左掖梨花(丘為)
左掖梨花
左掖の梨花
左掖の梨花
- ウィキソース「左掖梨花 (丘爲)」参照。
- この詩は、門下省の庭に咲いた梨の花を詠んだもので、友人の王維・皇甫冉とともに作ったもの。『全唐詩』には、題下に「王維・皇甫冉の賦に同じ」(同王維、皇甫冉賦)と注する。王維の詩は、同題(『全唐詩』巻一百二十八)で次のように詠んでいる。「閑かに階辺の草に灑ぎ、軽やかに箔外の風に随う。黄鶯 弄び足らず、銜えて未央宮に入る」(閑灑階邊草、輕隨箔外風。黃鶯弄不足、銜入未央宮)。ウィキソース「左掖梨花 (王維)」参照。また、皇甫冉の詩は、「王給事の『禁省梨花の詠』に和す」(『全唐詩』巻二百五十)と題して次のように詠んでいる。「巧みに解く人の笑うを迎え、還た能く蝶の飛ぶを乱す。春風 時に戸に入りて、幾片か朝衣に落つ」(巧解迎人笑、還能亂蝶飛。春風時入戶、幾片落朝衣)。ウィキソース「和王給事禁省梨花詠」参照。
- 左掖 … 門下省の別名。大明宮中の宣政殿の左側(宮殿は必ず南面するので左は東側となる)に位置したことからこう呼ぶ。中書省は宣政殿の右側(西側)にあったので右掖という。掖は、もと宮門の両脇の小門のこと。
- 梨花 … 梨の花。南朝梁の蕭子顕の楽府「燕歌行」(『玉台新詠』巻九、『楽府詩集』巻三十二、『文苑英華』巻一百九十六)に「洛陽の梨花落つること雪の如し、河辺の細草細きこと茵の如し」(洛陽梨花落如雪、河邊細草細如茵)とある。茵は、敷物。「細如茵」は、『文苑英華』では「青如茵」に作る。ウィキソース「燕歌行 (蕭子顯)」参照。
- 丘為 … 694~789。盛唐の詩人。嘉興(浙江省嘉興市)の人。長い間科挙の試験に合格せず、天宝二年(743)、ようやく進士に及第。官は太子右庶子に至り、八十余歳で退官した。九十六歳で卒した。王維や劉長卿と親しかった。ウィキペディア【丘為】参照。
冷艷全欺雪
冷艶 全く雪を欺き
- 冷艶 … 冷やかな美しさ。冷たい艶やかさ。ここでは、白い梨の花の形容。隋の煬帝「江南を望む八首」詩(『古詩紀』巻一百三十)の第五首に「水殿春寒うして冷艶幽なり」(水殿春寒幽冷艷)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷130」参照。また、北宋の蘇軾「十一月二十六日、松風亭下、梅花盛んに開く」詩に「豈に惟だ幽光夜色を留むるのみならんや、直ちに恐る冷艶の冬温を排するを」(豈惟幽光留夜色、直恐冷豔排冬温)とある。ウィキソース「十一月二十六日松風亭下梅花盛開」参照。
- 欺雪 … 雪かと見まがう。晩唐の鄭谷「杏花」詩に「梅の雪を欺くを学ばず、軽紅碧池を照らす」(不學梅欺雪、輕紅照碧池)とある。軽紅は、薄紅色。ウィキソース「全唐詩/卷674」参照。
餘香乍入衣
余香 乍ち衣に入る
- 余香 … 漂ってくる微かな香り。南朝梁の劉孝威「雨を望む」詩(『古詩紀』巻九十八)に「浴禽は毳を飄落し、荇に風ふきて余香を散ず」(浴禽飄落毳、風荇散餘香)とある。浴禽は、水浴びしている鳥。荇は、水草の名。若葉は食用とする。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷098」参照。
- 乍入衣 … いつの間にか着物に染み込む。南朝梁の湘東王蕭繹(のちの元帝)「劉上黄に和す」詩(『玉台新詠』巻七)に「柳絮時に酒に依り、梅花乍ち衣に入る」(柳絮時依酒、梅花乍入衣)とある。劉上黄は、上黄の長官である劉氏の意。劉は、姓。名は不詳。上黄は、地名。故城は現在の湖北省南漳県の東南五十里。ウィキソース「和劉上黃」参照。
