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三略 上略じょうりゃく

01 夫主將之法、務攬英雄之心、賞禄有功、通志於衆。故與衆同好靡不成、與衆同惡靡不傾。治國安家、得人也。亡國破家、失人也。含氣之類、咸願得其志。
しゅしょうほうは、つとめて英雄えいゆうこころり、有功ゆうこうしょうろくし、こころざししゅうつうず。ゆえしゅうこのみをおなじうすれば、らざるはく、しゅうにくしみをおなじうすれば、かたむかざるはし。くにおさいえやすんずるは、ひとればなり。くにほろぼしいえやぶるは、ひとうしなえばなり。がんたぐいことごとこころざしんことをねがう。
  • ウィキソース「三略」参照。
  • 主将 … 全軍の総大将。
  • 法 … 心得。底本では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
  • 攬 … (多くの人の心を)集めてとらえること。しゅうらん。底本では「擥」に作るが、『直解』に従い改めた。「擥」は「攬」の本字。
  • 有功 … 手柄があること。
  • 賞禄 … 褒美として賞金や俸禄を与えること。
  • 通志於衆 … 自分の意思を部下たちに周知させる。
  • 与衆同好靡不成 … 部下と好みを一致させれば、成功しないことはない。
  • 靡 … 「なし」と読み、「ない」と訳す。否定の意を示す。「無」とほぼ同じ。
  • 与衆同悪靡不傾 … 部下の憎むところを一致させれば、心をこちらに寄せないものはない。
02 軍讖曰、柔能制剛、弱能制強。柔者徳也、剛者賊也。弱者人之所助、強者怨之所攻。柔有所設、剛有所施、弱有所用、強有所加。兼此四者、而制其冝。
軍讖ぐんしんいわく、じゅうごうせいし、じゃくきょうせいす、と。じゅうは徳なり、ごうぞくなり。じゃくひとたすくるところきょううらみのむるところなり。じゅうもうくるところあり、ごうほどこところあり、じゃくもちうるところあり、きょうくわうるところあり。よっつのものねて、よろしきをせいす。
  • 軍讖 … 兵法の書。軍の勝敗を予言的に述べたもの。「讖」は、予言めいた言葉。
端末未見、人莫能知。天地神明、與物推移、變動無常。因敵轉化、不爲事先、動而輒隨。故能圖制無疆。扶成天威、康正八極、密定九夷。如此謀者爲帝王師。
端末たんまついまあらわれずんば、ひとし。てん神明しんめいにして、ものすいし、変動へんどうしてつねし。てきっててんし、ことさきらず、うごけばすなわしたがう。ゆえきょうはかせいて、てんたすし、はっきょく康正こうせいし、きゅう密定みっていす。かくごとはかものは、帝王ていおうたり。
  • 康 … 底本では「」に作るが、『直解』に従い改めた。
03 故曰、莫不貪強、鮮能守微。若能守微、乃保其生。聖人存之以應事機。舒之彌四海、巻之不盈懷、居之不以室宅、守之不以城郭、藏之胸臆而敵國服。
ゆえいわく、きょうむさぼらざるく、まもることすくなし、と。まもらば、すなわせいたもたん。聖人せいじんこれそんしてもっことおうず。これぶればかいわたり、これけばふところたず、これくに室宅しったくもってせず、これまもるにじょうかくもってせず、これきょうおくおさめて、敵国てきこくふくす。
  • 懐 … 『直解』では「抔」に作る。
04 軍讖曰、能柔能剛、其國彌光、能弱能強、其國彌彰。純柔純弱、其國必削。純剛純強、其國必亡。
軍讖ぐんしんいわく、じゅうごうなれば、くに弥〻いよいよひかりあり、じゃくきょうなれば、くに弥〻いよいよあらわる。もっぱじゅうもっぱじゃくなれば、くにかならけずらる。もっぱごうもっぱきょうなれば、くにかならほろぶ、と。
  • 弥 … いよいよ。ますます。より一層。
夫爲國之道、恃賢與民。信賢如腹心、使民如四肢、則策無遺。所適如肢體相隨、骨節相救、天道自然、其巧無閒。
くにおさむるのみちは、けんたみとをたのむ。けんしんずること腹心ふくしんごとく、たみ使つかうこと四肢ししごとくなれば、すなわさくのこし。ゆくところたいあいしたがい、骨節こっせつあいすくうがごとく、天道てんどうぜんこうかんし。
