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郷党第十 16 寢不尸章

251(10-16)
寢不尸。居不容。見齊衰者、雖狎必變。見冕者與瞽者、雖褻必以貌。凶服者式之。式負版者。有盛饌、必變色而作。迅雷風烈必變。
ぬるにせず。るにかたちづくらず。さいしゃれば、れたりといえどかならへんず。冕者べんしゃしゃとをれば、れたりといえどかならかたちもってす。きょうふくしゃにはこれしょくす。ばんしゃしょくす。盛饌せいせんれば、かならいろへんじてつ。迅雷じんらい風烈ふうれつにはかならへんず。
現代語訳
  • 寝るには、のびきらない。家では、とりすまさない。喪服の人を見ると、心やすくても、顔をひきしめる。かんむりの役人、それに※※※には、ふだんでも、身じまいをただす。野べの送りの人には、車からでもおじぎする。国の書類を持った人にも敬礼する。大ごちそうには、顔つきを変えて立ちあがる。カミナリ大風にも、顔をひきしめる。(「※※※」部分は、現在視覚障害者を指す差別用語といわれているため、伏せ字とした。)(魚返おがえり善雄『論語新訳』)
  • ねるときには、がいを投げ出したようなねぞうのわるいかっこうをしない。起きているときにはいて容態ようたいぶらない。ふくをきた人を見ると、親密なあいだがらでも顔色を変ずる。かんをつけた人やまた盲人を見ると、別懇べっこんの間柄でも形を改める。車に乗って通るとき、喪服の人にあうと、車の前の横木に手をかけてあたまを下げた。戸籍簿の運搬者にも礼をした。りっぱなごそうが出ると、これはこれはと驚いた顔つきをし、立って主人の厚意を謝した。急に雷鳴がしたり烈風が起ると、天変地異にきょうする意味で、いつも顔色を変えて立ち上がった。(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 寝るのに、死人のような寝方はされない。すまいに形式ばった容儀は作られない。喪服の人にあわれると、その人がどんなに心やすい人であっても、必ずつつしんだ顔になられる。衣冠をつけた人や、盲人にあわれると、あらたまった場所でなくても、必ず礼儀正しい態度になられる。車上で喪服の人にあわれると、車の横木に手をかけて頭を下げられる。国家の地図や戸籍を運搬する役人に対しても同様である。手厚いもてなしを受けられる時には、心から思いがけないという顔をして、立って礼をいわれる。ひどい雷鳴や烈しい嵐の時には、形を正して敬虔な態度になられる。(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 尸 … 死体のように、あおけに手足を伸ばして横たわる。
  • 居 … 家でくつろいでいること。
  • 容 … 堅苦しい態度。
  • 斉衰者 … 喪服を着た人。「斉衰」は、喪服の一種で、麻で作り、すそを切りそろえて端を縫っている。「斬衰ざんさい」が最も重く、「斉衰」は第二等の喪服。
  • 狎 … 親しい間柄。心安い関係。
  • 変 … 態度や顔色を改める。
  • 冕者 … 衣冠をつけた高位の人。
  • 瞽者 … 盲目の人。
  • 褻 … 古注では「親しく度々見ているもの」と解釈している。新注では「非公式に謁見する」と解釈している。
  • 貌 … 礼儀正しい容貌。
  • 凶服者 … 喪服を着た人。「凶服」は「さい」よりも軽い喪服。
  • 式 … 車の前にある横木である軾に手をかけて敬礼すること。
  • 負版者 … 国の戸籍簿を手に持っている役人。また「喪服の背中に縫い付ける切れ」という説もある。
  • 盛饌 … 立派なご馳走。
  • 変色 … 顔色を変えて驚きを表す。
  • 迅雷 … 突然の激しい雷鳴。
  • 風烈 … 激しく吹く風。暴風。
  • 変 … 「変色」の略。
補説
