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次北固山下(王湾)

次北固山下
ほくさんやど
王湾おうわん
  • 五言律詩。前・懸・年・邊(平声先韻)。
  • ウィキソース「次北固山下」参照。
  • 詩題 … 「ほっざんもとやどる」と読んでもよい。『国秀集』では「北固山下にやどりて作る」(次北固山下作)に作る。『唐詩品彙』には、題下に「河岳英霊集は江南意に作る。起・結の四句は同じからず」(河岳英靈集作江南意。起結四句不同)とある。『全唐詩』には「河岳英霊集は題を江南意に作る」(河岳英靈集題作江南意)とあり、『河岳英霊集』の全句を引用する。『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』では「江南意」に作る。
  • 北固山 … 江蘇省鎮江市の東北、長江の南岸に位置する山の名。標高はわずか五五・二メートルに過ぎない。ウィキペディア【北固山】(中文)参照。
  • 次 … 「やどる」と読む。宿泊する。ここでは、船を北固山のもとに停泊させること。
  • 王湾 … 生没年不詳(一説に693?~751?)。盛唐の詩人。洛陽(河南省洛陽市)の人。玄宗の先天二年(713)、進士に及第。開元の初め、滎陽けいよう(今の河南省鄭州市滎陽市)の主簿(記録や文書を司る役)となった。開元五年(717)から九年(721)にかけて宮中での図書の整理、および『開元群書四部録』二百巻の編集に参画した。その後、洛陽の県尉となった。詩は『全唐詩』に十首あり、『唐詩選』には一首のみ採られている。ウィキペディア【王湾】(中文)参照。
客路靑山外
かく 青山せいざんほか
  • 客路 … わが旅路。
  • 青山外 … 青い山(北固山)のかなた。「青山」は、ここでは北固山を指す。「外」は、かなた。または、外側。『唐詩三百首』では「下」に作る。
  • 『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』では、この句を「南国新意多く」(南國多新意)に作る。
行舟綠水前
こうしゅう りょくすいまえ
  • 行舟 … (わが乗る)行く舟。魏の文帝(曹丕)「善哉行ぜんさいこう」(『文選』巻二十七、『楽府詩集』巻三十六・相和歌辞)に「湯湯しょうしょうたるせんりゅううちに行舟有り」(湯湯川流、中有行舟)とある。ウィキソース「善哉行(曹丕)」参照。
  • 緑水前 … 長江の緑色の水を前にして(進んでいく)。張衡「東京とうけいの賦」(『文選』巻三)に「東には則ちこう清蘌せいぎょあり、りょくすい澹澹たんたんたり」(於東則洪池清蘌、淥水澹澹)とある。「澹澹」は、水が静かにたゆたうさま。ウィキソース「東京賦」参照。
  • 『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』では、この句を「東行早天を伺う」(東行伺早天)に作る。
潮平兩岸闊
うしおたいらかにして りょうがんひろ
  • 潮平 … 長江の水が遠くまで満ちて平らかに見える。「潮」は、ここでは海水ではなく、長江の水を指す。南朝梁の王僧孺「殷・何両記室を送る」詩に「飄飄としてぎょううんはやく、瀁瀁ようようとしてたんちょう平らかなり」(飄飄曉雲駛、瀁瀁旦潮平)とある。「記室」は、官名。書記の仕事をする。「暁雲」は、夜明けの雲。「瀁瀁」は、水がゆらゆらと果てしないさま。「旦潮」は、朝潮。朝、満ちてくる潮。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷088」「文苑英華 (四庫全書本)/卷0266」参照。
  • 両岸闊 … 長江の水が満ちて、両岸がますます広く見える。「闊」は、広々としているさま。
  • 闊 … 『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』『唐詩別裁集』では「失」に作る。
風正一帆懸
かぜただしうして 一帆いっぱんかか
  • 風正 … 順風。追い風。『呂氏春秋』季夏紀、音律篇に「天地の気、がっして風を生ず。日至れば則ち月ごとに其の風をあつめ、以て十二律を生ず。……天地のふう正しければ、則ち十二律定まる」(天地之氣、合而生風。日至則月鐘其風、以生十二律。……天地之風氣正、則十二律定矣)とある。「十二律」は、十二段階の音。一オクターブ内に十二音が配される。ウィキソース「呂氏春秋/卷六」参照。
  • 一帆懸 … (わが乗る)舟の帆が高く上げられる。
  • 一帆 … 『河岳英霊集』では「數帆」に作る。
海日生殘夜
海日かいじつ ざんしょう
  • 海日 … 海から昇る太陽。「海」は、ここでは長江の水面を指す。大海のような長江の意。
  • 残夜 … 明け方。未明。
江春入舊年
こうしゅん きゅうねん
  • 江春 … 長江沿いの春。川辺の春。江上の春。
  • 入旧年 … 年の暮れのうちに(春が)やって来る。
鄉書何處達
きょうしょ いずれのところにかたっせん
  • 郷書 … 通常は故郷からの便りを意味するが、ここでは故郷への便りの意。
  • 何処達 … 今、どの辺りまで届いているだろうか(諸説あり)。
  • 『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』では、この句を「従来気象を」(從來觀氣象)に作る。
歸雁洛陽邊
がん 洛陽らくようほとり
  • 帰雁 … 北へ帰って行く雁。「雁」は、手紙を届けてくれるものとされる。漢の将軍蘇武そぶが、匈奴に使者として行き、捕虜となったが、雁の足に手紙を結んで都へ消息を知らせたという故事に基づく。『漢書』蘇武伝に「天子上林中にて雁を得たり。足に帛書はくしょくる有り、言う武等ぶらぼうたくちゅうに在りと」(天子射上林中得鴈。足有係帛書、言武等在某澤中)とある。「帛書」は、絹に書いた手紙。ウィキソース「漢書/卷054」参照。
  • 雁 … 「鴈」に作るテキストもある。異体字。
  • 洛陽辺 … (手紙をことづけたい)あの雁たちは、そろそろ洛陽辺りまで行っているだろう。「洛陽」は、今の河南省洛陽市。唐代の副都として栄え、東都とも呼ばれた。ウィキペディア【洛陽市】参照。
  • 『河岳英霊集』『唐詩紀事』『全唐詩話』では、この句を「だ此の中に向かってひとえなり」(惟向此中偏)に作る。なお、「惟」は、「唯」に作るテキストもある。同義。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百十五(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『唐詩三百首注疏』巻四・五言律詩(廣文書局、1980年)
  • 『増註三体詩』巻三・五言律詩・四実(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『唐詩品彙』巻六十三([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『唐詩解』巻三十七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『河岳英霊集』巻下(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『国秀集』巻下(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『瀛奎律髄彙評』巻十([元]方回選評、李慶甲集評校点、上海古籍出版社、1986年)
  • 『唐詩紀事』巻十五([宋]計有功撰、上海古籍出版社、1987年)
  • 『全唐詩話』巻一([清]何文煥輯『歴代詩話』所収、中華書局、1981年)
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