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雍也第六 15 子曰誰能出不由戸章

134(06-15)
子曰、誰能出不由戶。何莫由斯道也。
いわく、たれづるにらざらん。なんみちることきや。
現代語訳
  • 先生 ――「出るには戸口しかないのに…。なぜこの道をとおらないのかな…。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「家を出るにぐちを通らぬ者は誰もあるまい。それだのにどうしてこの人の道を通ろうとしないのだろう。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「外に出るのに戸口を通らないものはない。しかるに、どうして人々は、人間が世に出るのに必ず通らなければならないこの道を通ろうとしないだろう」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 戸 … 門戸。戸口。出入り口にある一枚扉。
  • 由 … 経由する。通る。行く。
  • 何莫 … 「なんぞ~なきや」と読み、「どうして~(し)ないのだろう」と訳す。
  • 斯道 … 人の道。道理。
補説
  • 『注疏』に「此の章は道は身を立つるのかなめたるを言うなり」(此章言道爲立身之要也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 出不由戸 … 『集解』に引く孔安国の注に「言うこころは人、立身成功するは、当に道に由るべし。譬えば猶お人の出入するの要、当に戸にるべきがごときなり」(言人立身成功、當由道。譬猶人出入要當從戸也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 不由戸 … 『義疏』では「不由戸者」に作る。
  • 何莫由斯道也 … 『義疏』に「道は、先王の道なり。人生まれ得て世に在り。皆先王の道理に由りて通ず。而るに世人多く理に違い道に背く。故に孔子譬えを為して以て時の惑いを示し解するなり。言うこころは人の室に在りて、出入戸に由りて通ず。亦た世に在りて道理に由るが如くにして生ず。而るに人皆室を出づるに戸に由るを知れども、未だ世に在りて道に由るを知らず。故に云う、誰か能く出づるに戸に由らざらん。何ぞ斯の道に由ること莫きや、無きこと莫きなり、と。斯は、此なり。故に范寧云う、人みな戸に由りて行くを知れども、学に由りて成るを知ること莫きなり、と」(道、先王之道也。人生得在世。皆由於先王道理而通。而世人多違理背道。故孔子爲譬以示解時惑也。言人之在室、出入由戸而通。亦如在世由道理而生。而人皆知出室由戸、而未知在世由道。故云、誰能出不由戸。何莫由斯道也、莫無也。斯、此也。故范寧云、人咸知由戸而行、莫知由學而成也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「故に曰く、誰人たれびとぞ能く出入するに門戸に由らざる、と。以て何人も身を立つるに此の道に由らざるに譬うるなり。言うこころはひと身を立て功を成すには当に道に由るべきこと、譬えば猶お出入するに要は当に戸にるべきがごとし」(故曰、誰人能出入不由門戶。以譬何人立身不由於此道也。言人立身成功當由道、譬猶出入要當從戶)とある。
  • 『集注』に「言うこころは人づるに戸に由らざること能わず、何の故に乃ち此の道に由らざるや。怪しみて之を歎ずるの辞なり」(言人不能出不由戸、何故乃不由此道耶。怪而歎之之辭)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く洪興祖の注に「人出づるに必ず戸に由るを知りて、行うに必ず道に由るを知らず。道の人を遠ざくるに非ず、人自ら遠ざくるのみ」(人知出必由戸、而不知行必由道。非道遠人、人自遠爾)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「道は猶お大路のごとくに然り、由らば則ち安く、由らずんば則ち危うし。康荘の平らかなるにしたがえば、則ち自ら其の労を忘れ、荊棘の艱を踏めば、則ち其の苦に堪えず。いやしくも道は大路の如きを知れば、則ちいずれか肯えて其の安を去って、其の危に就く者有らんや。故に学は知るを以て先と為って、行うを以て要と為す」(道猶大路然、由焉則安、不由則危。遵康莊之平、則自忘其勞、踏荊棘之艱、則不堪其苦。苟知道如大路、則孰有肯去其安、而就其危者哉。故學以知爲先、而以行爲要)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「上古は穴居けっきょしてしょす、後世聖人之に易うるに宮室を以てし、むねかみにしのきしもにして、以て風雨を待つ、是に於いてか戸有り、是れ戸は聖人の作る所なり。道も亦た聖人の立つる所なり。戸に於いては則ち之に由る、謂って自然とす。道に於いては則ち之に由らざるは、自然に非ずと謂う。然りと雖も、道の由らざる可からざるは、其れ猶お戸のごときか」(上古穴居而野處、後世聖人易之以宮室、上棟下宇、以待風雨、於是乎有戸、是戸聖人所作也。道亦聖人所立也。於戸則由之、謂爲自然矣。於道則不由之、謂非自然矣。雖然、道之不可不由、其猶戸乎)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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