  • 肢 … 底本では「支」に作るが、『直解』に従い改めた。
05 軍國之要、察衆心施百務。危者安之、懼者歡之、叛者還之、寃者原之、訴者察之、卑者貴之、強者抑之、敵者殘之、貪者豐之、欲者使之、畏者隱之、謀者近之、讒者覆之、毀者復之、反者廢之、横者挫之、滿者損之、歸者招之、服者活之、降者脱之。
軍国ぐんこくようは、しゅうしんさっしてひゃくほどこす。あやうきものこれやすんじ、おそるるものこれよろこばし、そむものこれかえし、えんなるものこれゆるし、うったうるものこれさっし、いやしきものこれたっとくし、つよものこれおさえ、てきするものこれそこない、むさぼものこれゆたかにし、ほっするものこれ使つかい、おそるるものこれかくし、はかものこれちかづけ、ざんするものこれくつがえし、そしものこれふくし、はんするものこれはいし、おうなるものこれくじき、つるものこれそんじ、するものこれまねき、ふくするものこれかし、くだものこれゆるす。
  • 活 … 底本では「居」に作るが、『直解』に従い改めた。
06 獲固守之、獲阨塞之、獲難屯之、獲城割之、獲地裂之、獲財散之。敵動伺之、敵近備之、敵強下之、敵佚去之、敵陵待之、敵暴綏之、敵悖義之、敵睦攜之。順舉挫之、因勢破之、放言過之、四網羅之。
かたきをこれまもり、あいこれふさぎ、かたきをこれとんし、しろこれき、これき、ざいこれさんず。てきうごけばこれうかがい、てきちかづけばこれそなえ、てきつよければこれくだり、てきいつすればこれり、てきしのげばこれち、てきぼうなればこれやすんじ、てきもとればこれただし、てきむつめばこれはなす。きょしたがってこれくじき、いきおいにってこれやぶり、げんはなちてこれとがめ、もにあみしてこれつつむ。
07 得而勿有。居而勿守。抜而勿久。立而勿取。
ゆうするかれ。りてまもかれ。きてひさしうするかれ。ちてかれ。
爲者則己、有者則士、焉知利之所在。彼爲諸侯、己爲天子。使城自保、令士自取。
ものすなわおのれゆうするものすなわならば、いずくんぞところらん。かれ諸侯しょこうたり、おのれてんたり。しろをしてみずかたもたしめ、をしてみずからしむ。
  • 取 … 『直解』では「處」に作る。
08 世能祖祖、鮮能下下。祖祖爲親、下下爲君。下下者務耕桑、不奪其時、薄賦斂、不匱其財。罕徭役、不使其勞、則國富而家娯。然後選士以司牧之。夫所謂士者、英雄也。故曰、羅其英雄則敵國窮。英雄者國之幹、庶民者國之本。得其幹、収其本、則政行而無怨。
とすれども、したくだることすくなし。とするはしんたり、したくだるはきみたり。したくだもの耕桑こうそうつとめ、ときうばわず、れんうすくし、ざいとぼしくせず。徭役ようえきまれにし、れをしてろうせしめざれば、すなわくにみていえたのしむ。しかのちえらんでもっこれぼくす。所謂いわゆるとは、英雄えいゆうなり。ゆえいわく、英雄えいゆうあみすればすなわ敵国てきこくきゅうす、と。英雄えいゆうくにみき庶民しょみんくにもとなり。みきもとおさむれば、すなわまつりごとおこなわれてうらし。
  • 娯 … 底本では「娭」に作るが、『直解』に従い改めた。
09 夫用兵之要、在崇禮而重禄。禮崇則智士至、禄重則義士輕死。故禄賢不愛財、賞功不踰時、則下力并、而敵國削。夫用人之道、尊以爵、贍以財、則士自來。接以禮、勵以義、則士死之。
へいもちうるのようは、れいたかくしてろくおもくするにり。れいたかければすなわ智士ちしいたり、ろくおもければすなわ義士ぎしかろんず。ゆえけんろくするにざいおしまず、こうしょうするにときえざれば、すなわしたちからあわせて、敵国てきこくけずらる。ひともちうるのみちは、たっとぶにしゃくもってし、にぎわすにざいもってすれば、すなわおのずからきたる。せっするにれいもってし、はげますにもってすれば、すなわこれす。
  • 而敵国 … 『直解』には「而」の字なし。
