暮春虢州東亭送李司馬帰扶風別廬(岑参)
暮春虢州東亭送李司馬歸扶風別廬
暮春、虢州の東亭にて李司馬が扶風の別廬に帰るを送る
暮春、虢州の東亭にて李司馬が扶風の別廬に帰るを送る
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻五、『全唐詩』巻二百一、他
- 七言律詩。殷・還・山・閒・斑(平声刪韻)。
- ウィキソース【暮春虢州東亭送李司馬歸扶風別廬】参照。
- 暮春 … 晩春。陰暦三月のこと。
- 虢州 … 今の河南省三門峡市一帯。隋の開皇三年(583)、東義州を改めて置いた。治所は盧氏県(今の河南省盧氏県)。大業三年(607)に廃し、唐の武徳元年(618)に再び置いた。貞観八年(634)、弘農県(今河南省霊宝市)に移して治めた。『読史方輿紀要』歴代州域形勢、唐上、虢州の条に「漢は弘農郡と曰い、唐に虢州を置く、亦た弘農郡と曰い、弘農等県六を領す。今の陝州霊宝県の西南三十里、故の弘農城は是なり」(漢曰弘農郡、唐置虢州、亦曰弘農郡、領弘農等縣六。今陝州靈寶縣西南三十里故弘農城是)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五」参照。ウィキペディア【虢州】参照。
- 東亭 … 町の東にある駅亭(宿場にある旅館)。
- 李 … 李某。人物については不明。
- 司馬 … 州・郡の属官。刺史を補佐して軍事をつかさどった。『事物紀原』撫字長民部第三十一、司馬の条に「魏晋より以後、刺史にして将軍開府を帯ぶる者は則ち之を置く。此れより始めて州郡の官と為す。唐の高宗、位に即いて治中を改めて司馬節度と為し、亦た行軍司馬有り。今節度団練副使と、並びに以て貶責の官と為す」(魏晉以後、刺史帶將軍開府者則置之。自此始爲州郡官。唐高宗即位改治中爲司馬節度、亦有行軍司馬。今與節度團練副使、竝以爲貶責之官)とある。ウィキソース「事物紀原 (四庫全書本)/卷06」参照。
- 扶風 … 今の陝西省鳳翔。
- 別廬 … 別荘。
- 岑参 … 715~770。盛唐の詩人。湖北省江陵の人。天宝三載(744)、進士に及第。西域の節度使の幕僚として長く辺境に勤務したのち、右補闕・虢州長史(次官)・嘉州刺史などを歴任した。辺塞詩人として高適とともに「高岑」と並び称される。『岑嘉州集』七巻がある。ウィキペディア【岑参】参照。
柳嚲鶯嬌花復殷
柳は嚲れ鶯は嬌びて花復た殷し
- 嚲 … 垂れ下がること。
- 鶯嬌 … ウグイスが可愛い声で鳴くこと。
- 殷 … 黒みがかった赤色のこと。「殷」の音はアン。「殷」を「殷んなり」と訓読し、「盛んなさま」と解釈している注釈書もあるが、その場合の音はインになり、韻が合わない。
紅亭綠酒送君還
紅亭 緑酒 君が還るを送る
- 紅亭 … 建物を赤く塗り飾った駅亭。
- 緑酒 … 緑色に澄んだ酒。上質な酒のこと。
到來函谷愁中月
到来 函谷 愁中の月
- 到来 … 君はこの土地へ来てから。
- 函谷 … 虢州の西にある函谷関。ウィキペディア【函谷関】参照。
- 愁中月 … 憂愁の気持ちを抱いて見る月。
歸去磻溪夢裏山
帰去 磻渓 夢裏の山
- 磻渓 … 鳳翔の南、宝雞の近くにある谷川。
- 夢裏山 … 夢に見ていた山々。
簾前春色應須惜
簾前の春色 応に須く惜しむべし
- 簾前 … すだれの前。
- 春色 … 春の景色。春の趣き。謝朓の「徐都曹に和す」(『文選』巻三十)に「宛洛は遨游に佳く、春色は皇州に満つ」(宛洛佳遨游、春色滿皇州)とある。宛洛は、宛邑(南陽)と洛陽との二都。遨游は、気ままに遊び楽しむこと。皇州は、帝都の地。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
- 須 … 「すべからく~すべし」と読み、「ぜひとも~する必要がある」「当然~すべきである」と訳す。再読文字。「すべて、皆」と訳すのは誤り。
世上浮名好是閒
世上の浮名 好し是れ間なり
- 世上 … 世間。
- 浮名 … あてにならぬ虚名。
- 好是 … まったく。
- 間 … どうでもいいこと。等閑視すること。
西望郷關腸欲斷
西のかた郷関を望めば腸断えんとす
- 郷関 … (わが)ふるさと。
- 腸欲断 … 腸がちぎれんばかりの悲しい思い。
對君衫袖涙痕斑
君に対して衫袖 涙痕斑らなり
- 衫袖 … 着物の袖。
- 涙痕 … 涙の流れた跡。
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