子路第十三 10 子曰苟有用我者章
312(13-10)
子曰、苟有用我者、期月而已可也。三年有成。
子曰、苟有用我者、期月而已可也。三年有成。
子曰く、苟くも我を用うる者有らば、期月のみにして可なり。三年にして成ること有らん。
現代語訳
- 先生 ――「使ってくれる人があったら、一年だけでもいいんだ。三年だと、完全だが。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「もしわしを用いて政治をやらせてくれる人があるならば、一年でもけっこうじゃ。三年もあったらりっぱに成績を挙げてみせるのだがなあ。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「もし私を用いて政治をやらせてくれる国があったら、一年で一通りのことはできるし、三年もあったら申し分のないところまで行けるのだが」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 苟 … 「いやしくも」と読み、「もし~だったら」「かりに~」と訳す。順接の仮定条件の意を示す。
- 期月 … 満一か年。「期」は「朞」に作るテキストもある。同義。
- 而已 … 「のみ」と読み、「~だけ」と訳す。強い限定・断定の意を示す。
- 可也 … 十分ではないが、まあよかろう。
- 三年 … 当時の決まり文句。
- 有成 … 立派な実績を挙げることができる。「成」は、完成させる。
補説
- 『注疏』に「此の章は孔子自ら政を為すの道を言うなり」(此章孔子自言爲政之道也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 苟有用我者、期月而已可也。三年有成 … 『集解』に引く孔安国の注に「言うこころは誠に我を政事に用うる者有らば、期月にして以て其の政教を行う可く、必ず三年にして乃ち成功すること有らん」(言誠有用我於政事者、期月而可以行其政教、必三年乃有成功)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「苟は、誠なり。期月は、年一周を謂うなり。可とは、未だ足らざるの辞なり。言うこころは若し誠に能く我を用いて政を治むることを為す者は、一年にして即ち小しく治む可きなり。一年にして天気一周して変ずれば、故に人情も亦た小しく改むるなり。成は、大成なり。三年一閏、是れ天道一成なり。故に政治を為すに若し三年を得れば、風政も亦た成るなり」(苟、誠也。朞月、謂年一周也。可者、未足之辭也。言若誠能用我爲治政者、一年即可小治也。一年天氣一周變、故人情亦小改也。成、大成也。三年一閏、是天道一成。故爲政治若得三年、風政亦成也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「苟は、誠なり。期月は、周月なり。一年の十二月を周るを謂うなり。孔子言う、誠に我を政事に用うる者有らば、期月にして以て其の政教を行う可く、必ずや三年を満たして乃ち成功有るなり、と」(苟、誠也。期月、周月也。謂周一年之十二月也。孔子言、誠有用我於政事者、期月而可以行其政教、必滿三年乃有成功也)とある。また『集注』に「期月は、周一歳の月を謂うなり。可は、僅辞。綱紀の布くを言うなり。成ること有らんは、治功の成るなり」(期月、謂周一歳之月也。可者、僅辭。言綱紀布也。有成、治功成也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 期月而已可也 … 荻生徂徠は「期月にして已に可なり」と読んでいる。
- 『集注』に引く尹焞の注に「孔子当時能く己を用うること莫きを歎ずるなり。故に然云う」(孔子歎當時莫能用己也。故云然)とある。
- 『集注』に「愚、史記を按ずるに、此れ蓋し衛の霊公の用うること能わざるが為にして発せり」(愚按史記、此蓋爲衞靈公不能用而發)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ蓋し夫子門人の為に、其の疑いを釈くなり。当時仏肸の召く、夫子嘗て往かんと欲す。公山弗擾の召く、夫子又た往かんと欲す。門人多く之を疑う。故に此を言いて以て其の意を明らかにす。当に後篇の吾れ其れ東周を為さんかの章と参べ看るべし」(此蓋夫子爲門人、釋其疑也。當時佛肸之召、夫子嘗欲往。公山弗擾之召、夫子又欲往。門人多疑之。故言此以明其意。當與後篇吾其爲東周乎章參看)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「已を既と訓ず。世多く而已を以て耳と為す。非なり。蓋し先王の政、月令有り。見る可し未だ周期ならざるときは、則ち施設に猶お未だ周からざる者有ることを。古え官に居るには、皆三年にして一考す。見る可し三年にして必ず成ることを。但だ所謂三年なる者は再期のみ。再期にして成るは、豈に速やかならずや。世儒此に出づることを知らず。故に其の解皆空言のみ」(已訓既。世多以而已爲耳。非矣。蓋先王之政、有月令焉。可見未周朞、則施設猶有未周者也。古者居官、皆三年一考。可見三年而必成也。但所謂三年者再朞耳。再朞而成、豈不速乎。世儒不知出於此。故其解皆空言耳)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
こちらの章もオススメ!
学而第一 | 為政第二 |
八佾第三 | 里仁第四 |
公冶長第五 | 雍也第六 |
述而第七 | 泰伯第八 |
子罕第九 | 郷党第十 |
先進第十一 | 顔淵第十二 |
子路第十三 | 憲問第十四 |
衛霊公第十五 | 季氏第十六 |
陽貨第十七 | 微子第十八 |
子張第十九 | 堯曰第二十 |