参照。
  • 闌干 … 欄干。手摺(す)り。古楽府「西洲曲」(『楽府詩集』巻七十二・雑曲歌辞、『玉台新詠』巻五・宋版不収)に「楼は高きも望みて見えず、日を尽くす欄干の頭(ほとり)」(樓高望不見、盡日欄干頭)とある。ウィキソース「樂府詩集/072卷」参照。『唐五十家詩集本』では「欄杆」に作る。『万首唐人絶句』では「欄干」に作る。すべて同じ。
  • 莫教~倚闌干 … 欄干に凭(もた)れさせてはならない。末(うら)枯(が)れた蓮の姿を眺めたら、よりいっそう愁いを増すであろうから。倚は、寄りかかる。もたれる。
  • 教 … 「(~をして)…せしむ」と読み、「(~に)…させる」と訳す。使役の助動詞。
  • 莫 … 「~(こと)なかれ」と読み、「~してはいけない」「~するな」と訳す。禁止の意を表す。「勿」も同じ。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻三百三十二(排印本、中華書局、1960年)
  • 『羊士諤集』巻下(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻五十二([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐百家詩選』巻十一([北宋]王安石編、世界書局、1979年)
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