- 乍 … 「たちまち」と読み、「急に」「さっと」と訳す。『孟子』公孫丑上篇に「今、人乍ち孺子の将に井に入らんとするを見れば、皆な怵惕・惻隠の心有り」(今人乍見孺子將入於井、皆有怵惕惻隱之心)とある。孺子は、幼児。怵惕は、気がかりでひやひやするさま。惻隠は、かわいそうだと思い同情すること。ウィキソース「孟子/公孫丑上」参照。
春風且莫定
春風 且く定まること莫かれ
- 春風 … 春の風。春の暖かい風。戦国時代、楚の宋玉「登徒子好色の賦」(『文選』巻十九)に「春風を寤り、鮮栄を発す」(寤春風兮、發鮮榮)とある。登徒子は、人名。登徒は、復姓。子は、大夫の称。鮮栄は、美しい花。ウィキソース「登徒子好色賦」参照。また、南朝斉の謝朓の楽府「永明楽十首」(『楽府詩集』巻七十五)の第三首に「秋雲 甘露を湛え、春風 芝草を散ず」(秋雲湛甘露、春風散芝草)とある。ウィキソース「樂府詩集/075卷」参照。また「子夜四時歌七十五首 夏歌二十首」(『楽府詩集』巻四十四)の第十三首に「昔別るるとき春風起こり、今還りて夏雲浮かぶ」(昔別春風起、今還夏雲浮)とある。ウィキソース「樂府詩集/044卷」参照。また、南朝梁の沈約「高きに登って春を望む」詩(『玉台新詠』巻五)に「春風雑樹を揺かし、葳蕤緑にして且つ丹し」(春風搖雜樹、葳蕤綠且丹)とある。葳蕤は、草木の花の美しいさま。ウィキソース「登高望春」参照。
- 且莫定 … しばらく吹きやまないでおくれ。定は、ここでは風が吹きやむこと。
- 且莫 … 「しばらく~なかれ」と読み、「まあ~するな」「しばらく~するな」と訳す。禁止・命令の意を示す。西晋の陸機の楽府「呉趨行」(『文選』巻二十八、『楽府詩集』巻六十四)に「楚妃をば且く歎ずる勿かれ、斉娥をば且く謳う莫かれ」(楚妃且勿歎、齊娥且莫謳)とある。楚妃は、楚の荘王の妃、樊姫。斉娥は、斉后。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。
吹向玉階飛
吹いて玉階に向って飛ばん
- 吹向玉階飛 … 花びらがお前に吹かれて、玉の階へ飛ぼうとしているのだから。
- 玉階 … 玉をちりばめた階段。宮殿の立派な階段のこと。後漢の班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「是に於いて玄墀釦砌、玉階彤庭あり」(於是玄墀釦砌、玉階彤庭)とある。玄墀は、黒漆などを塗りこんだ階下の庭。釦砌は、玉をちりばめた軒下の石畳。彤庭は、朱色の中庭。ウィキソース「西都賦」参照。また、後漢の張衡「西京の賦」(『文選』巻二)に「金戺玉階、彤庭煇煇たり」(金戺玉階、彤庭煇煇)とある。金戺は、金色の石畳。煇煇は、きらきらと輝くさま。ウィキソース「西京賦」参照。また、南朝梁の呉均の楽府「行路難二首」(『玉台新詠』巻九)の第一首に「玉階の行路に細草生じ、金鑪の香炭変じて灰と成る」(玉階行路生細草、金鑪香炭變成灰)とある。ウィキソース「行路難 (吳均)」参照。
詩型・韻字
- 五言絶句。
- 衣・飛(上平声微韻)。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百二十九(排印本、中華書局、1960年)
- 『万首唐人絶句』五言・巻十二(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
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