為政第二 11 子曰温故而知新章
027(02-11)
子曰、溫故而知新、可以爲師矣。
子曰、溫故而知新、可以爲師矣。
子曰く、故きを温ねて新しきを知れば、以て師為る可し。
現代語訳
- 先生 ――「古いものからも新知識、それなら指導者になれる。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「過去から出発して現在未来に及ぶという研究法であってこそ、はじめて学者たり教師たり得る。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「古いものを愛護しつつ新しい知識を求める人であれば、人を導く資格がある」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 故 … 「旧」の意。先人の学説・事柄。
- 温 … 尋ねる。研究する。じっくりと学習する。「温めて」とも読む。
- 新 … 新義。新しい道理・解釈。
- 温故而知新 … 故事名言【温故知新】参照。
- 可以 … 「もって~すべし」と読む。解釈は二通りあり、一つ目は「~できる」と訳し、可能の意を示す。二つ目は「~してよい」と訳し、許可の意を示す。
- 為師 … 「師為り」と読めば、「教師である」という意になる。「師と為る」と読めば、「教師となる」という意になる。
- 矣 … 置き字。訓読しない。断定の意を示す。
補説
- 『注疏』に「此の章は師と為るの法を言う」(此章言爲師之法)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 温故而知新、可以為師矣 … 『集解』の何晏の注に「温は、尋なり。故きを尋繹する者、又た新しきを知れば、以て師と為る可きなり」(温、尋也。尋繹故者、又知新、可以爲師也)とある。尋繹は、くり返し復習すること。復習して習熟すること。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此の章は師と為ることの難きを明らかにするなり。温は、温燖なり。故は、学ぶ所已に得るの事を謂うなり。学ぶ所已に得る者は、則ち之を温燖して忘失せしめざるなり。此れは是れ月に其の能くする所を忘るること無きなり。新は、時に学ぶ所に即きて新たに得る者を謂うなり。新しきを知るは、日に其の亡う所を知るを謂うなり。若し学んで能く日に亡う所を知り、月に能くする所を忘るること無くんば、此れ乃ち人の師たる可し。孫綽曰く、滞るが故に則ち新しきを明らかにすること能わず、新しきを希えば則ち故きを存すること篤からず、常の人の情なり。唯だ心平しく一を秉る者は、故きを守ること弥〻温め、新しきに造ること必ず通ず、斯れ以て師と為す可き者なり、と」(此章明爲師之難也。温、温燖也。故、謂所學已得之事也。所學已得者、則温燖之不使忘失。此是月無忘其所能也。新、謂即時所學新得者也。知新、謂日知其所亡也。若學能日知所亡、月無忘所能、此乃可爲人師也。孫綽曰、滯故則不能明新、希新則存故不篤、常人情也。唯心平秉一者、守故彌温、造新必通、斯可以爲師者也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「温は、尋なり。言うこころは旧の学び得たる所の者を、温尋して忘れざらしむるは、是れ温故なり。素より未だ知らざる所を、学びて之を知らしむるは、是れ知新なし。既に故き者を温尋し、又た新しき者を知れば、則ち以て人の師と為る可し」(溫、尋也。言舊所學得者、溫尋使不忘、是溫故也。素所未知、學使知之、是知新也。既溫尋故者、又知新者、則可以爲人師矣)とある。また『集注』に「温は、尋繹なり。故は、旧聞く所。新は、今得る所。言うこころは学びて能く旧聞を習いて、毎に新たに得ること有れば、則ち学ぶ所我に在りて、其の応窮まらず。故に以て人の師為る可し。夫の記問の学の若きは、則ち心に得ること無くして、知る所限り有り。故に学記に、其の以て人の師と為るに足らざるを譏れり。正に此の意と互いに相発するなり」(温、尋繹也。故者、舊所聞。新者、今所得。言學能時習舊聞、而每有新得、則所學在我、而其應不窮。故可以爲人師。夫記問之學、則無得於心、而所知有限。故學記、譏其不足以爲人師。正與此意互相發也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『礼記』中庸篇に「故きを温めて新しきを知る」(温故而知新)とあり、その鄭玄注に「温は読みて燖温の温の如し。故之を学んで孰せるを謂う。後、時に之を習う、之を温と謂う」(温讀如燖温之温。謂故學之孰矣。後時習之、謂之温)とある。ウィキソース「禮記注疏 (四庫全書本)/卷53」参照。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ師道の甚だ難きを言うなり。人の学を為すに、故きを温ねざれば、則ち必ず其の能くする所を忘る。新しきを知らざれば、則ち其の亡き所を得ること無し。蓋し天下の事限り無くして、天下の変窮まり無し。苟くも能く旧聞を尋繹して、復た新得有れば、則ち之に応ずること愈〻竭きず、之を施して其の可に当たる。而る後以て人の師たる可し。夫れ師は人の模範なり。人材の由りて成就する所、世道の由りて維持する所、韋帯の賤を以て、人君と並び称せらる。其の責甚だ重く、其の任甚だ大なり。謹まざる可けんや」(此言師道之甚難也。人之爲學、不温故、則必忘其所能。不知新、則無得其所亡。蓋天下之事無限、而天下之變無窮。苟能尋繹舊聞、而復有新得、則應之愈不竭、施之當其可。而後可以爲人之師矣。夫師者人之模範也。人材之所由成就、世道之所由維持、以韋帶之賤、與人君並稱。其責甚重、其任甚大。可不謹乎)とある。韋帯は、皮の帯。転じて貧賤の人、無官の人をいう。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「是れ温を尋と訓ずるは、廼ち古来相伝の説なり。尋と燖は古字通用す。習うの義なり。何晏識らず、尋繹を以て之を言い、朱子之に仍るは、粗鹵と謂う可きのみ。……蓋し典故・故実の故の如く、凡そ先世の伝うるところの者は、皆之を故と謂う。……新とは、古人の言わざる所、先師の伝えざる所なり」(是温訓尋、廼古來相伝之説。尋燖古字通用。習之義也。何晏不識、以尋繹言之、朱子仍之、可謂粗鹵已。……蓋如典故故實之故、凡先世所傳者、皆謂之故。……新者、古人所不言、先師不傳也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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