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為政第二 12 子曰君子不器章

028(02-12)
子曰、君子不器。
いわく、くんならず。
現代語訳
  • 先生 ――「人物は道具じゃない。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「君子たるものは機械であってはいけない。人間でなくてはならぬ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「君子は機械的な人間であってはならぬ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 君子 … 徳の高い立派な人。人格者。反対は小人。
  • 器 … 器物。道具。機械。茶碗など、一つの用途だけに役立つうつわのこと。一芸一能だけの人、ある分野の専門家を指す。
  • 君子不器 … 一芸一能だけに役立つ人ではなく、万能の人であるということ。荻生徂徠は「君子は器物を使いこなす働きのある人間である」(器を用うる所以の者なり)と言っている。「補説」参照。
補説
  • 『注疏』に「此の章は君子の徳を明らかにするなり」(此章明君子之德也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君子不器 … 『集解』に引く包咸の注に「器とは、各〻其の用にう。君子に至りては、施さざる所無きなり」(器者、各周其用。至於君子、無所不施也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此の章は君子の人、一業を係守せざるを明らかにするなり。器とは、給用の物なり。猶お舟の海に汎かぶ可きも、山に登らず、車陸行す可きも、海を済る可からざるが如し。君子は当に才業周普なるべきも、器の守一なるが如くなるを得ず。故に熊埋曰く、器は名を以て其の用に繋ぐ可し。賢は才を以て其の業を済う可し。業常には分かつ無し。故に一名を守らず。用は定めて施し有り。故に舟、車功を殊にするなり、と」(此章明君子之人、不係守一業也。器者、給用之物也。猶如舟可汎於海、不登山、車可陸行、不可濟海。君子當才業周普、不得如器之守一也。故熊埋曰、器以名可繫其用。賢以才可濟其業。業無常分。故不守一名。用有定施。故舟、車殊功也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「器とは、物象の名、形器既に成れば、各〻其の用に周し。舟楫しゅうしゅうの以て川をわたり、しゃ輿の以て陸を行くが若く、之に反せば則ち能わず。君子の徳は、則ち器物の各〻一用を守るが如くならず、幾を見ておこし、施さざる所無きを言うなり」(器者、物象之名、形器既成、各周其用。若舟楫以濟川、車輿以行陸、反之則不能。君子之德、則不如器物各守一用、言見幾而作、無所不施也)とある。また『集注』に「器は、各〻其の用にかなえども、相通ずること能わず。成徳の士は、体具わらざる無し。故に用あまねからざる無し。だ一才一芸を為すのみに非ず」(器者、各適其用、而不能相通。成德之士、體無不具。故用無不周。非特爲一才一藝而已)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「君子は道宏く徳たかく、施して可ならざること無しと雖も、然れども或いは事に於いて能くせざる者有り。孔子の軍旅を学ばず、辞命を能くせざるの類の若き、其の用に適わずと謂う可し。然れども聖人の才の徳を論ずれば、則ち是に在らず。故に曰く、君子は小に知る可からずして、大に受く可し、と」(君子雖道宏德邵、無施不可、然或有於事不能者。若孔子不學軍旅、不能辭命之類、可謂不適其用矣。然而論聖人之才之德、則不在是。故曰、君子不可小知、而可大受也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「大氐たいてい学は以て器を成し、器は性を以て殊なり。故に喩うるに切磋琢磨を以てす。故に人を用うるの道は、之を器使きしす。君子なる者は民に長たるの徳あり。器を用うる所以の者なり。故に器ならずと曰う。器とは百官なり。君子とは君と卿とをいうなり」(大氐學以成器、器以性殊。故喩以切磋琢磨。故用人之道、器使之。君子者長民之德。所以用器者也。故曰不器。器者百官也。君子者君與卿也)とある。器使は、人をその人の才能に応じて用いること。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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