返照(杜甫)
返照
返照
返照
- 七言律詩。昏・痕・村・門・魂(平声元韻)。
- 返照 … 「はんしょう」とも読む。夕日の照り返しの光。入り日の反射光線。返景。返映。
- 『全唐詩』巻230所収。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
楚王宮北正黄昏
楚王宮北 正に黄昏
- 楚王宮北 … 「楚王宮の北」と訓読してもよい。楚王の離宮の北のあたり。巫山県の西北にあった。
- 黄昏 … たそがれ。
白帝城西過雨痕
白帝城西 過雨の痕
- 白帝城西 … 「白帝城の西」と訓読してもよい。「白帝城」は四川省奉節県の東、白帝山の上にあった城。ウィキペディア【白帝城】参照。
- 過雨 … 通り雨。
返照入江翻石壁
返照 江に入って石壁に翻り
- 返照 … 入り日の光。
- 江 … 揚子江。
- 石壁 … 揚子江の両岸の岩壁。
歸雲擁樹失山村
帰雲 樹を擁して山村を失す
- 帰雲 … 雲は山中の洞穴に生じ、夕方にはそこへ帰って行くものと考えられていた。
- 擁樹 … 樹々をおし包む。
- 失山村 … 山辺の村を見えなくする。
衰年病肺唯高枕
衰年 肺を病んで唯だ枕を高くし
- 衰年 … 老年。
- 病肺 … 喘息を病むこと。『全唐詩』では「肺病」に作る。
- 高枕 … 普通は安心してよく眠ることの意であるが、ここでは何もしないで寝てばかりいること。
絶塞愁時早閉門
絶塞 時を愁えて早く門を閉ず
- 絶塞 … 遠く離れた辺境のとりで。夔州を指す。
- 愁時 … 世の中が乱れていることを心配する。
不可久留豺虎亂
久しく豺虎の乱に留まるべからず
- 豺虎 … 山犬と虎。凶悪な人間にたとえる。
南方實有未招魂
南方 実に未だ招かれざるの魂有り
- 南方 … 夔州地方を指す。
- 未招魂 … 都に呼び戻されずにさまよっている魂、すなわち作者自身を指す。『楚辞』招魂の故事を踏まえる。
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