10 夫將帥者、必與士卒同滋味、而共安危、敵乃可加。故兵有全勝、敵有全因。昔者良將之用兵、有饋簞醪者。使投諸河、與士卒同流而飮。夫一簞之醪、不能味一河之水。而三軍之士、思爲致死者、以滋味之及己也。
しょうすいは、かならそつ滋味じみおなじうし、あんともにすれば、てきすなわくわし。ゆえへいぜんしょうり、てき全因ぜんいんり。昔者むかし良将りょうしょうへいもちうるや、箪醪たんろうおくものり。これかわとうぜしめ、そつながれをおなじうしてむ。一箪いったんさけは、いちみずあじわいすることあたわず。しかるに三軍さんぐんためいたさんとおもうは、滋味じみおのれおよぶをもってなり。
11 軍讖曰、軍井未達、將不言渇。軍幕未辦、將不言倦。軍竈未炊、將不言飢。冬不服裘、夏不操扇、雨不張蓋。是謂將禮。與之安、與之危。故其衆可合而不可離。可用而不可疲。以其恩素蓄、謀素合也。故曰、蓄恩不倦、以一取萬。
軍讖ぐんしんいわく、軍井ぐんせいいまたっせざれば、しょうかわけるをわず。軍幕ぐんばくいまべんぜざれば、しょうめるをわず。軍竈ぐんそういまかしがざれば、しょううるをわず。ふゆきゅうふくせず、なつおうぎらず、あめにもかさらず。れをしょうれいう、と。これやすくし、これあやうくす。ゆえしゅうがっくしてはなからず。もちくしてつかからず。おんもとよりたくわえ、はかりごともとよりがっするをもってなり。ゆえいわく、おんたくわえてまざれば、いちもっまんる、と。
  • 謀素合也 … 「合」は、底本では「和」に作るが、『直解』に従い改めた。
12 軍讖曰、將之所以爲威者、號令也。戰之所以全勝者、軍政也。士之所以輕戰者、用命也。故將無還令、賞罰必信、如天如地、乃可御人。士卒用命、乃可越境。
軍讖ぐんしんいわく、しょう所以ゆえんは、号令ごうれいなり。たたかいのまった所以ゆえんは、軍政ぐんせいなり。たたかいをかろんずる所以ゆえんは、めいもちうればなり、と。ゆえしょうれいかえく、しょうばつかならしんにして、てんごとごとくなれば、すなわひとぎょし。そつめいもちうれば、すなわきょうし。
  • 御 … 『直解』では「使」に作る。
13 夫統軍持勢者、將也。制勝敗敵者、衆也。故亂將不可使保軍、乖衆不可使伐人。攻城不可抜、圖邑則不廢。二者無功、則士力疲敝。士力疲敝、則將孤衆悖。以守則不固、以戰則奔北。是謂老兵。兵老則將威不行。將無威則士卒輕刑。士卒輕刑則軍失伍。軍失伍則士卒逃亡。士卒逃亡則敵乗利。敵乗利則軍必喪。
ぐんべ、いきおいをするものは、しょうなり。ちをせいてきやぶものは、しゅうなり。ゆえらんしょうぐんたもたしむからず、かいしゅうひとたしむからず。しろむればからず、ゆうはかればすなわはいせず。しゃこうくんば、すなわりょくへいす。りょくへいすれば、すなわしょうにしてしゅうもとる。もっまもればすなわかたからず、もったたかえばすなわはしぐ。れを老兵ろうへいう。へいつかるればすなわしょうおこなわれず。しょうければすなわそつけいかろんず。そつけいかろんずればすなわぐんうしなう。ぐんうしなえばすなわそつ逃亡とうぼうす。そつ逃亡とうぼうすればすなわてきじょうず。てきじょうずれば、すなわぐんかならほろぶ。
  • 敗 … 底本では「破」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 不可抜 … 底本では「則不抜」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 敝 … 底本では「mojikyo_font_006010」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 悖 … 底本では「mojikyo_font_020044」に作るが、『直解』に従い改めた。
14 軍讖曰、良將之統軍也、恕己而治人。推惠施恩、士力日新。戰如風發、攻如河决。故其衆可望而不可當、可下而不可勝。以身先人、故其兵爲天下雄。軍讖曰、軍以賞爲表、以罰爲裏。賞罰明則將威行。官人得則士卒服。所任賢則敵國震。
