得楽天書(元稹)
得樂天書
楽天の書を得たり
楽天の書を得たり
- 七言絶句。如・書(上平声魚韻)。
- ウィキソース「得樂天書」参照。
- 楽天 … 白居易の字。
- 書 … 手紙。
- この詩は、親友である白居易からの手紙を受け取った折の様子を詠んだもの。この時、白居易は江州(江西省九江市)司馬に左遷されており、元稹も通州(四川省達州市)司馬に左遷されていた。元和十二年(817)、元稹三十九歳の作。
- 元稹 … 779~831。中唐の詩人。河南(河南省洛陽市)の人。字は微之。貞元九年(793)、十五歳で明経科に合格。元和元年(806)、進士に及第。左拾遺、監察御史などを歴任。元和五年(810)、江陵府(湖北省)の士曹参軍に左遷された。元和十年(815)、通州(四川省達州市)に左遷。長慶二年(822)、同中書門下平章事(宰相)となるが、わずか四ヶ月で失脚、同州(陝西省渭南市)刺史に出される。大和三年(829)、都に戻り、尚書左丞となった。また武昌軍節度使にもなった。大和五年(831)、武昌(湖北省武漢市武昌区)にて病死した。白居易の親友で元白と併称された。伝奇小説『鶯々伝』、詩文集『元氏長慶集』六十巻がある。ウィキペディア【元稹】参照。
遠信入門先有淚
遠信 門に入りて 先ず涙有り
- 遠信 … 遠方からの手紙。また、手紙を届ける使者。北宋の蘇軾「陶(潜)の(丙申の歳、八月中)下潠の田舎に穫る(の作)に和す」詩に「海を跨えて遠信を得たり、氷盤 鳴玉哀し」(跨海得遠信、冰盤鳴玉哀)とある。ウィキソース「和丙辰歲八月中於下潠田舍穫」参照。
- 入門 … 門の内に入って。後漢の蔡邕の楽府「飲馬長城窟行」(『玉台新詠』巻一、『楽府詩集』巻三十八)に「門に入りて各〻自ら媚ぶ、誰か肯えて相為に言わん」(入門各自媚、誰肯相爲言)とある。ウィキソース「飲馬長城窟行 (蔡邕)」参照。
- 先有涙 … たちまち涙があふれた。北斉の鄭公超「庾羽騎抱を送る」詩に「君を送れば自ずから涙有り、猿吟を聴くを仮らず」(送君自有涙、不假聽猿吟)とある。。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷120」参照。
妻驚女哭問何如
妻は驚き女は哭きて 何如と問う
尋常不省曾如此
尋常は省曾て此の如くならざりき
- 尋常 … ふだん。平時。
- 省曾 … ここでは、二字で「かつて」と読む。「省」も「かつて」の意。「曾」と同義。『詩詞曲語辞匯釈』巻五、「省(二)」の条に「省は、猶お曾のごとし」(省、猶曾也)とある。詳しくは、同書及び『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』参照。中唐の韓愈「李花、張十一署に贈る」詩に「花に対して豈に省曾て杯を辞せんや」(對花豈省曾辭杯)とある。ウィキソース「李花贈張十一署」参照。
- 不~如此 … こんなことはなかった。
應是江州司馬書
応に是れ江州の司馬の書なるべし
- 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
- 江州司馬書 … 江州に流された司馬の白居易からの手紙。
- 江州 … 現在の江西省九江市。『新唐書』地理志に「江州潯陽郡、上。本の九江郡、天宝元年に名を更む」(江州潯陽郡、上。本九江郡、天寶元年更名)とある。ウィキソース「新唐書/卷041」参照。ウィキペディア【江州 (江西省)】参照。
- 司馬 … 州・郡の属官。刺史を補佐して軍事を掌った。『事物紀原』撫字長民部第三十一、司馬の条に「魏晋より以後、刺史にして将軍開府を帯ぶる者は則ち之を置く。此れより始めて州郡の官と為す。唐の高宗、位に即いて治中を改めて司馬節度と為し、亦た行軍司馬有り。今節度団練副使と、並びに以て貶責の官と為す」(魏晉以後、刺史帶將軍開府者則置之。自此始爲州郡官。唐高宗即位改治中爲司馬節度、亦有行軍司馬。今與節度團練副使、竝以爲貶責之官)とある。ウィキソース「事物紀原 (四庫全書本)/卷06」参照。
テキスト
- 『全唐詩』巻四百十五(排印本、中華書局、1960年)
- 『元氏長慶集』巻二十(『四部叢刊 初篇集部』所収、明嘉靖壬子董氏刊本)
- 『唐詩品彙』巻五十二([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩別裁集』巻二十([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十一(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
- 『元稹集』巻二十(冀勤点校、中華書局、1982年)
- 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
こちらもオススメ!
| 歴代詩選 | |
| 古代 | 前漢 |
| 後漢 | 魏 |
| 晋 | 南北朝 |
| 初唐 | 盛唐 |
| 中唐 | 晩唐 |
| 北宋 | 南宋 |
| 金 | 元 |
| 明 | 清 |
| 唐詩選 | |
| 巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
| 巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
| 巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
| 巻七 七言絶句 | |
| 詩人別 | ||
| あ行 | か行 | さ行 |
| た行 | は行 | ま行 |
| や行 | ら行 | |