憲問第十四 28 曾子曰君子思不出其位章
360(14-28)
曾子曰、君子思不出其位。
曾子曰、君子思不出其位。
曾子曰く、君子は思うこと其の位より出でず。
現代語訳
- 曽先生 ――「よくできた人は、本職のことしか考えない。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様が「その位に在らざればその政を謀らず。」と言われたについて、曾子が説明して言うよう、「君子はその時々の地位に応じてその本分以外のことを考えず、ただ当面の責任を全くせんことを思え、とのご趣意である。」(穂積重遠『新訳論語』、前章と合わせて一つの章とする。)
- 曾先生がいわれた。――
「君子は自分の本分をこえたことは考えないものである」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
補説
- 『注疏』では前章と合わせて一つの章とし、「此の章は人の僭濫して官を侵すを戒しむなり」(此章戒人之僭濫侵官也)とある。僭濫は、身分を乱すこと。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 曾子 … 『孔子家語』七十二弟子解に「曾参は南武城の人、字は子輿。孔子より少きこと四十六歳。志孝道に存す。故に孔子之に因りて以て孝経を作る」(曾參南武城人、字子輿。少孔子四十六歳。志存孝道。故孔子因之以作孝經)とある。ウィキソース「孔子家語/卷九」参照。また『史記』仲尼弟子列伝に「曾参は南武城の人。字は子輿。孔子より少きこと四十六歳。孔子以為えらく能く孝道に通ずと。故に之に業を授け、孝経を作る。魯に死せり」(曾參南武城人。字子輿。少孔子四十六歳。孔子以爲能通孝道。故授之業、作孝經。死於魯)とある。ウィキソース「史記/卷067」参照。
- 君子思不出其位 … 『集解』に引く孔安国の注に「其の職を越えず」(不越其職)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「君子の思慮は己の分内に当たる。己の外に出でて他人の事を思うを得ず。分外を思いて徒労するは得ず。袁氏云う、分外に求めず、と」(君子思慮當己分内。不得出己之外而思他人事。思於分外徒勞不得。袁氏云、不求分外)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「曾子遂に曰く、君子の思謀は、当に己の位を出でざるべし、と。言うこころは思慮の及ぶ所、其の職を越えず」(曾子遂曰、君子思謀、當不出己位。言思慮所及、不越其職)とある。また『集注』に「此れ艮の卦の象辞なり。曾子蓋し嘗て之を称す。記者上章の語に因りて、之を類記するなり」(此艮卦之象辭也。曾子蓋嘗稱之。記者因上章之語、而類記之也)とある。象辞は、易の爻や卦の形に対する解釈の言葉。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『易経』艮の卦の象辞に「象に曰く、兼ねたる山は、艮なり。君子以て思うこと其の位を出でず」(象曰、兼山、艮。君子以思不出其位)とある。ウィキソース「周易/艮」参照。
- 『集注』に引く范祖禹の注に「物各〻其の所に止まりて、天下の理得。故に君子の思う所、其の位を出でずして、君臣上下大小、皆其の職を得るなり」(物各止其所、而天下之理得矣。故君子所思、不出其位、而君臣上下大小、皆得其職也)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「上の章は専ら政を謀る者の為に言う。此の章は泛く君子の平日の期する所を言う」(上章専爲謀政者言。此章泛言君子平日之所期)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「後世多く官位を以て並べ称すれども、古えは官爵と曰うのみ。上位・下位も、亦た位列を謂うのみ。官位の謂に非ざるなり。凡そ之を位と謂う者は、皆其の立つ所の位を謂うなり。皆礼を行うことを以て之を言う。故に此の章の言も、亦た必ず祭を以て之を言う。宗廟の中、思うこと其の位を出でずとは、敬を語るなり。位無きことを患うというが如きも、亦た朝廷の上、己の立つ所の位無きことを謂うなり」(後世多以官位並稱、而古者曰官爵而已矣。上位下位、亦謂位列而已矣。非官位之謂也。凡謂之位者。皆謂其所立之位也。皆以行禮言之。故此章之言、亦必以祭言之。宗廟之中、思不出其位、語敬也。如患無位、亦謂朝廷之上、無己所立之位也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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