先進第十一 3 子曰回也非助我者也章
256(11-03)
子曰、回也、非助我者也。於吾言、無所不説。
子曰、回也、非助我者也。於吾言、無所不説。
子曰く、回や、我を助くる者に非ざるなり。吾が言に於いて、説ばざる所無し。
現代語訳
- 先生 ――「回くんは、わしのためにならぬわい。わしのいうことに、いちいち感心しとる。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「顔回は質問によってわしを啓発してはくれない。何分にもわしの言うことをたちどころに理解して喜んでしまうものだから。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「回はいっこう私を啓発してはくれない。私のいうことは、なんの疑問もなく、すぐのみこんでしまうのだから」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
補説
- 『注疏』に「此の章は顔回の賢を称するなり」(此章稱顏回之賢也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 顔回 … 『史記』仲尼弟子列伝に「顔回は、魯の人なり。字は子淵。孔子よりも少きこと三十歳」(顏回者、魯人也。字子淵。少孔子三十歳)とある。ウィキソース「史記/卷067」参照。また『孔子家語』七十二弟子解に「顔回は魯人、字は子淵。孔子より少きこと三十歳。年二十九にして髪白く、三十一にして早く死す。孔子曰く、吾に回有りてより、門人日〻益〻親しむ、と。回、徳行を以て名を著す。孔子其の仁なるを称う」(顏回魯人、字子淵。少孔子三十歳。年二十九而髮白、三十一早死。孔子曰、自吾有回、門人日益親。回以德行著名。孔子稱其仁焉)とある。ウィキソース「家語 (四庫全書本)/卷09」参照。
- 回也、非助我者也 … 『集解』に引く孔安国の注に「助は、猶お益のごときなり」(助、猶益也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「助は、益なり」(助、益也)とある。また『集注』に「我を助くは、子夏の予を起こすが若し」(助我、若子夏之起予)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 於吾言、無所不説 … 『集解』に引く孔安国の注に「言うこころは回言を聞けば即ち解し、己を発起増益する可き無きなり」(言回聞言即解、無可發起增益於己也)とある。また『義疏』に「聖人の教えたるや、須らく賢とすべくして啓発す。参の徒に於いて、言を聞けば輒ち問う。是れ我を助益し、増を以て道を暁らしむ。顔淵は黙識なるも、言を聞きて悦び解す。嘗て我に口諮せず。教化に益無し。故に云う、我を助くる者に非ず、吾が言に於いて、悦ばざる所無し、と」(聖人爲教、須賢啓發。於參之徒、聞言輒問。是助益於我以增曉道。顏淵默識、聞言悦解。不嘗口諮於我。敎化無益。故云、非助我者、於吾言無所不悦也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「説は、解くなり。凡そ師資の問答は、以て相発起す。子夏と詩を論じ、子の予を起す者は商なりと曰うが若し。此くの如きは是れ己を益すこと有るなり。今回や、己を増益する者に非ざるなり。其の吾れの言う所に於いて、皆黙して之を識り、解せざる所無きを以てなり。言うこころは回は言を聞きて即ち解すれば、己を発起増益する所無きなり」(說、解也。凡師資問荅、以相發起。若與子夏論詩、子曰、起予者商也。如此是有益於己也。今回也、非增益於己者也。以其於吾之所言、皆默而識之、無所不解。言回聞言即解、無所發起增益於己也)とある。また『集注』に「疑い問うに因りて以て相長ずること有るなり。顔子の聖人の言に於ける、黙識心通し、疑い問う所無し。故に夫子然りと云う。其の辞は憾むこと有るが若きも、其の実は乃ち深く之を喜ぶ」(因疑問而有以相長也。顏子於聖人之言、默識心通、無所疑問。故夫子云然。其辭若有憾焉、其實乃深喜之)とある。
- 『集注』に引く胡寅の注に「夫子の回に於ける、豈に真に我を助くるを以て之に望まんや。蓋し聖人の謙徳、又た以て深く顔氏を賛して爾か云う」(夫子之於回、豈眞以助我望之。蓋聖人之謙德、又以深贊顏氏云爾)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ聖人顔子を得て、深く喜ぶの辞なり。……故に凡そ論語を読む者は、夫子の言に於いて、当に其の悦ぶと否らざるとを反省して、以て自ら其の造る所の深浅を験すべきなり」(此聖人得顏子、而深喜之辭。……故凡讀論語者、於夫子之言、當反省其悦與否、以自驗其所造之深淺也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「人各〻資質有り。聖人と雖も之を強うること能わず。……回や我を助くる者に非ずの若きも、亦た顔子人と為り沈嘿にして、其の性然り。……後儒乃ち言う大聡明故に愚なるが如しと。聖人と雖も亦た性殊なることを知らざるが故なり」(人各有資質。雖聖人不能強之。……若回也非助我者也、亦顏子爲人沈嘿、其性然。……後儒乃言大聰明故如愚。不知雖聖人亦性殊故也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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