咸陽城東楼(許渾)
咸陽城東樓
咸陽城の東楼
咸陽城の東楼
- 〔テキスト〕 『三体詩』七言律詩・四実、『全唐詩』巻五百三十三、『許用晦文集』巻一(『続古逸叢書』所収)、『丁卯集』巻上(『四部叢刊 初編集部』所収)、『文苑英華』巻三百十三、『唐詩品彙』巻八十八、『才調集』巻七、『唐詩別裁集』巻十六、他
- 七言律詩。愁・洲・樓・秋・流(平声尤韻)。
- ウィキソース「全唐詩/卷533」「丁卯集 (四部叢刊本)/卷上」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』には題下に「一作咸陽城西樓晩眺。一作西門」とある。『文苑英華』では「咸陽城西樓晩眺」に作る。
- 咸陽城 … 咸陽の町。城は、城壁で囲まれた町全体を指す。城市。咸陽は長安の西北にあり、秦の都があった所。ウィキペディア【咸陽市】参照。
- 東楼 … 咸陽の町を取り囲む東の城壁の上に建てられた高楼。
- 許渾 … 791~854?。晩唐の詩人。潤州丹陽(江蘇省丹陽市)の人。字は用晦。一説に仲晦。大和六年(832)、進士に及第。監察御史、虞部員外郎、睦州(浙江省)の刺史、郢州(湖北省)の刺史を歴任。『許用晦文集』二巻・拾遺二巻、『丁卯集』二巻がある。ウィキペディア【許渾】参照。
一上高城萬里愁
一たび高城に上れば万里愁う
- 一上 … ふと何気なく登ってみると。
- 一 … 『唐詩品彙』では「獨」に作る。
- 高城 … 高楼。詩題の「東楼」を指す。
- 城 … 『唐詩別裁集』では「樓」に作る。
- 万里愁 … 「万里の愁い」と読んでもよい。万里の彼方まで悲しみに満ち満ちている。
蒹葭楊柳似汀洲
蒹葭 楊柳 汀洲に似たり
- 蒹葭 … 水際に生えるオギやアシの類。
- 楊柳 … 柳の総称。楊は、カワヤナギ。柳は、シダレヤナギ。
- 柳 … 『唐詩別裁集』では「栁」に作る。異体字。
- 汀洲 … 水際の砂地。
溪雲初起日沈閣
渓雲 初めて起りて 日 閣に沈み
- 渓雲 … 谷間から沸き起こった雲。
- 初 … 今しも~したばかり。やっと~したばかり。
- 日 … 太陽。
- 沈閣 … 高殿の陰に沈んでいく。
- 沈 … 『許用晦文集』『才調集』『唐詩別裁集』では「沉」に作る。異体字。
- 渓雲初起日沈閣 … 『全唐詩』には「南のかた磻渓に近く、西のかた慈福寺の閣に対す」(南近磻溪、西對慈福寺閣)とある。「磻渓」は、陝西省を流れ、渭水に注ぐ川の名。太公望呂尚が釣りをしたといわれる。
山雨欲來風滿樓
山雨来らんと欲して 風 楼に満つ
- 山雨 … 山の方から降ってくる雨。
- 欲 … ~しそうだ。
- 楼 … 詩題の「東楼」を指す。
- 山雨欲来風満楼 … 山から雨が降り出そうとする前に、風が高殿いっぱいに吹き込んでくる。故事名言「山雨来らんと欲して風楼に満つ」参照。
鳥下綠蕪秦苑夕
鳥は緑蕪に下る 秦苑の夕べ
- 緑蕪 … 青々と雑草の生い茂った荒れた草地。蕪は、生い茂った雑草。
- 秦苑 … かつての秦の宮園。
- 夕 … 夕暮れ。日が暮れていく。
蟬鳴黃葉漢宮秋
蟬は黄葉に鳴く 漢宮の秋
- 黄葉 … 黄ばんだ葉かげで。
- 漢宮 … かつての漢の宮殿。渭水を隔てた長安にあった。
- 秋 … 秋の気配が忍び寄る。
行人莫問當年事
行人 問う莫れ 当年の事
- 行人 … 旅人。
- 莫問 … 聞かないでほしい。聞いてくれるな。
- 莫 … 「なかれ」と読み、「~するな」と訳す。禁止・命令の意を示す。
- 当年 … その当時。華やかだった秦と漢の時代を指す。『全唐詩』には「一作前朝」とある。『文苑英華』では「前朝」に作り、「一作當時」とある。『許用晦文集』『才調集』には尾聯に対し「一作行人莫問前朝事、渭水寒光晝夜流」とある。
故國東來渭水流
故国 東来 渭水流る
- 故国 … 古い都。咸陽を指す。
- 東来 … 東へ向かって。「来」は、助字。
- 渭水 … 黄河最大の支流。渭河とも。甘粛省隴西県の鳥鼠山に源を発し、長安を過ぎ、最後に黄河に合流する。ウィキペディア【渭水】参照。『書経』禹貢篇に「渭を導き、鳥鼠同穴より、東して灃に会し、又た東して涇に会し、又た東して漆・沮を過ぎ、河に入る」(導渭、自鳥鼠同穴、東會于灃、又東會于涇、又東過漆沮、入于河)とある。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。また『山海経』西山経に「又た西二百二十里を、鳥鼠同穴の山と曰う。其の上に白虎・白玉多し。渭水焉より出でて、東流して河に注ぐ」(又西二百二十里、曰鳥鼠同穴之山。其上多白虎白玉。渭水出焉、而東流注于河)とある。ウィキソース「山海經/西山經」参照。
- 故国東来渭水流 … 『全唐詩』には「一作渭水寒聲晝夜流、聲一作光」とある。『文苑英華』では「渭水寒聲晝夜流」に作る。
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