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雍也第六 23 子曰觚不觚章

142(06-23)
子曰、觚不觚。觚哉、觚哉。
いわく、ならず。ならんや、ならんや。
現代語訳
  • 先生 ――「サカズキとは名ばかり。サカズキなものか。サカズキなものか。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「にカドがなくては、觚であろうや、觚ではない。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    にはかどがあるものだが、このにはかどがない。かどのないだろうか。かどのないだろうか」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 觚 … かどのある酒杯しゅはい。容量は当時の二升(約0.4リットル)であったという。
  • 不觚 … かどがない。
  • 哉 … 「や」と読み、「~か」と訳す。疑問の意を示す。
補説
  • 『注疏』に「此の章は政を為すには須らく礼道にしたがうべきを言うなり」(此章言爲政須遵禮道也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 觚不觚 … 『集解』に引く馬融の注に「觚は、礼器なり。一升を爵と曰い、二升を觚と曰うなり」(觚、禮器也。一升曰爵、二升曰觚也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「觚は、礼酒器なり。礼に云う、觚は、酒を酌む。一献の礼に、賓主百拝す、と。此れ則ち明らかに觚の用有るなり。爾の時に当たり、觚を用いて酒を酌む。而して沈湎して度無し。故に孔子曰く、觚は、觚ならざるなり、と。故に王粛曰く、当時酒に沈湎す。故に曰く、觚は、觚ならず、と。礼を知らざるを言うなり。蔡謨曰く、酒の徳を乱るること、古えより患うる所なり、故に礼に三爵の制を説き、尚書に酒誥の篇を著明にす、易に濡首の戒め有り、詩に賓筵のそしりを列す、皆沈湎を防ぐ所以なり。王氏の説は是れなり。觚其の礼を失す、故に曰く、觚觚ならず、と、猶お君臣君臣ならずと言うがごときのみ、と」(觚、禮酒器也。禮云、觚、酌酒。一獻之禮、賓主百拜。此則明有觚之用也。當于爾時、用觚酌酒。而沈湎無度。故孔子曰、觚、不觚也。故王肅曰、當時沈湎于酒。故曰、觚、不觚。言不知禮也。蔡謨曰、酒之亂德、自古所患、故禮説三爵之制、尚書著明酒誥之篇、易有濡首之戒、詩列賓筵之刺、皆所以防沈湎。王氏之説是也。觚失其禮、故曰觚不觚、猶言君臣不君臣耳)とある。なお、原本では「皆可以防沈湎」に作るが、諸本に従い「可」を「所」に改めた。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「觚とは礼器、酒を盛る所以なり。二升を觚と曰う。觚は之を用うるには当に礼を以てすべく、若し之を用うるに礼を失せば、則ち觚と為ることを成らざるを言うなり」(觚者禮器、所以盛酒。二升曰觚。言觚者用之當以禮、若用之失禮、則不成爲觚也)とある。また『集注』に「觚は、りょうなり。或いは曰く、酒器、或いは曰く、木簡、と。皆器の棱有る者なり。觚ならずとは、蓋し当時其の制を失いて、棱を為さざるなり」(觚、棱也。或曰、酒器、或曰、木簡。皆器之有棱者也。不觚者、蓋當時失其制、而不爲棱也)とある。棱は、かど。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 觚哉、觚哉 … 『集解』の何晏の注に「觚ならんや、觚ならんやは、觚に非ざるを言うなり。以て政を為すも其の道を得ざれば、則ち成らざるを喩うるなり」(觚哉、觚哉、言非觚也。以喩爲政不得其道、則不成也)とある。また『義疏』に「觚を用うるの道を失うを言うなり。故に重ねて曰く、觚ならんや、觚ならんや、と」(言用觚之失道也。故重曰、觚哉觚哉)とある。また『注疏』に「故に孔子之を觚ならんや觚ならんやと歎ずるは、觚に非ざるを言うなり。以て人君政を為すには当に道を以てすべく、若し其の道を得ずんば、則ち政を為すことを成さざるに喩うるなり」(故孔子歎之觚哉觚哉、言非觚也。以喩人君爲政當以道、若不得其道、則不成爲政也)とある。また『集注』に「觚ならんや、觚ならんやは、觚と為すを得ざるを言うなり」(觚哉、觚哉、言不得爲觚也)とある。
  • 『集注』に引く程頤の注に「觚にして其の形制を失えば、則ち觚に非ざるなり。一器を挙げて、天下の物皆然らざること莫し。故に君にして其の君の道を失えば、則ち君たらずと為す。臣にして其の臣の職を失えば、則ち虚位と為す」(觚而失其形制、則非觚也。舉一器、而天下之物莫不皆然。故君而失其君之道、則爲不君。臣而失其臣之職、則爲虚位)とある。
  • 『集注』に引く范祖禹の注に「人にして仁ならざれば、則ち人に非ず。国にして治まらざれば、則ち国ならざるなり」(人而不仁、則非人。國而不治、則不國矣)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「愚おもえらく、此に由りて之を言わば凡そ学びて徳に本づかざれば則ち学に非ず。行いて仁に由らざれば則ち行に非ず。人として人たる所以を失えば則ち人に非ず。慎まざる可けんや」(愚謂、由此言之凡學而不本德則非學。行而不由仁則非行。人而失所以爲人則非人。可不愼哉)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「觚は木簡に非ず。觚を以て簡とするは、秦・漢以後に起これり。……蓋し時俗酒にしずめり、而うして献酬の礼は廃す可からず。故に其の觚を大いにして以て其の量に適う。是れ觚の觚ならざる所以なり。……今日本の量を以て求むるに、爵は八勺九を取り、觚は一合七勺八を受け、は二合六勺七を受け、角は三合六勺弱を受け、散とこうとは、四合五勺弱を受くれば、則ち古今人の酒量も、亦た甚だしく相遠からず。いささか附記す」(觚非木簡。以觚爲簡、起于秦漢以後。……蓋時俗湎于酒、而献酬之禮不可廢焉。故大其觚以適其量。是觚之所以不觚也。……今以日本之量求、爵取八勺九、觚受一合七勺八、觶受二合六勺七、角受三合六勺弱、散與觥、受四合五勺弱、則古今人酒量、亦不甚相遠矣。聊附記)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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