回郷偶書(賀知章)
囘鄉偶書
郷に回りて偶〻書す
郷に回りて偶〻書す
- 七言絶句。回・催・來(上平声灰韻)。
- ウィキソース「回鄉偶書二首」参照。ウィキメディア・コモンズ『賀秘監集』「回鄉偶書(詩題)」「回鄉偶書(本文)」(『四明叢書』所収)参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』では「二首其一」に作る。『賀秘監集』では「二首其二」に作り、題下に「一作囘鄉偶成」と注する。『万首唐人絶句』では「二首其二」に作る。
- 回郷 … 故郷へ帰る。
- 偶書 … ふと思いつくままに書き記すこと。「偶成」に同じ。
- 賀知章 … 659~744。盛唐の詩人、書家。字は季真。会稽郡永興県(現在の浙江省杭州市蕭山区)の人。証聖元年(695)、進士に及第。諸官を歴任の後、開元十三年(725)に礼部侍郎兼集賢院学士に至ったが、後に太子賓客・工部侍郎・秘書監等に改められた。酒を好み、杜甫の「飲中八仙歌」にも詠まれた。晩年は官を辞し、郷里に隠棲して「四明狂客」と号し、悠々自適の生活を送った。『賀秘監集』一巻が残っている。ウィキペディア【賀知章】参照。
少小離鄉老大囘
少小にして郷を離れ 老大にして回る
- 少小 … 年の若いこと。「年少」に同じ。三国魏の曹植の楽府「白馬篇」(『文選』巻二十七)に「少小にして郷邑を去り、声を沙漠の垂に揚ぐ」(少小去鄉邑、揚聲沙漠垂)とある。郷邑は、村里。声は、名声。評判。垂は、ほとり。辺境。ウィキソース「白馬篇 (曹植)」参照。
- 少 … 『賀秘監集』では「幼」に作り、「一作少」と注する。『万首唐人絶句』では「幼」に作る。
- 離郷 … 故郷を出て。故郷を離れて。陳の賀力牧の楽府「関山月」に「此の処 郷を離るるの客、遥心 万里に懸く」(此處離郷客、遙心萬里懸)とある。ウィキソース「樂府詩集/023卷」参照。
- 郷 … 『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「家」に作る。『賀秘監集』では「家」に作り、「一作郷」と注する。
- 老大 … 年をとること。老人になること。「老年」に同じ。古楽府「長歌行」に「少壮にして努力せずんば、老大にして徒らに傷悲せん」(少壯不努力、老大徒傷悲)とある。ウィキソース「樂府詩集/030卷」参照。
鄉音無改鬢毛催
郷音改まる無く 鬢毛催す
- 郷音 … 故郷の言葉の発音。国なまり。
- 無 … 『全唐詩』『万首唐人絶句』では「難」に作る。『賀秘監集』では「難」に作り、「一作無」と注する。
- 鬢毛 … びんの毛。盛唐の李白「舎人弟台卿の江南に之くに贈別す」詩に「覚め罷んで明鏡を攬り、鬢毛 颯として已に霜なり」(覺罷攬明鏡、鬢毛颯已霜)とある。ウィキソース「贈別舍人弟臺卿之江南」参照。
- 鬢 … 『全唐詩』には「一作面」と注する。『賀秘監集』『万首唐人絶句』では「面」に作る。
- 催 … (白髪が)交じり始めた。『唐詩別裁集』では「摧」に作る。『万首唐人絶句』では「腮」に作る。『全唐詩』『唐詩品彙』『唐詩解』では「衰」に作る。「衰」(衰える意)は、上平声支韻となり、韻が揃わない。ただし、「衰」と発音すれば上平声灰韻となって韻は揃うが、喪服の意となり、またおかしい。『唐詩解』には「衰の字は韻を失す、疑うらくは当に摧に作るべし」(衰字失韻、疑當作摧)と注する。
- 鬢毛催 … 『賀秘監集』では「面毛䰄」に作り、「一作鬢毛衰、又作面皮衰」と注する。
兒童相見不相識
児童 相見て相識らず
- 児童 … ここでは、一族内の子どもたち。
- 児 … 『賀秘監集』には「一作家」と注する。『万首唐人絶句』では「家」に作る。
- 相見 … (児童が私を)見て。『詩経』小雅・頍弁の詩に「死喪日無く、幾くも相見ること無し」(死喪無日、無幾相見)とある。死喪は、死ぬこと。ウィキソース「詩經/頍弁」参照。
- 相 … ここでは「互いに」という意味ではなく、動作に対象があることを示す接頭語。「(対象に)~する」「(対象を)~する」と訳す。
- 不相識 … (私が誰だか)わからない。『関尹子』七釜篇に「二幼相好す、其の壮なるに及びてや、相遇えば則ち相識らず。二壮相好す、其の老いるに及びてや、相遇えば則ち相識らず」(二幼相好、及其壯也、相遇則不相識。二壯相好、及其老也、相遇則不相識)とある。二幼は、二人の幼い者。相好は、互いに親密なこと。なじみ。二壮は、二人の壮年の者。ウィキソース「關尹子/7」参照。
笑問客從何處來
笑って問う 客は何れの処より来ると
- 笑 … 『全唐詩』には「一作借、一作卻」と注する。『賀秘監集』では「卻」に作り、「一作笑、又作借」と注する。『万首唐人絶句』では「卻」に作る。『唐詩品彙』『唐詩解』では「咲」に作る。「咲」は「笑」と同意であるが、日本では「笑う」の意に「咲」の字を用いない。
- 客従何処来 … お客さんはどこから来たの。客は、よそから来た人。お客さん。「古詩十九首」(其十八、『文選』巻二十九)に「客遠方より来り、我に一端の綺を遺る」(客從遠方來、遺我一端綺)とある。綺は、あやぎぬ。ウィキソース「客從遠方來」参照。また、南朝梁の呉均「春詠」詩(『玉台新詠』巻六)に「春は何れの処より来る、衣を払い復た梅を驚かす」(春從何處來、拂衣復驚梅)とある。ウィキソース「春詠 (吳均)」参照。
テキスト
- 『全唐詩』巻一百十二(排印本、中華書局、1960年)
- 馮貞群・張壽鏞同輯『賀秘監集』(『四明叢書』第一集・第四冊、四明張氏約園刊、民國二十一年[1932])
- 『唐詩三百首注疏』巻六下・七言絶句(廣文書局、1980年)
- 『唐詩品彙』巻四十六([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻二十五(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『万首唐人絶句』七言・巻二十二(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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