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泰伯第八 17 子曰學如不及章

201(08-17)
子曰、學如不及、猶恐失之。
いわく、がくおよばざるがごとくするも、これうしなわんことをおそる。
現代語訳
  • 先生 ――「追っかけどおしでも、のがしそうなのが学問。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「学問は逃げる人を追いかけても追いつき兼ねるような気持であっても、なお取り逃しそうな心配がある。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「学問は追いかけて逃がすまいとするような気持でやっても、なお取りにがすおそれがあるものだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 学 … 学問。
  • 如不及 … 追いかけても追いかけても、なかなか追いつくことができないものであるかのような気持ちで、一心に励むこと。
  • 猶 … それでもなお。ここの場合は「なお~のごとし」と読む再読文字ではない。
  • 失 … 見失う。
  • 之 … 学問の目標。
補説
  • 『注疏』に「此の章は学を勧むるなり」(此章勸學也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 学如不及、猶恐失之 … 『集解』の何晏の注に「学は外より入り、熟すに至りて乃ち長久なる可し。如し及ばざれば、猶お之を失わんことを恐るるのみ」(學自外入、至熟乃可長久。如不及、猶恐失之耳也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「言うこころは学の法たる、急に取得するに務め、恒に前人を追いて必ず及ぶことを取らんと欲するが如くす。故に及ばざるが如くすと云うなり。又た学んで若し得る所有らば、則ち戦戦として之を持し、猶お人物を執りて恒に去失せんことを恐るるが如くす。当に之を録すべきを意と為すなり」(言學之爲法、急務取得、恆如追前人欲取必及。故云如不及也。又學若有所得、則戰戰持之、猶如人執物恆恐去失。當録之爲意也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「言うこころは学は外より入り、熟するに至りて乃ち長久す可し。故に学に勤めて汲汲として及ばざるが如くするも、猶お之を失わんことを恐るるなり。何ぞ況んや怠惰して汲汲とせざる者をや」(言學自外入、至熟乃可長久。故勤學汲汲如不及、猶恐失之也。何況怠惰而不汲汲者乎)とある。また『集注』に「言うこころは人の学を為すや、既に及ばざる所有るが如くして、其の心猶おしょうぜんとして、惟だ其の或いは之を失わんことを恐る。学者の当に是くの如くすべきことを警むるなり」(言人之爲學、既如有所不及矣、而其心猶竦然、惟恐其或失之。警學者當如是也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く程頤の注に「学は及ばざるが如くして、猶お之を失うことを恐るるは、放過するを得ず。わずかにしばらく明日を待つと説けば、便ち不可なり」(學如不及、猶恐失之、不得放過。才説姑待明日、便不可也)とある。
  • 安井息軒『論語集説』に「学は当に逃ぐる者を追うて及ぶ能わざるが如くすべし。……之の字は学を指す。時にあやまって学べば、則ち扞格かんかくして入り難し。是れ之を失うなり」(學當如追逃者而不能及。……之字指學。時過而學、則扞格而難入。是失之也)とある。扞格は、かたくこばんで入れないこと。『論語集説』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「言うこころは学を為す者は、其の心を用いること、当にぐるを追う者の及ぶこと能わずして竟に之を失わんことを恐るるが若くするなり。夫れ人学を知らざれば則ち已む。苟くも学の美たるを知りて、懈怠して勤めざれば、則ち是れ勇無きなり。故に智に非ざれば進まず、勇に非ざれば成らず。学者其れ務むる所を知らざる可けんや」(言爲學者、其用心、當若追亡者之恐、不能及而竟失之也。夫人不知學則已。苟知學之爲美、而懈怠不勤、則是無勇也。故非智不進、非勇不成。學者其可不知所務哉)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「朱子曰く、言うこころは人の学をする、既に及ばざる所有るが如くす。而うして其の心猶おしょうぜんとして惟だ其の或いは之を失わんことを恐る、と。是れ意を誠にし心を正しうするを以て学と為すなり。失うと云う者は、時と人とを失うを謂うなり」(朱子曰、言人之爲學、既如有所不及矣。而其心猶竦然惟恐其或失之。是以誠意正心爲學也。失云者、謂失時與人也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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