宣政殿退朝晩出左掖(杜甫)
宣政殿退朝晩出左掖
宣政殿より退朝し、晩に左掖を出づ
宣政殿より退朝し、晩に左掖を出づ
- 七言律詩。旗・絲・時・遲(平声支韻)。
- 『全唐詩』巻225所収。ウィキソース「全唐詩/卷225」[20 宣政殿退朝晩出左掖(掖門在兩旁如人之臂掖)]参照。
- 宣政殿 … 長安の都の東の内裏である大明宮の中にあった宮殿。天子が政務を執る所。
- 退朝 … 朝廷から退出すること。
- 左掖 … 宣政殿の左側(東側)にあった小門。そこに作者が勤務していた門下省があった。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
天門日射黄金榜
天門 日は射る 黄金の榜
- 天門 … 宮殿の門。左掖を指す。
- 黄金榜 … 宮門に掲げられた金字の額。「榜」は「牓」に作るテキストもある。同義。
春殿晴曛赤羽旗
春殿 晴曛 赤羽の旗
- 春殿 … 春の宮殿。宣政殿を指す。
- 晴曛 … よく晴れた日の、夕日の光。
- 曛 … 『全唐詩』には「一作熏」とある。
- 赤羽旗 … 朱雀を描いた旗。
宮艸微微承委佩
宮草は微微として委佩を承け
- 宮草 … 御庭の草。
- 微微 … 底本では「菲菲」に作るが、諸本に従い改めた。奥深く静かなさま。幽静なさま。『全唐詩』には「一作霏霏」とある。「霏霏」では雪や雨が絶え間なく降るという意味になり、ここでは合わない。底本の「菲菲」は草が盛んに茂るという意味なので、こちらのほうがしっくりくる。
- 委佩 … 垂れ下がった佩玉。
爐煙細細駐遊絲
炉煙は細細として遊糸を駐む
- 炉煙 … 香炉の煙。
- 遊糸 … 蜘蛛の吐く糸で空中をただようもの。
雲近蓬萊常五色
雲は蓬萊に近うして常に五色
- 蓬萊 … 宮殿の名。蓬萊宮。また、ここでは仙人の住むという蓬萊山とをかけている。
- 五 … 『全唐詩』では「好」に作り、「一作五」とある。
- 五色 … 瑞雲の色を指す。
雪殘鳷鵲亦多時
雪の鳷鵲に残るも亦た多時
- 鳷鵲 … 漢代の宮観(宮殿の総称)の名。鳷鵲観。ここではその名を借りている。
侍臣緩歩歸青瑣
侍臣緩歩して青瑣に帰る
- 侍臣 … ここでは作者を指す。
- 緩歩 … ゆっくりと歩くこと。
- 青瑣 … 青瑣門。
退食從容出毎遲
退食 従容として出づること毎に遅し
- 退食 … 朝廷から退出し、自宅に帰って食事をすること。『詩経』召南・羔羊の詩に、「委蛇委蛇と、公より退食す」(委蛇委蛇、自公退食)とある。ウィキソース「詩經/羔羊」参照。
- 従容 … ゆったりと落ち着いたさま。
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