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擬詠懐二十七首 其七(庾信)[北周]

擬詠懷二十七首 其七
詠懐えいかいじゅうしちしゅ しち
しん
  • 〔テキスト〕 『先秦漢魏晋南北朝詩』北周詩巻三、『古詩源』巻十四 宋詩、『庾子山集』巻三、他
  • 五言古詩。過・歌・波・多・河(平声歌韻)。
  • ウィキソース「庾子山集 (四部叢刊本)/卷第三」参照。
  • 擬詠懐 … 阮籍「詠懐詩」に擬したもの。「詠懐」は胸中に思っている事柄をうたう詩。「擬」は、なぞらえる、よく似せる、模倣するの意であるが、実際は模倣作ではなく、庾信の思いを詠ったもの。
  • 庾信 … 513~581。南北朝時代の文人。南陽郡新野(河南省)の人。あざなは子山。けんの子。初め梁に仕え、のちに西魏・北周に仕えた。駢儷べんれいたいの詩文にすぐれ、じょりょう(507~583)とともに「じょたい」と呼ばれた。『庾子山文集』十六巻がある。ウィキペディア【ユ信】参照。
楡關斷音信
かん 音信おんしん
  • 楡関 … 関所の名。山海関。河北省秦皇島市山海関区にある。ウィキペディア【山海関】参照。なお、ここでは広く国境の関所を指す。
  • 断音信 … 夫の消息が絶えたこと。
漢使絶經過
かん使 けい
  • 漢使 … 漢の使者。故国の使者。
  • 経過 … ある場所を通り過ぎること。往来。
胡笳落淚曲
胡笳こか 落涙らくるいきょく
  • 胡笳 … 北方民族の胡人が吹くあしの葉の笛。物悲しい音色を出す。『文献通考』に「胡笳こか觱篥ひちりきあなく、後世こうせい鹵部ろぶこれもちう」(胡笳似觱篥而無孔、後世鹵部用之)とある。觱篥は、管楽器の一つ。竹製の縦笛で前面に七つ、裏面に二つの指孔がある。音色は鋭く、哀調を帯びる。ウィキペディア【篳篥】参照。鹵部は、大駕(天子の乗り物)の儀仗。鹵簿ろぼ(天子の行列)。ウィキソース「文獻通考 (四庫全書本)/卷138」参照。
  • 落涙曲 … 涙を誘う曲調。
羌笛斷腸歌
きょうてき だんちょううた
  • 羌笛 … 羌族の吹く笛のこと。羌族は、チベット系異民族。馬融の「長笛の賦」(『文選』巻十八)に「近世の双笛は羌より起る。きょうひと竹をりて未だわるに及ばざるに、竜水中に鳴きて己をあらわさず。竹をりて之を吹くに声相似たり。其の上孔をけずりて之を通洞し、りて以てむちに当て便にして持ち易し。易の京君明音律を識り、故に本四孔にして加うるに一を以てす。君明の加うる所の孔後に出で、是を商声と謂い、五音そなわる」(近世雙笛從羌起。羌人伐竹未及已、龍鳴水中不見己。截竹吹之聲相似。剡其上孔通洞之、裁以當簻便易持。易京君明識音律、故本四孔加以一。君明所加孔後出、是謂商聲、五音畢)とある。ウィキソース「長笛賦」参照。
  • 断腸歌 … はらわたがちぎれるほどの哀切な歌声。
纖腰減束素
繊腰せんよう そくげん
  • 繊腰 … 美人のほっそりした腰。
  • 束素 … 束ねた白絹。女性の細い腰の形容。
  • 減 … ますます細くなる。ますます痩せ細る。
別淚損橫波
別涙べつるい おうそん
  • 別涙 … 別れを惜しんで流す涙。別れの涙。
  • 横波 … 美女の涼しい目元。
  • 損 … 曇る。
恨心終不歇
恨心こんしん ついまず
  • 恨心 … 恨みの心。ここでは嘆き悲しむ心。
  • 不歇 … まない。
紅顔無復多
紅顔こうがん おおきこと
  • 紅顔 … 若く美しい顔。
  • 無復多 … もはや長くは続きますまい。
  • 無復 … 「また~なし」と読み、「もう二度と~しない」と訳す。部分否定。「不復」と同じ。
枯木期塡海
ぼく うみうずめんことを
  • 枯木期塡海 … 『山海せんがいきょう』北山経に見える故事に基づく。炎帝の娘のじょが、あるとき東海で溺死してしまい、その恨みを晴らすために精衛せいえいという鳥に姿を変え、西山の木や石をくわえて運び、海を埋めようとしたという。叶わぬ望みの喩え。原文は「炎帝えんていしょうじょにして、づけてじょう。じょ東海とうかいあそび、おぼれてかえらず。ゆえ精衛せいえいり、つね西山せいざん木石ぼくせきふくみ、もっ東海とうかいうずむ。しょうすいここよりで、とうりゅうしてそそぐ」(是炎帝之少女、名曰女娃。女娃游于東海、溺而不返。故爲精衞、常銜西山之木石、以堙于東海。漳水出焉、東流注于河)。ウィキソース「山海經/北山經」参照。
靑山望斷河
青山せいざん かわたんことをのぞ
  • 青山望断河 … 青い山を崩して黄河をせき止めることを願う。「河」は黄河。夫の帰りを待つ妻の、叶わぬ望みの喩え。
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