軍讖ぐんしんいわく、良将りょうしょうぐんぶるや、おのれはかりてひとおさむ、と。けいおんほどこせば、ちからあらたなり。たたかうことかぜはっするがごとく、むることかわけっするがごとし。ゆえしゅうのぞくしてあたからず、くだくしてからず。もっひとさきんず、ゆえへいてんゆうる。軍讖ぐんしんいわく、ぐんしょうもっおもてし、はつもっうらす、と。賞罰しょうばつあきらかなればすなわしょうおこなわる。官人かんじんればすなわそつふくす。にんずるところけんなればすなわ敵国てきこくふるう。
  • 震 … 『直解』では「畏」に作る。
15 軍讖曰、賢者所適、其前無敵。故士可下而不可驕、將可樂而不可憂。謀可深而不可疑。士驕則下不順。將憂則内外不相信。謀疑則敵國奮。以此攻伐則致亂。夫將者國之命也。將能制勝則國家安定。
軍讖ぐんしんいわく、賢者けんじゃところは、まえてきし、と。ゆえにはくだくしておごからず、しょうたのしましむくしてうれえしむからず。はかりごとふかかるくしてうたがからず。おごればすなわしもしたがわず。しょううれうればすなわ内外ないがいあいしんぜず。はかりごとうたがわばすなわ敵国てきこくふるう。これもっ攻伐こうばつすればすなわらんいたす。しょうくにめいなり。しょうかちせいすれば、すなわこっ安定あんていす。
  • 國之命 … 『直解』では「國家之命」に作る。
軍讖曰、將能清能静、能平能整、能受諫、能聽訟、能納人、能採言、能知國俗、能圖山川、能表險難、能制軍權。
軍讖ぐんしんいわく、しょうきよしずかに、たいらかにととのい、いさめをけ、うったえをき、ひとれ、げんり、国俗こくぞくり、山川さんせんはかり、険難けんなんあらわし、軍権ぐんけんせいす、と。
16 故曰、仁賢之智、聖明之慮、負薪之言、廊廟之語、興衰之事、將所宜聞。將者、能思士如渇、則策從焉。夫將拒諫、則英雄散。策不從、則謀士叛。善惡同、則功臣倦。專己、則下歸咎。自伐、則下少功。信讒、則衆離心。貪財、則姦不禁。内顧、則士卒淫。將有一、則衆不服。有二、則軍無式。有三、則下奔北。有四、則禍及國。
ゆえいわく、仁賢じんけん聖明せいめいりょしんげんろうびょう興衰こうすいことは、しょうよろしくくべきところなり。しょうたるものおもうことかっするがごとくなれば、すなわさくしたがう。しょういさめをこばまば、すなわ英雄えいゆうさんず。さくしたがわざれば、すなわぼうそむく。善悪ぜんあくおなじければ、すなわ功臣こうしんむ。おのれもっぱらにすれば、すなわしもとがす。みずかほこれば、すなわしもこうすくなし。ざんしんずれば、すなわしゅうこころはなす。ざいむさぼれば、すなわかんきんぜず。ないすれば、すなわそついんす。しょういちれば、すなわしゅうふくせず。れば、すなわぐんのりし。さんれば、すなわしもはしぐ。れば、すなわわざわいくにおよぶ。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
17 軍讖曰、將謀欲密、士衆欲一、攻敵欲疾。將謀密、則姦心閉。士衆一、則軍心結。攻敵疾則備不及設。軍有此三者、則計不奪。將謀泄、則軍無勢。外闚内、則禍不制。財入營、則衆姦會。將有此三者、軍必敗。將無慮、則謀士去、將無勇、則士卒恐。將妄動、則軍不重。將遷怒、則一軍懼。軍讖曰、慮也、勇也、將之所重。動也、怒也、將之所用。此四者、將之明誡也。
軍讖ぐんしんいわく、しょうはかりごとみつなるをほっし、しゅういつなるをほっし、てきむるにははやきをほっす、と。しょうはかりごとみつなれば、すなわ姦心かんしんず。しゅういつなれば、すなわ軍心ぐんしんむすぶ。てきむるにはやければ、すなわそなもうくるにおよばず。ぐん三者さんしゃれば、すなわけいうばわれず。しょうはかりごとるれば、すなわぐんいきおし。そとうちうかがえば、すなわわざわいせいせられず。ざいえいれば、すなわしゅうかんあつまる。しょう三者さんしゃれば、ぐんかならやぶる。しょうおもんぱかければ、すなわぼうり、しょうゆうければ、すなわそつおそる。しょうみだりにうごけば、すなわぐんおもからず。しょういかりをうつせば、すなわ一軍いちぐんおそる。軍讖ぐんしんいわく、りょや、ゆうや、しょうおもんずるところなり。どうや、や、しょうもちうるところなり、と。よっつのものは、しょう明誡めいかいなり。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
