嘉陵駅(武元衡)
嘉陵驛
嘉陵駅
嘉陵駅
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻三百十七、『武元衡集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、64頁)、『文苑英華』巻二百九十八、『唐詩品彙拾遺』巻四、『唐詩別裁集』巻二十、『唐人万首絶句選』巻四、他
- 七言絶句。川・烟・天(平声先韻)。
- ウィキソース「漢苑行二首」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『文苑英華』『唐詩別裁集』『唐人万首絶句選』では「嘉陵駅に題す」(題嘉陵驛)に作る。
- 嘉陵駅 … 今の四川省広元市の西にあった宿駅。『大清一統志』保寧府に「嘉陵古駅は、広元県の西三里に在り、唐時は駅道なり」(嘉陵古驛、在廣元縣西三里、唐時驛道也)とある。ウィキソース「欽定大清一統志 (四庫全書本)/卷298」参照。
- 駅 … 街道筋にあって、旅人を泊めたり、荷物を運ぶ馬や人夫などの交換をする所。宿駅。宿場。うまや。
- この詩は、元和二年(807)、剣南節度使として蜀の成都へ赴く途中で作ったもの。難所として有名な蜀の桟道を行く辛さを詠んでいる。
- 武元衡 … 758~815。中唐の詩人。河南緱氏(河南省偃師市の南)の人。字は伯蒼。建中四年(783)、進士に及第。徳宗に才を認められ、華原県令・比部員外郎・右司郎中・御史中丞・太子右庶子を歴任した。憲宗が即位すると、戸部事郎に進み、元和二年(807)正月、門下侍郎・同中書門下平章事(宰相)に抜擢された。同年十月、宰相のまま剣南西川節度使に任ぜられ、蜀に赴いた。元和八年(813)、長安に戻され宰相の実務に復帰した。元和十年(815)六月三日未明、出勤のため靖安里の私邸を出てまもなく暗殺された。『武元衡集』三巻がある。ウィキペディア【武元衡】参照。
悠悠風旆遶山川
悠悠たる風旆 山川を遶り
- 悠悠 … ここでは旗がゆったりと揺れ動くさま。『詩経』小雅・車攻の詩に「蕭蕭として馬鳴き、悠悠たる旆旌」(蕭蕭馬鳴、悠悠旆旌)とある。旆旌は、旗。旆は、端が二つに分かれた旗。旌は、鳥の羽を竿の先につけた旗。ウィキソース「詩經/車攻」参照。
- 風旆 … 風に翻る旗。風旗とも。旆は、末端が二つに分かれて燕尾の形をした軍旗。『爾雅』釈天篇の注に「帛を以て旐末を継続して燕尾を為す者、旆と名づく」(以帛繼續旐末爲燕尾者、名旆)とある。ウィキソース「爾雅註疏/卷06」参照。
- 山川 … (険しい)山や川。
- 遶 … めぐりながら進む。『全唐詩』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『文苑英華』『唐詩別裁集』『唐人万首絶句選』では「繞」に作る。同義。
山驛空濛雨作煙
山駅 空濛として 雨 煙と作る
- 山駅 … 山中の宿駅。山中の宿場。
- 空濛 … 霧雨が降って、ぼんやりと薄暗いさま。畳韻の語。謝朓の「朝雨を観る」(『文選』巻三十)に「空濛として薄霧の如く、散漫として軽埃に似たり」(空濛如薄霧、散漫似輕埃)とある。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
- 濛 … 『唐詩品彙拾遺』では「狭」に作る。
- 雨作煙 … 霧雨が煙のように立ち込めている。
- 煙 … 『唐詩選』『文苑英華』では「烟」に作る。異体字。
- 作 … 『全唐詩』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』では「似」に作る。
路半嘉陵頭已白
路は嘉陵に半ばにして 頭已に白し
- 路 … 長安から任地の成都までの旅路。
- 半嘉陵 … ここ嘉陵駅まで来てやっと半分となったが。
- 頭已白 … 苦労のせいで髪の毛はすでに真っ白になってしまった。
蜀門西更上靑天
蜀門 西のかた 更に青天に上らん
- 蜀門 … 山名。四川省剣閣県の北にある剣門山(大剣山・小剣山)。または四川省と陝西省との境界の地。陳子昂「西還至散関答喬補闕知之」に「蜀門茲より始まり、雲山方に浩然たり」(蜀門自茲始、雲山方浩然)とある。ウィキソース「西還至散關答喬補闕知之」参照。
- 西 … 「にしのかた」と読み、「西のほうで」と訳す。
- 更上 … 『全唐詩』では「上更」に作り、「一作更上」とある。『文苑英華』には「集作上更」とある。『唐五十家詩集本』では「上更」に作る。
- 上青天 … それは大空に登るように困難なことである。李白の「蜀道難」に「噫吁嚱、危ういかな高いかな、蜀道の難きは、青天に上るよりも難し」(噫吁嚱、危乎高哉、蜀道之難、難於上靑天)とある。ウィキソース「蜀道難 (李白)」参照。
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