癸巳五月三日北渡三首 其三(元好問)
癸巳五月三日北渡三首 其三
癸巳五月三日北渡三首 其の三
癸巳五月三日北渡三首 其の三
- 〔テキスト〕 『遺山先生文集』巻十二(『四部叢刊 初編集部』所収)、他
- 七言絶句。麻・沙・家(平声麻韻)。
- 癸巳五月三日 … 癸巳。天興二年(1233)、作者四十四歳の作。三首連作の三番目。四月二十九日、作者は汴京を出て青城(山東省高青県)に拘留された。五月三日、家族とともに聊城(山東省聊城市)に引き立てられていった。以後、あしかけ三年、蒙古軍の捕虜として聊城に軟禁された。
- 北渡 … 黄河を南から北へ渡ること。青城(山東省高青県)から聊城(山東省聊城市)へ連行されたことを指す。
- 元好問 … 1190~1257。金の詩人。太原府忻州秀容県(山西省忻州市)の人。字は裕之、号は遺山。興定五年(1221)、進士に及第。正大元年(1224)、詞科に及第。地方官を歴任したが、天興二年(1233)、蒙古軍により国都汴京(河南省開封市)が陥落。翌年、金が滅亡。その後、元には仕官せず、亡国の民となって華北各地を遊歴した。金代の詩の総集『中州集』を編纂。詩文集『遺山先生文集』四十巻がある。ウィキペディア【元好問】参照。
白骨縱橫似亂麻
白骨 縦横 乱麻に似たり
- 縦横 … あたり一面。四方八方。南北を縦、東西を横という。
- 乱麻 … 入りまじって、乱れもつれた麻糸のように散らばっていることの形容。
- 白骨縦横似乱麻 … 『漢書』武五子伝の論賛に「秦始皇即位三十九年、内には六国を平らげ、外には四夷を攘い、死人乱麻の如く、骨を長城の下に暴し、頭盧道に相属ぬ」(秦始皇即位三十九年、内平六國、外攘四夷、死人如亂麻、暴骨長城之下、頭盧相屬於道)とある。ウィキソース「漢書/卷063」参照。
幾年桑梓變龍沙
幾年か 桑梓 竜沙に変ぜし
- 幾年 … もう何年になるだろうか。
- 桑梓 … 桑と梓。古代、先祖が家のまわりに植える習慣があった。転じて、父母の地・故郷・郷里の意。
- 竜沙 … 白竜堆の沙漠のこと。白竜堆は、今の新疆ウイグル自治区東部、ロプノール湖の東にある砂漠を指す。『後漢書』班梁列伝の論賛に「葱雪に坦歩し、竜沙を咫尺とす」(坦步葱雪、咫尺龍沙)とあり、その注に「(葱雪は)葱領・雪山。(竜沙は)白竜堆の沙漠なり」(葱領雪山。白龍堆沙漠也)とある。坦歩は、安らかに歩くこと。咫尺は、ごく近い距離のこと。葱領は、中央アジアのパミール高原の中国名。ウィキソース「後漢書/卷47」参照。また『漢書』西域伝に「楼蘭国は最も東垂に在り、漢に近く、白竜堆に当り、水・草に乏し」(樓蘭國最在東垂、近漢、當白龍堆、乏水草)とある。ウィキソース「漢書/卷096上」参照。
只知河朔生靈盡
只だ知る 河朔 生霊の尽くるを
- 只知 … ただ~と聞いて知っていた。
- 河朔 … 黄河の北。「朔」は北。「河北」と同じ。
- 生霊 … 人民。生物の霊長の意から。
- 尽 … 死に絶えた。全滅させられた。
破屋疎煙卻數家
破屋 疎煙 却って数家
- 破屋 … こわれた家。
- 疎煙 … まばらな人家の煙。
- 却 … 予期に反して。
- 数家 … 数軒。
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