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清平調詞三首 其二(李白)

清平調詞三首 其二
清平せいへい調ちょう三首さんしゅ
はく
  • 七言絶句。香・腸・粧(平声陽韻)。
  • ウィキソース「清平調 (一枝紅艷露凝香)」参照。
  • 詩題 … 『唐詩三百首』『楽府詩集』『唐詩別裁集』では「清平調三首 其二」に作る。
  • 清平調 … 楽府題の一つ。清平調詞は、清平調という楽曲の歌詞。『楽府詩集』巻八十・近代曲辞に、李白のこの三首のみ採録されている。詳しくは「第一首」参照。
  • この詩は、玄宗皇帝が楊貴妃と興慶宮の沈香亭で牡丹をながめて楽しんだとき、作者に命じて作らせたもの。楊貴妃の美しさを牡丹の花に喩えて詠んでいる。三首連作の第二首。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、天宝二年(743)、四十三歳の作。詳しくは「第一首」参照。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
一枝濃艷露凝香
いっ濃艶のうえん つゆ かおりをらす
  • 一枝 … ひと枝の花。『荘子』逍遙遊篇に「鷦鷯しょうりょう深林にくうも、一枝に過ぎず」(鷦鷯巢於深林、不過一枝)とある。鷦鷯は、みそさざい。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
  • 濃艶 … 牡丹の花のあでやかで美しい様子。貴妃の美しさに喩えたもの。
  • 濃 … 『説文解字』巻十一上、水部に「濃は、露多きなり」(濃、露多也)とある。ウィキソース「說文解字/11」参照。『全唐詩』では「穠」に作り、「一作紅」とある。『楽府詩集』『宋本』『繆本』『郭本』『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「紅」に作る。『唐詩三百首』『蕭本』『許本』『劉本』では「穠」に作る。『王本』では「紅」に作り、「許本作濃」とある。
  • 艶 … 「豔」は「艶」の正字。『説文解字』巻五上、豐部に「豔は、好にしてたけたかし」(豔、好而長也)とある。ウィキソース「說文解字/05」参照。『全唐詩』『楽府詩集』『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『劉本』『古今詩刪』では「豔」に作る。
  • 露凝香 … 花に降りた露が花の香りを凝縮させている。
雲雨巫山枉斷腸
うん ざん むなしくだんちょう
  • 雲雨巫山 … そうぎょくの「高唐の賦」(『文選』巻十九)に見える故事を踏まえる。楚の襄王が宋玉と雲夢うんぼうの離宮に遊び、高唐の楼観を眺めた。楼観の上にだけ雲が湧き起こっており、襄王は宋玉に「あれはどういう気であるか」と尋ね、宋玉は説明して、「これがいわゆる朝雲です。先王の懐王が高唐の楼観に遊ばれた時、疲れて昼寝をされていると、夢の中で神女が現れ、契りを結ばれました。神女は帰りがけに、『自分はざんの神女で、朝は雲に、夕方は雨になります』と告げました。懐王が朝起きて巫山を見ると言葉通りに雲が湧き起こっていました。そこで懐王は神女のために廟を建て、朝雲廟と名付けられました」と言ったという。ウィキソース「高唐賦」参照。
  • 枉 … いたずらに。無駄なことをする。
  • 断腸 … 非常に悲しい様子。はらわたがちぎれるほどの悲痛な思い。後漢の蔡琰さいえんの「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第五拍に「かりぶことたかく、はるかにしてたずがたし、むなしくはらわたちておも愔愔あんあんたり」(雁飛高兮邈難尋、空斷腸兮思愔愔)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。また魏の文帝(曹丕)の「燕歌行」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻九)に「群燕ぐんえんかえかりみなみかける、きみ客遊かくゆうおもうておもはらわたつ」(群燕辭歸雁南翔、念君客遊思斷腸)とある。ウィキソース「燕歌行 (曹丕)」参照。
  • 腸 … 『楽府詩集』では「膓」に作る。異体字。
借問漢宮誰得似
借問しゃもんす かんきゅう たれるをたる
  • 借問 … ちょっとお尋ねしますが。
  • 漢宮 … 漢の宮殿の中で。漢の後宮の美女の中で。
  • 誰得似 … いったい誰が貴妃に似ていたであろうか。
可憐飛燕倚新粧
れんえん しんしょう
  • 可憐 … 愛らしい。可愛らしい。張相『詩詞曲語辞匯釈』の「可憐(一)」の条に「可憐は、猶お可喜と云うがごとし、可愛なり。……此は飛燕新粧の可愛を言うなり」(可憐、猶云可喜也、可愛也。……此言飛燕新粧之可愛)とある。梁の簡文帝の「戯れに麗人に贈る」(『玉台新詠』巻七)に「麗妲れいだつようしょうと、ともはられんしょう」(麗妲與妖嬙、共拂可憐妝)とある。ウィキソース「戲贈麗人」参照。
  • 飛燕 … 漢の趙飛燕のこと。卑賤の出だったが、妹とともに絶世の美女だった。成帝の寵愛を受け、半婕妤をおしのけて皇后にまで昇りつめた。身のこなしが軽やかだったため、飛燕と呼ばれた。『趙飛燕外伝』に「ちょうこう飛燕、父はふう万金ばんきんなり。……長じて繊便せんべん軽細けいさいにして、挙止翩然へんぜんたり。人これを飛燕と謂う」(趙后飛燕、父馮萬金。……長而纖便輕細、舉止翩然。人謂之飛燕)とある。ウィキソース「趙飛燕外傳」参照。ウィキペディア【趙飛燕】参照。
  • 燕 … 『楽府詩集』『宋本』『繆本』では「鷰」に作る。同義。
  • 新粧 … 化粧したての姿。陳の後主の「玉樹後庭花」(『楽府詩集』巻四十七・清商曲辞)に「麗宇芳林高閣に対し、新粧の艶質はもとより傾城」(麗宇芳林對高閣、新粧艷質本傾城)とある。ウィキソース「樂府詩集/047卷」参照。
  • 粧 … 『全唐詩』『楽府詩集』『古今詩刪』では「妝」に作る。同義。
  • 倚 … たのみとする。自負する。誇りとする。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『唐詩三百首注疏』巻六下(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百六十四(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『楽府詩集』巻八十・近代曲辞(北京図書館蔵宋刊本影印、中津濱渉『樂府詩集の研究』所収)
  • 『李太白文集』巻五(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻五(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻五(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻五(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻五(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻五(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻五(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻五十九(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、54頁)
  • 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
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