軍讖曰、軍無財、士不來。軍無賞、士不往。軍讖曰、香餌之下、必有死魚、重賞之下、必有勇夫。故禮者士之所歸、賞者士之所死。招其所歸、示其所死、則所求者至。故禮而後悔者、士不止、賞而後悔者、士不使。禮賞不倦、則士爭死。
軍讖ぐんしんいわく、ぐんざいければ、きたらず。ぐんしょうければ、かず、と。軍讖ぐんしんいわく、こうもとには、かならぎょり、重賞じゅうしょうもとには、かならゆうり、と。ゆえれいするところしょうするところなり。するところまねき、するところしめせば、すなわもとむるところものいたる。ゆえれいしてのちゆるものには、とどまらず、しょうしてのちゆるものには、使つかわれず。れいしょうまざれば、すなわあらそいてす。
  • 死魚 … 底本では「懸魚」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 勇 … 底本では「死」に作るが、『直解』に従い改めた。
軍讖曰、興師之國、務先隆恩。攻取之國、務先養民。以寡勝衆者恩也。以弱勝強者民也。故良將之養士、不易於身。故能使三軍如一心、則其勝可全。
軍讖ぐんしんいわく、おこすのくには、つとめておんさかんにす。るのくには、つとめてたみやしなう。もっしゅうものおんなり。じゃくもっきょうものたみなり、と。ゆえ良将りょうしょうやしなうや、えず。ゆえ三軍さんぐんをして一心いっしんごとくならしむれば、すなわかちまったかるし。
18 軍讖曰、用兵之要、必先察敵情、視其倉庫、度其糧食、卜其強弱、察其天地、伺其空隙。故國無軍旅之難、而運糧者虚也。民菜色者窮也。千里饋糧、士有飢色。樵蘇後爨、師不宿飽。夫運糧千里、無一年之食。二千里、無二年之食。三千里、無三年之食。是謂國虚。國虚則民貧。民貧則上下不親。敵攻其外、民盗其内。是謂必潰。
軍讖ぐんしんいわく、へいもちうるのようは、かならてきじょうさっし、そう糧食りょうしょくはかり、強弱きょうじゃくぼくし、てんさっし、空隙くうげきうかがう、と。ゆえくに軍旅ぐんりょなんくして、りょうはこものきょなり。たみさいしょくあるものきゅうするなり。せんりょうおくれば、しょくり。しょうしてのちかしげば、宿しゅくほうせず。りょうはこぶことせんなれば、一年いちねんしょくし。せんなれば、ねんしょくし。さんせんなれば、三年さんねんしょくし。れをくにむなしとう。くにむなしければ、すなわたみまずし。たみまずしければ、すなわしょうしたしまず。てきそとめ、たみうちぬすむ。れをかならついゆとう。
  • 士 … 底本では「民」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 運糧千里 … 底本では「運糧百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 二千里 … 底本では「二百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 三千里 … 底本では「三百里」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 是謂國虚 … 底本には「謂」の字はないが、『直解』にあるので補った。
19 軍讖曰、上行虐則下急刻。賦重斂數、刑罰無極、民相殘賊。是謂亡國。軍讖曰、内貪外廉、詐譽取名、竊公爲恩、令上下昏、飾躬正顔、以獲高官。是謂盗端。軍讖曰、羣吏朋黨、各進所親、招舉姦枉、抑挫仁賢、背公立私、同位相訕。是謂亂源。軍讖曰、強宗聚姦、無位而尊、威無不震、葛藟相連、種徳立恩、奪在位權、侵侮下民。國内譁諠、臣蔽不言。是謂亂根。