  • 寝不尸 … 『集解』に引く包咸の注に「四体をえんし、手足を布展するは、死人のごときなり」(偃臥四體、布展手足、似死人也)とある。偃臥は、横になって寝ること。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「寝は、眠なり。尸は、死尸を謂うなり。眠当に小欹すべくして、直脚申布するを得ずして、死人に似たり」(寢、眠也。尸、謂死尸也。眠當小欹、不得直脚申布似於死人也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「尸は、偃臥して死人に似るを謂うなり」(尸、謂偃臥似死人也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 居不容 … 『集解』に引く孔安国の注に「家室の敬久しうすること難しと為すなり」(爲家室之敬難久也)とある。また『義疏』に「家中常居を謂うなり。家主和怡わいにして、燕居の貌温温たり。故に自らの処を容づくるを為さざるなり」(謂家中常居也。家主和怡、燕居貌溫溫。故不爲容自處也)とある。また『集注』に「居は、家に居るなり。容は、容儀なり」(居、居家。容、容儀)とある。また『集注』に引く范祖禹の注に「寝ぬるに尸せずとは、其の死に類するを悪むに非ざるなり。惰慢の気、身体に設けず。其の四体を舒布すと雖も、而れども亦た未だ嘗てほしいままにせざるのみ。居るにかたちづくらずとは、おこたるに非ざるなり。但だ祭祀に奉じ賓客にまみゆるが若くならざるのみ。申申・夭夭は、是なり」(寢不尸、非惡其類於死也。惰慢之氣、不設於身體。雖舒布其四體、而亦未嘗肆耳。居不容、非惰也。但不若奉祭祀見賓客而已。申申夭夭、是也)とある。
  • 見齊衰者 … 『義疏』では「子見齊衰者」に作る。
  • 雖狎必変 … 『集解』に引く孔安国の注に「狎とは、素より親しみ狎るるなり」(狎者、素親狎也)とある。また『義疏』に「狎は、謂素より相親狎するなり。さいは、喪有るが故に必ず変ず。必ず変ずは、謂必ずち必ず趨るなり」(狎、謂素相親狎也。衰、有喪故必變。必變、謂必作必趨也)とある。また『集注』に「狎は、素より親しみ狎るるを謂う」(狎、謂素親狎)とある。
  • 雖褻必以貌 … 『集解』に引く周生烈の注に「褻は、数〻しばしば相見ゆるを謂うなり。必ず当に貌を以て礼すべきなり」(褻、謂數相見。必當以貌禮也)とある。また『義疏』に「䙝は、親無くして卑く数〻しばしばする者を謂うなり。尊くして位に在るも、成人せざるをあわれむ。故に必ず貌を以てす。貌を以て色を変じ之に対するなり。変は重く貌は軽く、親狎は重し、故に変と言う。卑䙝は軽し、故に貌を以てするなり」(䙝、謂無親而卑數者也。尊在位、恤不成人。故必以貌。以貌變色對之也。變重貌輕、親狎重、故言變。卑䙝輕、故以貌也)とある。また『集注』に「褻は、燕見を謂う。貌は、礼貌を謂う。余は前篇に見ゆ」(褻、謂燕見。貌、謂禮貌。餘見前篇)とある。
  • 凶服者式之 … 『集解』に引く孔安国の注に「凶服とは、死を送るの衣物なり」(凶服、送死之衣物也)とある。また『義疏』に「凶服は、死人を送るの衣物なり。孔子他人の死を送るの衣物を見て、必ず敬を為して之に式するなり。式とは、古人の乗路車なり。今の竜旂車の如し。皆車中に於いて倚立す。倚立するは久しきこと難し。故に車箱の上に於いて一横木を安んじ、手を以て之に隠憑す、之を謂いて較と為す」(凶服、送死人衣物也。孔子見他人送死之衣物、必爲敬而式之也。式者、古人乘路車。如今龍旂車。皆於車中倚立。倚立難久。故於車箱上安一横木、以手隱憑之、謂之爲較)とある。また『集注』に「式は、車前の横木。敬する所有れば、則ち俯して之にる」(式、車前横木。有所敬、則俯而憑之)とある。
  • 式負版者 … 『集解』に引く孔安国の注に「負版とは、邦国の図籍を持つ者なり」(負版、持邦國圖籍者也)とある。また『義疏』に「負は、担い掲ぐるを謂うなり。版は、邦国の図籍を謂うなり」(負、謂擔掲也。版、謂邦國圖籍也)とある。また『集注』に「負版は、邦国の図籍を持つ者なり。此の二者に式するは、喪有るを哀しみ、民の数を重んずるなり。人は惟だ万物の霊にして、王者の天とする所なり。故に周礼に、民数を王に献ずれば、王拝して之を受く、と。況んや其の下なる者、敢えて敬せざらんや」(負版、持邦國圖籍者。式此二者、哀有喪、重民數也。人惟萬物之靈、而王者之所天也。故周禮、獻民數於王、王拜受之。況其下者、敢不敬乎)とある。
