>   漢詩   >   唐詩選   >   巻七 七絶   >   嘉陵駅(武元衡)

嘉陵駅(武元衡)

嘉陵驛
嘉(か)陵(りょう)駅(えき)
武(ぶ)元衡(げんこう)
  • 七言絶句。川・烟・天(下平声先韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷317」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『文苑英華』『唐詩別裁集』では「嘉陵駅に題す」(題嘉陵驛)に作る。
  • 嘉陵駅 … 今の四川省広元市の西にあった宿駅。『大清一統志』保寧府に「嘉陵古駅は、広元県の西三里に在り、唐時は駅道なり」(嘉陵古驛、在廣元縣西三里、唐時驛道也)とある。ウィキソース「欽定大清一統志 (四庫全書本)/卷298」参照。
  • 駅 … 街道筋にあって、旅人を泊めたり、荷物を運ぶ馬や人夫などの交換をする所。宿駅。宿場。うまや。
  • この詩は、元和二年(807)、剣南節度使として蜀の成都へ赴く途中で作ったもの。難所として有名な蜀の桟道を行く辛さを詠んでいる。
  • 武元衡 … 758~815。中唐の詩人。河南緱(こう)氏(し)(河南省偃(えん)師(し)市の南)の人。字(あざな)は伯蒼(はくそう)。建中四年(783)、進士に及第。徳宗に才を認められ、華原県令・比部員外郎・右司郎中・御史中丞・太子右庶子を歴任した。憲宗が即位すると、戸部事郎に進み、元和二年(807)正月、門下侍郎・同中書門下平章事(宰相職)に抜擢された。同年十月、宰相のまま剣南西川節度使に任ぜられ、蜀に赴いた。元和八年(813)、長安に戻され宰相の実務に復帰した。元和十年(815)六月三日未明、出勤のため靖安里の私邸を出てまもなく暗殺された。『武元衡集』三巻がある。ウィキペディア【武元衡】参照。
悠悠風旆遶山川
悠悠(ゆうゆう)たる風旆(ふうはい) 山川(さんせん)を遶(めぐ)り
  • 悠悠 … ここでは旗がゆったりと揺れ動くさま。『詩経』小雅・車攻に「蕭蕭(しょうしょう)として馬(うま)鳴(いなな)き、悠悠(ゆうゆう)たる旆旌(はいせい)」(蕭蕭馬鳴、悠悠旆旌)とある。旆旌は、旗。旆は、端が二つに分かれた旗。旌は、鳥の羽を竿の先につけた旗。ウィキソース「詩經/車攻」参照。
  • 風旆 … 風に翻る旗。風旗とも。旆は、末端が二つに分かれて燕尾の形をした軍旗。『爾雅』釈天篇の注に「帛を以て旐(ちょう)末(まつ)を継続して燕尾を為す者、旆と名づく」(以帛繼續旐末爲燕尾者、名旆)とある。ウィキソース「爾雅註疏/卷06」参照。
  • 山川 … (険しい)山や川。
  • 遶 … めぐりながら進む。
山驛空濛雨作煙
山駅(さんえき) 空濛(くうもう)として 雨(あめ) 煙(けむり)と作(な)る
  • 山駅 … 山中の宿駅。山中の宿場。
  • 空濛 … 霧雨が降って、ぼんやりと薄暗いさま。畳韻の語。南朝斉の謝朓「朝雨を観る」詩(『文選』巻三十)に「空濛として薄霧の如く、散漫として軽埃(けいあい)に似たり」(空濛如薄霧、散漫似輕埃)とある。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
  • 濛 … 『唐詩品彙拾遺』では「狭」に作る。
  • 雨作煙 … 霧雨が煙のように立ち込めている。
  • 作 … 『全唐詩』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』では「似」に作る。
路半嘉陵頭已白
路(みち)は嘉(か)陵(りょう)に半(なか)ばにして 頭(こうべ)已(すで)に白(しろ)し
  • 路 … 長安から任地の成都までの旅路。
  • 半嘉陵 … ここ嘉陵駅まで来てやっと半分となったが。
  • 頭已白 … 苦労のせいで髪の毛はすでに真っ白になってしまった。
蜀門西更上靑天
蜀門(しょくもん) 西(にし)のかた 更(さら)に青天(せいてん)に上(のぼ)らん
  • 蜀門 … 山名。四川省剣閣県の北にある剣門山(大剣山・小剣山)。または四川省と陝西省との境界の地。初唐の陳子昂「西還して散関に至り、喬補闕知之に答う」詩に「蜀門茲(ここ)より始まり、雲山方(まさ)に浩然たり」(蜀門自茲始、雲山方浩然)とある。ウィキソース「西還至散關答喬補闕知之」参照。
  • 西 … 「にしのかた」と読み、「西に向かって」「また西のほうで」と訳す。盛唐の王維「元二の安西に使いするを送る」詩に「西のかた 陽関を出づれば 故人無からん」(西出陽關無故人)とある。ウィキソース「送元二使安西」参照。
  • 更上 … 『全唐詩』では「上更」に作り、「一作更上」と注する。『文苑英華』には「集作上更」と注する。『唐五十家詩集本』では「上更」に作る。
  • 上青天 … それは大空に登るように困難なことである。盛唐の李白「蜀道難」に「噫吁嚱(ああ)、危ういかな高いかな、蜀道の難きは、青天に上るよりも難し」(噫吁嚱、危乎高哉、蜀道之難、難於上靑天)とある。ウィキソース「蜀道難 (李白)」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻三百十七(排印本、中華書局、1960年)
  • 『武元衡集』巻下(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『文苑英華』巻二百九十八(影印本、中華書局、1966年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙拾遺』巻四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩別裁集』巻二十([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢 魏
晋 南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
金 元
明 清
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行