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余杭酔歌贈呉山人(丁仙芝)

餘杭醉歌贈吳山人
こうすい山人さんじんおく
ていせん
  • 七言古詩(冒頭の四句は五言古詩)。烏・趨(平声虞韻)、曙・樹(去声御韻遇韻通押)、開・臺・杯・囘(平声灰韻)。
  • ウィキソース「餘杭醉歌贈吳山人」参照。
  • 余杭 … 現在の浙江省杭州市余杭区。古来、酒の産地(現在の紹興酒)として知られた。ウィキペディア【余杭区】参照。
  • 酔歌 … 酒に酔って口ずさむ歌。酔っ払い歌。
  • 呉山人 … 人物については不詳。「山人」は、世を捨てて山中に隠れ住む人。
  • 贈 … 詩を直接手渡すこと。「寄」は、詩を人に託して送り届けること。
  • 丁仙芝 … 生没年不詳。盛唐の詩人。あざなは元禎。潤州曲阿県(現在の江蘇省鎮江市丹陽市)の人。開元十三年(725)、進士に及第。杭州余杭(現在の浙江省杭州市余杭区)の尉(治安担当の官)をつとめた。『全唐詩』に詩が十四首残っている。ウィキペディア【丁仙芝】(中文)参照。
曉幙紅襟燕
ぎょうばく 紅襟こうきんつばめ
  • 暁幙 … 明け方の幕。夜明けのカーテン。「青渓小姑歌 二首其の二」に「歌みて夜已に久し、繁霜暁幕を侵す。何の意ぞ空しく相守り、坐して待つ繁霜の落つるを」(歌闋夜已久、繁霜侵曉幕。何意空相守、坐待繁霜落)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷144」参照。
  • 幙 … 『全唐詩』では「幕」に作る。同義。
  • 紅襟燕 … 越(余杭は越の地)のつばめは首のまわりが赤いという。呉山人に喩える。明の楊慎『升庵集』に引く『玄中記』に「胡燕ははんきょうにして声小、越燕は紅襟にして声大なり」(胡燕斑胸聲小、越燕紅襟聲大)とある。ウィキソース「升菴集 (四庫全書本)/卷81」参照。
  • 燕 … 『文苑英華』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』では「鷰」に作る。同義。
春城白項烏
春城しゅんじょう 白項はくこうからす
  • 春城 … 春の城壁の上。
  • 白項烏 … 首の白いカラス。「項」は、うなじ。首の後ろの部分。呉山人に喩える。『世説新語』軽詆篇に「支道林東に入り、王子猷兄弟を見て還る。人問う、諸王を見るに何如、と。答えて曰く、一群の白頸の烏を見たり。但だ啞啞と喚ぶ声を聞くのみ、と」(支道林入東、見王子猷兄弟還。人問、見諸王何如。答曰、見一群白頸烏。但聞喚啞啞聲)とある。ウィキソース「世說新語/輕詆」参照。
  • 項 … 底本では「頂」に作るが、改めた。
只來梁上語
梁上りょうじょうきたりてかた
  • 梁上 … 我が家のうつばりの上。
不向府中趨
ちゅうむかってはしらず
  • 府中 … 役所。『史記』申屠嘉伝に「朝を罷め府中に坐す」(罷朝坐府中)とある。ウィキソース「史記/卷096」参照。
  • 不向府中趨 … 役所の中へ入ろうとはしない。呉山人が決して仕官しようとしないことを喩えたもの。
城頭坎坎鼓聲曙
じょうとう 坎坎かんかんとしてせい
  • 城頭 … 城壁の上。城壁の辺り。
  • 坎坎 … 太鼓を打つときの音の形容。『詩経』小雅・伐木の詩に「坎坎として我に鼓し、蹲蹲そんそんとして我に舞う」(坎坎鼓我、蹲蹲舞我)とある。ウィキソース「詩經/伐木」参照。
  • 鼓声曙 … 太鼓の音とともに夜が明ける。「曙」は、明るくなる。夜が明ける。『漢書』李陵伝に「令して曰く、鼓声を聞かばはなち、金声を聞かばむべし、と」(令曰、聞鼓聲而縱、聞金聲而止)とある。「縦」は、矢を放つ。「金声」は、かねの音。軍を止めるときには鉦、進めるときには太鼓を合図として鳴らした。ウィキソース「漢書/卷054」参照。
滿庭新種櫻桃樹
