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陽貨第十七 13 子曰郷原德之賊也章

447(17-13)
子曰、鄉原德之賊也。
いわく、きょうげんとくぞくなり。
現代語訳
  • 先生 ――「ほめられ者は道徳の敵だ。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「一郷いちごうでのりちものといわれる者が、かえって徳をそこなう八方はっぽうじんわせ者ぞ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「郷党のほめられ者の中には、得てして、道義の賊がいるものだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 郷原 … えせ君子。その地方で人格者らしく見せかけている偽善者。「郷」は田舎。「原」は「げん」と同じで実直。
  • 徳之賊 … 真の徳を乱し害する者。
補説
  • 『注疏』に「此の章は時人のずいにくむなり」(此章疾時人之詭隨也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 郷原徳之賊也 … 『集解』に引く周生烈の注に「至る所の郷ごとに、すなわち其の人情をたずねて、己が意と為して、以て之を待つ。是れ徳を賊乱する者なり」(所至之郷、輒原其人情、而爲己意、以待之。是賊亂德者也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集解』に「一に曰く、郷は、向なり。古字同じ。人にして剛毅なる能わず、而して人を見るごとに、輒ち其の趣向をたずね、容媚して之に合わすを謂う。言うこころは此れ徳をそこなう所以なり、と」(一曰、郷、向也。古字同。謂人不能剛毅、而見人、輒原其趣向、容媚而合之。言此所以賊德也)とある。また『義疏』に「郷は、郷里なり。原は、源本なり。言うこころは人若し凡そ往きて至る所の郷、輒ち憶度逆用の意なり。其の人情に源本して之を待する者なり。此れは是れ徳の賊なり。其の徳を賊害するを言うなり。又た一に云う、郷は、向なり。人剛毅なる能わざるを謂う。而して好んで面従し、人を見て輒ち媚向して原趣求合す。此れは是れ賊徳なり、と」(郷、郷里也。原、源本也。言人若凡往所至之郷、輒憶度逆用意。源本其人情而待之者。此是德之賊也。言賊害其德也。又一云、郷、向也。謂人不能剛毅。而好面從、見人輒媚向而原趣求合。此是賊德也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「旧解に二有り。周曰く、至る所の郷ごとに、輙ち其の人情をたずねて、意と為して以て之を待つは、是れ徳を賊乱するなり、と。何晏云う、一に曰く、郷は、向なり。古字は同じ。人剛毅なること能わずして、人を見て輙ち其の趣嚮をたずね、容媚して之に合わすを謂う。此れ徳をそこなう所以なるを言うなり、と」(舊解有二。周曰、所至之郷、輙原其人情、而爲意以待之、是賊亂德也。何晏云、一曰、郷、向也。古字同。謂人不能剛毅、而見人輙原其趣嚮、容媚而合之。言此所以賊德也)とある。また『集注』に「郷とは、鄙俗の意。原は、愿と同じ。荀子の原愨げんかくは、注に読みて愿に作る、是れなり。郷原は郷人の愿なる者なり。蓋し其の流を同じくして汚に合して以て世に媚ぶ。故に郷人の中に在りて、独り愿を以て称せらる。夫子其の徳に似て徳に非ずして、反て徳を乱るを以て、故に以て徳の賊と為して、深く之を悪む。詳しくは孟子の末篇を見よ」(郷者、鄙俗之意。原與愿同。荀子原愨、注讀作愿是也。郷原郷人之愿者也。蓋其同流合汙以媚於世。故在郷人之中獨以愿稱。夫子以其似德非德、而反亂乎德、故以爲德之賊、而深惡之。詳見孟子末篇)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『孟子』尽心下篇に「ばんしょう曰く、いっきょう原人げんじんと称す、往く所として原人たらざる無し。孔子以て徳の賊と為すは、何ぞや、と。曰く、之をとせんにぐべき無く、之をそしらんにそしるべき無し。りゅうぞくに同じくし、せいに合す。之に居ること忠信に似、之を行うこと廉潔れんけつに似たり。しゅう皆之をよろこび、自ら以てと為すも、而もともに堯・舜の道に入る可からず。故に徳の賊と曰うなり、と」(萬章曰、一郷皆稱原人焉、無所往而不爲原人。孔子以爲德之賊、何哉。曰、非之無舉也、刺之無刺也。同乎流俗、合乎汙世。居之似忠信、行之似廉潔。衆皆悦之、自以爲是、而不可與入堯舜之道。故曰德之賊也)とあり、この章の孔子の言葉の説明となっている。ウィキソース「孟子/盡心下」参照。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「陳氏櫟曰く、真非以て人を惑わすに足らず。惟だ是に似て非なる者は、最も以て人を惑わし易し。故に夫子以て徳の賊と為す、と」(陳氏櫟曰、眞非不足以惑人。惟似是而非者、最易以惑人。故夫子以爲德之賊)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「徳の賊なりは、徳を賊するを謂うなり。有徳の人を賊害するを言うなり。蓋し郷原は有徳に似て有徳に非ず。一郷の人、皆以て善人と為す。是れ以て有徳の人を乱るに足るときは、則ち亦た能く有徳の人を妨害す。故に云うことしかり」(德之賊也、謂賊德也。言賊害有德之人也。蓋郷原似有德而非有德。一郷之人、皆以爲善人。是足以亂有德之人、則亦能妨害於有德之人。故云爾)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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