  • 有盛饌、必変色而作 … 『集解』に引く孔安国の注に「作は、起なり。主人のしんに敬するなり」(作、起也。敬主人之親饋也)とある。また『義疏』に「作は、起なり。孔子は主人の食饌平常より盛んなること有るを見る。故に色を変じて起つなり。然る所以の者は、主人自ら親しくおくる。故に客起ちて敬するなり」(作、起也。孔子見主人食饌有盛平常。故變色而起也。所以然者、主人自親饋。故客起敬也)とある。また『集注』に「主人の礼に敬するなり。其の饌を以てするに非ざるなり」(敬主人之禮。非以其饌也)とある。
  • 迅雷風烈必変 … 『集解』に引く鄭玄の注に「天の怒りを敬す。風はやいかずち烈たるなり」(敬天之怒。風疾雷爲烈也)とある。また『義疏』に「迅は、疾なり。風雨雷疾の急なる、名づけて烈と為すなり。風疾くして雷す、此れは是れ陰陽の気激しきを天の怒りと為す。故に孔子必ず自ら顔容を整変して以て之を敬するなり。故に玉藻に云う、若し疾風、迅雷、甚雨有れば、則ち必ず変ず。夜と雖も必ず興る。衣服し冠して坐すとは、是れなり」(迅、疾也。風雨雷疾急、名爲烈也。風疾而雷、此是陰陽氣激爲天之怒。故孔子必自整變顏容以敬之也。故玉藻云、若有疾風迅雷甚雨、則必變。雖夜必興。衣服冠而坐、是也)とある。また『集注』に「迅は、疾なり。烈は、猛なり。必ず変ずとは、天の怒りを敬する所以なり。(礼)記に曰く、若し疾風、迅雷、甚雨有れば、則ち必ず変ず。夜と雖も必ず興き、衣服し冠して坐ず、と」(迅、疾也。烈、猛也。必變者、所以敬天之怒。記曰、若有疾風迅雷甚雨、則必變。雖夜必興、衣服冠而坐)とある。
  • 『集注』に「此の一節は、孔子の容貌の変を記す」(此一節、記孔子容貌之變)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』は「寝不尸。居不容」を第十二章とし、「右は孔子平生のかたちを記す」(右記孔子平生之容)とある。また「見斉衰者」以下を第十三章とし、「此れ亦た門人之を記して、以て此の篇にそなう。重出に非ず。……右は孔子容貌の変を記す」(此亦門人記之、以具于此篇。非重出。……右記孔子容貌之變)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「寝に尸せず、居るに容せず。……内寝に在って坐するに、必ずしも尸の如くせざるを言うなり。……居既に容せず、臥に豈に容有らんや。……孔安国曰く、室家の敬は久しうし難きが為なり、と。善解と謂う可きのみ。朱註に勝ること万万ばんばんなり。……聖人の道は、人にうるに其の久しうし難き所を以てせざるなり。且つ朱註に曰く、居は、家に居るなり、と。非なり。……居は即ち間居なり。……負版の者にしょくす。此れ註誤って正文に入る。……何となれば、負版は凶服に在り、豈に別物ならんや。……周礼に、民数を王に献ず、王之を拝受すと。……しもと為り之にならうは、せんなり。豈に之れ有らんや。且つみちに版籍を負う者に遇わば、何を以て識って之に式せんや。……迅雷風烈には必ず変ず。……鄭玄曰く、天の怒りを敬す、と。朱註は之にる。然れども雷を以て天の怒りと為す者は、古え未だ之を聞かざるなり。……君子敬する所以の者は、神の行くにえばなり」(寢不尸、居不容。……言在内寢坐、不必如尸也。……居既不容、臥豈有容乎。……孔安國曰、爲室家之敬難久。可謂善解已。勝朱註萬萬。……聖人之道、不強人以其所難久也。且朱註曰、居、居家。非也。……居即間居也。……式負版者。此註誤入正文。……何則、負版在凶服、豈別物乎。……周禮、獻民數於王、王拜受之。……爲下傚之、僭也。豈有之乎。且途遇負版籍者、何以識而式之乎。……迅雷風烈必變。……鄭玄曰、敬天之怒。朱註因之。然以雷爲天怒者、古未之聞也。……君子所以敬者、値神之行也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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