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子路第十三 29 子曰善人教民七年章

331(13-29)
子曰、善人教民七年、亦可以即戎矣。
いわく、善人ぜんにんたみおしうること七年しちねんならば、もっじゅうかしむし。
現代語訳
  • 先生 ――「善人が人民を七年もみちびいたら、戦争もできるほどになろう。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「有徳ゆうとくの君子が人民を七年も教化訓練したならば、はじめて戦争に使い得るだろう。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「有徳の人が人民を教化して七年になったら、はじめて戦争に使ってもよいようになるだろう」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 善人 … 善良な人。いい人。「述而第七25」の善人と同じ。
  • 教民 … 人民を教化指導する。軍事訓練を施す。
  • 七年 … 久しいことをいう。
  • 戎 … 戦争。
  • 即 … 就く。従事させる。
補説
  • 『注疏』に「此の章は善人の為政の法を言うなり」(此章言善人爲政之法也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 善人教民七年、亦可以即戎矣 … 『集解』に引く包咸の注に「戎に即かしむは、兵に就かしむなり。以て攻戦す可きなり」(即戎、就兵。可以攻戰也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「善人は、賢人なり。戎に即かしむは、兵戦に就かしむの事を謂う。夫れ民を教うること三年に一たび考え、九歳に三たび考え、三考して幽明を黜陟ちゅつちょくし、其の成る者を待ち、九年にして則ち正に可なり。今七年と云うは、是れふたつながら考うること已にえ、新たに三たび考うるの初めに入る者なり。若し急ぐ可きこと有れば、仮に九年を待たず、則ち七年考うるも亦た可なり。亦た可とは、未だ好むの名を全しとせず。繆協云う、亦た以て戎に即く可きも、未だ善義を尽くさざるなり、と。江熙云う、子曰く、苟くも我を用うる者有らば、期月にして以て可なり。三年にして成すこと有らん、と。善人の教えは、機理に逮ばずして、聖人に倍す。亦た成すこと有る可し。六年の外、民用う可きなり、と」(善人、賢人也。即戎、謂就兵戰之事。夫教民三年一考、九歳三考、三考黜陟幽明、待其成者、九年則正可也。今云七年者、是兩考已竟、新入三考之初者也。若有可急、不假待九年、則七年考亦可。亦可者、未全好之名。繆協云、亦可以即戎、未盡善義也。江熙云、子曰、苟有用我者、朞月而以可。三年有成。善人之教、不逮機理、倍於聖人。亦可有成。六年之外、民可用也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「善人は、君子を謂うなり。即は、就なり。戎は、兵なり。言うこころは君子政をおさめて民を教うること七年に至り、民をして礼義と信とを知らしめば、亦た以て兵戎・攻戦の事に就かしむ可きなり。七年と言うは、夫子意を以て之を言うのみ」(善人、謂君子也。即、就也。戎、兵也。言君子爲政教民至於七年、使民知禮義與信、亦可以就兵戎攻戰之事也。言七年者、夫子以意言之耳)とある。また『集注』に「民を教うるとは、之に教うるに孝悌忠信の行、農を務め武を講ずるの法を以てす。即は、就くなり。戎は、兵なり。民其の上を親しみ、其の長に死するを知り、故に以て戎に即かしむ可し」(教民者、教之以孝悌忠信之行、務農講武之法。即、就也。戎、兵也。民知親其上、死其長、故可以即戎)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く程頤の注に「七年と云う者は、聖人其の時の可なるを度る。期月、三年、百年、一世、大国五年、小国七年と云うが如きの類は、皆当に其の作為の如何を思うべければ、乃ち益有らん」(七年云者、聖人度其時可矣。如云朞月、三年、百年、一世、大國五年、小國七年之類、皆當思其作爲如何、乃有益)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「善人の道は、本と慈仁化導を以て務めと為して、刑殺威厳を以て心と為さず」(善人之道、本以慈仁化導爲務、而不以刑殺威嚴爲心)とある。刑殺は、死刑のこと。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「七年は其の久しきを言うなり。善人たみを教うと雖も、久しきに非ざれば、則ち以てじゅうかしむ可からざるなり。後儒仏氏の善男ぜんなん善女ぜんにょにんを聞くにれて、善柔の人というを以てす。其の解皆あやまれるかな」(七年言其久也。雖善人教民、非久、則不可以即戎也。後儒狃聞佛氏善男子善女人、而以善柔之人。其解皆謬哉)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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