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岐陽三首其二(元好問)

岐陽三首其二
岐(き)陽(よう)三首(さんしゅ) 其(そ)の二(に)
元(げん)好問(こうもん)
  • 〔テキスト〕 『遺山先生文集』巻八(『四部叢刊 初編集部』所収)、他
  • 七言律詩。横・京・聲・城・兵(下平声庚韻)。
  • ウィキソース「岐陽三首」参照。
  • 岐陽 … 鳳(ほう)翔(しょう)府(陝西省鳳翔県)の別名。隋の時、岐陽宮があったことからいう。正大八年(1231)、元好問は南陽(河南省南陽市)の県令であったが、四月に蒙古軍により鳳翔府が陥落。その住民がすべて虐殺された。この詩は、その知らせを聞いて悲痛の思いで作ったもの。杜甫の詩「行在所に達するを喜ぶ三首其一」(喜達行在所三首其一)の「西のかた岐陽の信を憶(おも)う」(西憶岐陽信)とあるのを踏まえる。作者四十二歳の作。三首連作の二番目。
  • 元好問 … 1190~1257。金の詩人。太原府忻(きん)州(しゅう)秀容県(山西省忻州市)の人。字(あざな)は裕(ゆう)之(し)、号は遺(い)山(ざん)。興定五年(1221)、進士に及第。正大元年(1224)、詞科に及第。地方官を歴任したが、天興二年(1233)、蒙古軍により国都汴京(べんけい)(河南省開封(かいほう)市)が陥落。翌年、金が滅亡。その後、元には仕官せず、亡国の民となって華北各地を遊歴した。金代の詩の総集『中州集』を編纂。詩文集『遺山先生文集』四十巻がある。ウィキペディア【元好問】参照。
百二關河草不橫
百(ひゃく)二(に)の関(かん)河(が) 草(くさ) 横(よこ)たわらず
  • 百二関河 … 要害堅固な秦の地。百二は、二万の兵力で百万の敵に勝つことができる要害の地。敵の百分の二の軍勢で守りとおせる要害の地。関河は、函谷関と黄河。秦の地に入るには必ずどちらかを通らないと入れない。
  • 草不横 … 草もはびこらない。草一本生えない。
十年戎馬暗秦京
十(じゅう)年(ねん)の戎(じゅう)馬(ば) 秦京(しんけい) 暗(くら)し
  • 十年 … 十年、または長い間。
  • 戎馬 … 戦争に使う馬。軍馬。転じて、戦乱。
  • 秦京 … 秦の都、咸陽(かんよう)(陝西省咸陽市)のこと。『漢語大詞典』には「指秦国首都咸阳」とある。京は、国都。『中国詩人選集二集9 元好問』(岩波書店、昭和38年)に「長安(今の陝西省西安市)のこと」とあるのは誤り。長安は咸陽の南郊に位置し、劉邦によって前漢の首都となった。ウィキペディア【咸陽市】参照。
  • 暗 … 暗澹としている。陰惨な空気が漂っている。
岐陽西望無來信
岐(き)陽(よう) 西望(せいぼう)するも 来信(らいしん)無(な)く
  • 西望 … はるか西の方を望み見る。
  • 無来信 … 便りがない。上記、杜甫の「西のかた岐陽の信を憶(おも)う」(西憶岐陽信)を踏まえる。
隴水東流聞哭聲
隴水(ろうすい) 東(とう)流(りゅう)して 哭声(こくせい)を聞(き)く
  • 隴水 … 秦の西方一帯を流れる川。隴は、今の甘粛省東南部地方を指す。
  • 東流 … 東へそそぐ。
  • 哭声 … 大声でなく声。慟哭の声。
野蔓有情縈戰骨
野(の)の蔓(つる)は情(じょう)有(あ)りて 戦骨(せんこつ)に縈(まと)い
  • 野蔓 … 野にはびこる蔓草(つるくさ)。
  • 有情 … 憐れみの心があるかのように。
  • 戦骨 …戦場の人骨。
  • 縈 … まつわり付く。巻き付く。
殘陽何意照空城
残陽(ざんよう)は何(なん)の意(い)か 空(くう)城(じょう)を照(て)らす
  • 残陽 … 夕日。
  • 何意 … どういうつもりか。どんな心でか。
  • 空城 … 人(ひと)気(け)のない城市。空っぽの街。
從誰細向蒼蒼問
誰(たれ)に従(したが)いて 細(こま)かに蒼蒼(そうそう)に向(むか)いて問(と)わん
  • 従誰 … 誰に頼って。誰を頼りにして。誰にすがって。
  • 細 … こと細かく。詳しく。つぶさに。
  • 蒼蒼 … 天を指す。青々と広がる天。蒼天。『荘子』逍遥遊篇に「天の蒼蒼たるは、其れ正色か」(天之蒼蒼、其正色邪)とある。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
爭遣蚩尤作五兵
争(いか)でか 蚩(し)尤(ゆう)をして 五(ご)兵(へい)を作(つく)らしめしやと
  • 争 … 「いかでか」と読み、「どうして」「なぜ」と訳す。疑問・反語を表す助詞。
  • 蚩尤 … 古代神話の人物。兵乱を好み、初めて武器を作ったという。黄帝と争い滅ぼされた。ウィキペディア【蚩尤】参照。
  • 五兵 … 五種類の武器。
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