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里仁第四 23 子曰以約失之者鮮矣章

089(04-23)
子曰、以約失之者鮮矣。
いわく、やくもっこれうしなものすくなし。
現代語訳
  • 先生 ――「つつましくしてしくじることは、まずない。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「引きしめ過ぎてしくじる者はすくない。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「ひかえ目にしていてしくじる人は少ない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 約 … つつましやか。控えめ。倹約。また、困窮・貧困という解釈もある。
  • 失之 … 失敗する。過失を犯す。
  • 鮮 … 少ない。ほとんどない。
補説
  • 『注疏』に「此の章は倹を貴ぶ」(此章貴儉)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 以約失之者鮮矣 … 『集解』に引く孔安国の注に「倶に中なるを得ざるなり。奢りて則ちきょういつなれば、則ち禍を招き、倹約なれば、則ち憂患無きなり」(倶不得中也。奢則驕溢、則招禍、儉約、則無憂患也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「鮮は、少なり。言うこころは倹約を以て自ら処れば、中を得ずと雖も、而れども国家を失う者少なきなり。故に顔延之云う、小をりて薄に居るは、衆のくみする所なり、多を執りて豊に処るは、物の去る所なり、と」(鮮、少也。言以儉約自處、雖不得中、而失國家者少也。故顏延之云、秉小居薄、衆之所與、執多處豐、物之所去也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「鮮は、少なり。中を得て礼に合するは、事を為して乃ち善なり。設若もし奢・倹ならば倶に中を得ず。奢れば則ち驕佚して禍を招く。倹約は憂患無し。ここを以て約は失を致すこと少なきなり」(鮮、少也。得中合禮、爲事乃善。設若奢儉倶不得中。奢則驕佚招禍。儉約無憂患。是以約致失者少也)とある。また『集注』に引く謝良佐の注に「ぜんとして以て自らほしいままにせざるを之れ約と謂う」(不侈然以自放之謂約)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く尹焞の注に「凡そ事約なれば則ち失うこと鮮し。だに倹約を謂うのみに非ざるなり」(凡事約則鮮失。非止謂儉約也)とある。
  • 吉川幸次郎は「経済的に倹約な生活をしていれば、そのために失敗をする人間は少ない、とも読め、またひろく、一般に生活方法がひかえ目であることによって、失敗をする者は少ない、とも読める」と解説している(『論語 上』朝日選書)。
  • 宮崎市定は「逆境におかれたために大失敗することは滅多にない」と訳している(『論語の新研究』203頁)。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「聖人の言は、猶お蓍亀しき神明の必ず応じ必ずしるしあるがごとし。此の言至浅、然れども此に従えば則ち得、此に違えば則ち失うは、必然の理なり。篤く信じて堅く之を守らざる可からず」(聖人之言、猶蓍龜神明必應必驗。此言至淺、然從此則得、違此則失、必然之理也。不可不篤信而堅守之)とある。蓍亀は、占い。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「約を以て之を失する者は鮮し、此れ憂患に生きて安楽に死するの意。古え単に約と言う者は、困約と約束のみ。孔安国・朱子な之を失す」(以約失之者鮮矣、此生於憂患而死於安樂之意。古單言約者、困約與約束耳。孔安國朱子胥失之)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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