満庭まんていあらたにう 桜桃おうとうじゅ
  • 満庭 … 庭一面。
  • 桜桃 … 和名ユスラウメ。ウィキペディア【ユスラウメ】参照。『本草綱目』に「桜桃は樹甚だしくは高からず。春の初め白き花を開く。しげはなびらは雪の如し。葉はまるくして、とがり及び細歯有り。を結ぶこと一枝に数十、三月熟する時須らく守護すべし、しからずんば則ち鳥くらいてのこすこと無きなり」(櫻桃樹不甚高。春初開白花。繁英如雪。葉團、有尖及細齒。結子一枝數十顆、三月熟時須守護、否則鳥食無遺也)ある。ウィキソース「本草綱目/果之二」参照。
  • 桃 … 『唐詩別裁集』では「」に作る。異体字。
桃花昨夜撩亂開
とう さく りょうらんとしてひら
  • 撩乱 … 咲き乱れるさま。宋のしょうようらん」詩に「衾を擁して側臥し、未だ起くることをのぞまず、簾外の落花、撩乱として飛ぶ」(擁衾側臥未忺起、簾外落花撩亂飛)とある。ウィキソース「宋文鑑 (四庫全書本)/卷028」参照。
  • 開 … 満開となった。
當軒發色映樓臺
けんあたりていろはっし 楼台ろうだいえい
  • 軒 … のき
  • 発色 … 桜桃の花が紅色を発散させる。班固の「西都の賦」に「らん色を発し、曄曄ようよう猗猗いいとす」(蘭茝發色、曄曄猗猗)とある。「茝」は、よろいぐさ。ウィキソース「西都賦」参照。
  • 映 … 照り映える。
十千兌得餘杭酒
十千じっせんたり こうさけ
  • 十千 … 一万銭。美酒一斗の値段。曹植の「名都篇」に「帰り来りて平楽に宴す、美酒は斗十千なり」(歸來宴平樂、美酒斗十千)とある。ウィキソース「名都篇」参照。
  • 兌 … 交換する。ここでは、酒を買うこと。
  • 十千兌得 … 『文苑英華』には「一作十香滿甕」とある。
  • 余杭酒 … 余杭の名酒。庾信の「宇文京兆が遊田に和す」詩に「美酒余杭に酔い、芙蓉即ち杯をほうぜん」(美酒余杭醉、芙蓉即奉杯)とある。ウィキソース「庾子山集 (四部叢刊本)/卷第三」参照。
二月春城長命杯
がつ春城しゅんじょう ちょうめいさかづき
  • 長命杯 … その杯で酒を飲むと長寿が保てるという杯。庾信の「正旦せいたん、趙王が酒をたまわるを蒙る」詩に「正旦は悪酒をく、新年は長命の杯」(正旦辟惡酒、新年長命杯)とある。ウィキソース「庾子山集 (四部叢刊本)/卷第五」参照。
  • 杯 … 『文苑英華』では「盃」に作る。「杯」の異体字。
酒後畱君待明月
しゅ きみとどめて明月めいげつ
  • 留 … 底本及び『唐詩品彙』『唐詩解』では「畱」に作る。「留」の異体字。
  • 留君 … 君を引き止めて。
還將明月送君囘
明月めいげつってきみかえるをおくらん
  • 還 … そしてまた。それからさらに。その上。
  • 将 … 「以」に同じ。
  • 回 … 『文苑英華』では「廻」に作る。『古今詩刪』では「囬」に作る。ともに同義。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百十四(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『文苑英華』巻三百三十六(影印本、中華書局、1966年)
  • 『唐詩品彙』巻三十一(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻五(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十三(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、16頁)
  • 『唐詩解』巻十一(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
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