軍讖ぐんしんいわく、かみぎゃくおこなえば、すなわしもきゅうこくなり。おもれん数〻しばしばにして、刑罰けいばつきわまりければ、たみあい残賊ざんぞくす。れを亡国ぼうこくう、と。軍讖ぐんしんいわく、うちむさぼそとれんに、いつわり、こうぬすみておんし、しょうをしてくらからしめ、かざかおただし、もっ高官こうかんる。れをとうはじめう、と。軍讖ぐんしんいわく、ぐん朋党ほうとうし、各〻おのおのしたしむところすすめ、姦枉かんおうまねげ、仁賢じんけんおさくじき、こうそむわたくして、どうあいそしる。れをらんみなもとう、と。軍讖ぐんしんいわく、きょうそうあつまかんし、くらいくしてたっとく、ふるわざるく、葛藟かつるいのごとくあいつらななり、とくおんて、ざいけんうばい、みんおかあなどる。国内こくないけんするも、しんかくしてわず。れをらんこんう、と。
  • 賦重斂數 … 底本では「賦斂重數」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
20 軍讖曰、世世作姦、侵盗縣官、進退求便、委曲弄文、以危其君。是謂國姦。
軍讖ぐんしんいわく、世世よよかんし、県官けんかんおかぬすみ、進退しんたいして便べんもとめ、きょくしてぶんろうし、もっきみあやうくす。れを国姦こくかんう、と。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
軍讖曰、吏多民寡、尊卑相若、強弱相虜、莫適禁禦、延及君子、國受其害。
軍讖ぐんしんいわく、おおくしてたみすくなく、そんあいき、きょうじゃくあいかすめて、まさ禁禦きんぎょするく、きてくんおよべば、くにがいく、と。
  • 害 … 底本では「咎」に作るが、『直解』に従い改めた。
軍讖曰、善善不進、惡惡不退、賢者隱蔽、不肖在位、國受其害。軍讖曰、枝葉強大、比周居勢、卑賤陵貴、久而益大、上不忍廢、國受其敗。
軍讖ぐんしんいわく、ぜんぜんとしてすすめず、あくあくとして退しりぞけず、賢者けんじゃ隠蔽いんぺいし、しょうくらいれば、くにがいく、と。軍讖ぐんしんいわく、ようきょうだいにして、しゅういきおいにり、せんしのぎ、ひさしくして益〻ますますだいなれども、かみはいするにしのびざれば、くにはいく、と。
21 軍讖曰、佞臣在上、一軍皆訟。引威自與、動違於衆、無進無退、苟然取容、專任自己、舉措伐功。誹謗盛徳、誣述庸庸、無善無惡、皆與己同。稽留行事、命令不通。造作苛政、變古易常。君用佞人、必受禍殃。
軍讖ぐんしんいわく、佞臣ねいしんかみれば、一軍いちぐんみなうったう。きてみずかゆるし、うごきてしゅうたがい、すす退しりぞく、苟然こうぜんとしてようり、もっぱ自己じこまかせ、きょこうほこる。盛徳せいとくぼうし、庸庸ようようじゅつし、ぜんあくく、みなおのれおなじうす。こうけいりゅうし、命令めいれいつうぜず。せい造作ぞうさくし、いにしえつねう。きみ佞人ねいじんもちうれば、かならおうく、と。
軍讖曰、姦雄相稱、障蔽主明、毀譽並興、壅塞主聦。各阿所私、令主失忠。故主察異言、乃覩其萌。主聘儒賢、姦雄乃遯。主任舊齒、萬事乃理。主聘巖穴、士乃得實。謀及負薪、功乃可述。不失人心、徳乃洋溢。
軍讖ぐんしんいわく、姦雄かんゆうあいしょうして、しゅめいしょうへいし、毀誉きよならおこり、しゅそう壅塞ようそくす。各〻おのおのわたくしするところおもねり、しゅをしてちゅううしなわしむ、と。ゆえしゅげんさっすれば、すなわきざしる。しゅ儒賢じゅけんへいすれば、姦雄かんゆうすなわのがる。しゅきゅうにんずれば、ばんすなわおさまる。しゅ巌穴がんけつへいすれば、すなわじつはかることしんおよべば、こうすなわし。人心じんしんうしなわざれば、とくすなわ洋溢よういつす、と。
  • 姦 … 『直解』では「奸」に作る。
  • 私 … 底本では「似」に作るが、『直解』に従い改めた。
  • 遯 … 『直解』では「遷」に作る。
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