題張氏隠居(杜甫)
題張氏隱居
張氏の隠居に題す
張氏の隠居に題す
- 七言律詩。求・幽・丘・遊・舟(平声尤韻)。
- 『全唐詩』巻224所収。二首連作の第一首。ウィキソース「全唐詩/卷224」(12 題張氏隱居二首)参照。
- 張氏 … 人物については不明。
- 隠居 … 俗世を避けた住居。隠居所。隠宅。
- 題 … 詩を隠宅の壁に書きつける。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
春山無伴獨相求
春山伴無く独り相求む
- 伴 … 道連れ。
- 相求 … 友を尋ね求める。
伐木丁丁山更幽
伐木丁丁 山更に幽なり
- 丁丁 … 木を伐採する音。『詩経』小雅、伐木の詩に「木を伐ること丁丁たり、鳥鳴くこと嚶嚶たり。幽谷より出でて、喬木に遷る。嚶として其れ鳴くは、其の友を求むる声」(伐木丁丁、鳥鳴嚶嚶。出自幽谷、遷于喬木。嚶其鳴矣、求其友聲)とあるのをふまえる。ウィキソース「詩經/伐木」参照。
- 幽 … 奥深く静かなこと。
澗道餘寒歴冰雪
澗道の余寒 冰雪を歴
- 澗道 … 谷川ぞいの道。
- 余寒 … 春になってもまだ残っている寒さ。
- 冰雪 … 氷雪。氷と雪。「冰」は「氷」の異体字。
- 歴 … 通る。
石門斜日到林丘
石門の斜日 林丘に到る
- 石門 … 山の名。山東省曲阜の付近にある石門山のことか。
- 斜日 … 夕日。
- 林丘 … 木の茂る丘。
不貪夜識金銀氣
貪らずして夜金銀の気を識り
- 不貪 … 物を貪る心がないから。無欲だから。
- 金銀気 … 土中に埋蔵されている金銀から立ちのぼる気。
遠害朝看麋鹿遊
害に遠ざかって朝に麋鹿の遊ぶを看る
- 害 … 世俗の名利の害。
- 麋鹿 … 鹿の類い。
乘興杳然迷出處
興に乗じては杳然として出処に迷い
- 乗興 … 感興のわくままに。興の赴くままに。東晋の王徽之が冬の夜、雪を愛でながら酒を飲み、左思の「招隠の詩」を詠じていたが、ふと剡渓にいる友人の戴逵を訪ねようと思いたち、小舟に乗って出かけた。しかし、門前まで来て引き返してしまった。人がその理由を尋ねたところ、「自分は興に乗じて来て、興が尽きて帰ったのだ」と答えたという故事を踏まえる。『晋書』王徽之伝に「嘗て山陰に居り、夜雪初めて霽れ、月色清朗、四望皓然たり。独り酒を酌みて、左思の招隠の詩を詠じ、忽ち戴逵を憶う。逵時に剡に在り、便ち夜小船に乗じて之に詣り、宿を経て方に至り、門に造りて前まずして反る。人其の故を問う、徽之曰く、本興に乗じて行き、興尽きて反る。何ぞ必ずしも安道を見んや、と」(嘗居山陰、夜雪初霽、月色清朗、四望皓然。獨酌酒、詠左思招隱詩、忽憶戴逵。逵時在剡、便夜乘小船詣之、經宿方至、造門不前而反。人問其故、徽之曰、本乘興而行、興盡而反。何必見安道邪)とある。安道は、戴逵の字。ウィキソース「晉書/卷080」参照。
- 杳然 … 奥深く遠いこと。ここでは特にぼんやりした気持ちになる様子。
- 出 … 『全唐詩』には「一作去」とある。
- 出処 … ここでは帰路に迷うことと、出処進退に迷うこととをかけている。
對君疑是泛虚舟
君に対して疑うらくは是れ虚舟を泛べしかと
- 虚舟 … 人の乗っていない舟。『荘子』山木篇に「舟を方べて河を済るに、虚船有り、来りて舟に触るれば、惼心の人有りと雖も怒らず」(方舟而濟於河、有虚船、來觸舟、雖有惼心之人不怒)とあり、舟で川を渡るとき、人の乗っていない舟が来て衝突したら、いくら意固地な人でも腹を立てないという話に基づく。張氏の無心さをたとえる。ウィキソース「莊子/山木」参照。
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