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憲問第十四 12 子曰孟公綽爲趙魏老則優章

344(14-12)
子曰、孟公綽、爲趙魏老則優。不可以爲滕薛大夫也。
いわく、もうこうしゃくは、ちょうろうればすなわゆうなり。もっとうせつたいからず。
現代語訳
  • 先生 ――「孟公綽(シャク)は、趙(チョウ)家や魏(ギ)家の執事なら、りっぱなもの。だが滕(トウ)や薛(セツ)の国の家老にはできない。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「もうこうしゃくは、しんちょう魏家ぎかのようなたいでも一家のろうとしては十二分だが、とうせつのような小国でも、一国の大夫として国政をるには不適当だ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    もうこうしゃくは、たとえしんちょう家や家のような大家であっても、その家老になったらりっぱなものだろう。しかし、とうせつのような小国でも、その大夫にはなれない人物だ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 孟公綽 … 魯の国の大夫。孟孫氏の一族。無欲の人だったが、政治的手腕に欠けていたらしい。ウィキペディア【孟公綽】(中文)参照。
  • 趙 … 大国晋に仕えていた臣下(卿)の趙氏を指す。当時、晋には、范氏・智氏・中行氏・趙氏・魏氏・韓氏の六卿があった。のちに晋が滅亡し、趙・魏・韓の三卿が残った。
  • 魏 … 大国晋に仕えていた臣下(卿)の魏氏を指す。
  • 老 … 家の家老。家臣の筆頭。
  • 優 … 余裕がある。十二分。
  • 滕 … 諸侯国。今の山東省滕州市。魯の南にあった小国。ウィキペディア【】参照。
  • 薛 … 諸侯国。今の山東省滕州市の東南部にあった。戦国時代に斉に滅ぼされた。ウィキペディア【薛国】(中文)参照。
  • 大夫 … 周代、諸侯国の家老。一国の重臣。
補説
  • 『注疏』に「此の章は魯の大夫孟公綽の才性を評するなり」(此章評魯大夫孟公綽之才性也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 子曰、孟公綽、為趙魏老則優 … 『集解』に引く孔安国の注に「公綽は、魯の大夫なり。趙・魏は、皆晋の卿なり。家臣を老と称す。公綽は性寡欲にして、趙・魏は賢を貪り、家老は職無し。故に優なり」(公綽、魯大夫也。趙魏、皆晉卿也。家臣稱老。公綽性寡欲、趙魏貪賢、家老無職。故優)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此れ人生の性分各〻能くする所有るを明らかにす。趙・魏は皆晋の卿の地なり。老とは、采邑の室老なり。優は、猶お寛閑のごときなり。公綽の性は静かにして寡欲なり。若し采邑を為むるの時ならば、則ち寛緩にして余裕有るなり」(此明人生性分各有所能。趙魏皆晉卿地也。老者、采邑之室老也。優、猶寛閑也。公綽性靜寡欲。若爲采邑之時、則寛緩有餘裕也矣)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「趙・魏は皆晋の卿、食む所の采邑の名なり。家臣を老と称す。公綽の性は寡欲にして、趙・魏は賢を貪り、家老に職無し。若し公綽之と為らば、則ち優游にして余裕有るなり」(趙魏皆晉卿所食采邑名也。家臣稱老。公綽性寡欲、趙魏貪賢、家老無職。若公綽爲之、則優游有餘裕也)とある。また『集注』に「公綽は、魯の大夫なり。趙・魏は、晋卿の家なり。老は、家臣の長なり。大家勢重くして諸侯の事無し。家老は望み尊けれども官守の責無し。優は、余り有るなり」(公綽、魯大夫。趙魏、晉卿之家。老、家臣之長。大家勢重而無諸侯之事。家老望尊而無官守之責。優、有餘也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 綽 … 『経典釈文』には「本と又た繛に作る」(本又作繛)とある。『経典釈文』(早稲田大学図書館古典籍総合データベース)参照。
  • 不可以為滕薛大夫也 … 『集解』に引く孔安国の注に「滕・薛は小国にして、大夫の職わずらわしきなり。故に為す可からざるなり」(滕薛小國、大夫職煩。故不可爲也)とある。また『義疏』に「滕・薛は皆小国にして、職煩わし。公綽大夫と為す能わざるなり」(滕薛皆小國、職煩。公綽不能爲大夫也)とある。また『注疏』に「滕・薛は乃ち小国にして、大夫の職は煩わしければ、則ち為す可からざるなり」(滕薛乃小國、而大夫職煩、則不可爲也)とある。また『集注』に「滕・薛は、二国の名なり。大夫は、国政に任ずる者なり。滕・薛は国小にして政繁く、大夫は位高くして責重し。然らば則ち公綽蓋し廉静寡欲にして、才に短き者なり」(滕薛、二國名。大夫、任國政者。滕薛國小政繁、大夫位高責重。然則公綽蓋廉靜寡欲、而短於才者也)とある。
  • 『集注』に引く楊時の注に「之を知ることあらかじめせず、其の才をげて之を用うれば、則ち人を棄つるを為す。此れ君子の人を知らざるを患うる所以なり。此を言えば則ち孔子の人を用うること知る可し」(知之弗豫、枉其才而用之、則爲棄人矣。此君子所以患不知人也。言此則孔子之用人可知矣)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ人各〻能有り、不能有り。若し能く其の長を用いて、其の短を棄つることは、則ち人各〻其の能を尽くすことを得て、天下棄才無きを言うなり。……此れ人を用いるのけんなり」(此言人各有能、有不能。若能用其長、而棄其短、則人各得盡其能、而天下無棄才也。……此用人之權度也)とある。権度は、尺度。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』には、この章の注なし。
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