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雍也第六 14 子曰不有祝鮀之佞章

133(06-14)
子曰、不有祝鮀之佞、而有宋朝之美、難乎免於今之世矣。
いわく、しゅくねいらずして、そうちょうるは、かたいかないままぬかれんこと。
現代語訳
  • 先生 ――「あの祝鮀(シュクダ)の弁才がなくて、美男子宋朝の顔だけでは、とても今の世に無事ではすむまい。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「祝鮀のような弁才があり、その上に宋朝のような風采ふうさいがなければ当世に通用しないとは、なさけないことじゃ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    しゅくほど口がうまくて、そうちょうほどの美男子でないと、無事にはつとまらないらしい。なんというなさけない時代だろう」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 祝鮀 … 生没年不詳。衛の大夫。名は鮀、あざなは子魚。祝は、宗廟の祭祀の官。霊公に仕え、雄弁であったといわれている。ウィキペディア【祝佗】(中文)参照。
  • 佞 … 弁舌がたくみである。雄弁。口才。「おもねる」の意ではない。
  • 宋朝 … 宋の公子、名はちょう。頗る美男子であったという。衛の霊公の夫人、なんが結婚前から通じていた。ウィキペディア【宋朝 (人物)】(中文)参照。
  • 不有祝鮀之佞、而有宋朝之美 … 朱子は「祝鮀の佞有りて、宋朝の美有らずんば」と読んでいる。伊藤仁斎は朱子の訓読に従っているが、荻生徂徠は「従うべからず」と言っている。
  • 難 … 難しい。困難である。
  • 免 … 危難を免れる。
補説
  • 『注疏』に「此の章は世の口才をたっとぶを言うなり」(此章言丗尚口才也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 不有祝鮀之佞 … 『集解』に引く孔安国の注に「佞は、口才なり。祝鮀は、衛の大夫、名は子魚なり。時世之を貴ぶ」(佞、口才也。祝鮀、衞大夫、名子魚也。時世貴之)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「祝鮀は能く佞を作すなり」(祝鮀能作佞也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「佞は、口才なり。祝鮀は、衛の大夫の子魚なり。口才有るは、時世之を貴ぶ」(佞、口才也。祝鮀、衞大夫子魚也。有口才、時世貴之)とある。また『集注』に「祝は、宗廟の官。鮀は、衛の大夫、字は、子魚。口才有り」(祝、宗廟之官。鮀、衞大夫、字、子魚。有口才)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 而有宋朝之美、難乎免於今之世矣 … 『集解』に引く孔安国の注に「宋朝は、宋国の美人なり。而して善くみだる。言うこころは当に祝鮀の佞の如くすべく、而れども反りて宋朝の美の如ければ、難きかな、今の世の害を免るるや」(宋朝、宋國之美人也。而善淫。言當如祝鮀之佞、而反如宋朝之美、難矣、免於今世之害也)とある。また『義疏』に「宋朝は、宋国の美人にして善く淫欲を能くする者なり。爾の時に当たりて佞を貴び淫を重んず。此の二人並びに其の事有り。故に曰く、寵幸を得て患難を免る、と。故に孔子曰く、言うこころは人若し祝鮀の佞有らずんば、反って宜しく宋朝の美有るべし。若し二者並びに無くんば、則ち今の世の患難を免るること難きなり、と。故に范寧曰く、祝鮀は佞諂ねいてんを以て霊公に寵せらる。宋朝は美色を以て南子に愛せらる。無道の世、並びに以て容を取る。孔子は時の民濁乱し、唯だ佞色のみ是れ尚び、忠正の人其の身を容れざるを悪む。故に難いかなの談を発して、将に以て乱俗を激せんとす。亦た君子身を全くして害より遠ざかるを発明せんと欲するなり、と」(宋朝、宋國之美人善能淫欲者也。當于爾時貴佞重淫。此二人竝有其事。故曰、得寵幸而免患難。故孔子曰、言人若不有祝鮀佞、反宜有宋朝美。若二者並無、則難免今世之患難也。故范寧曰、祝鮀以佞諂被寵於靈公。宋朝以美色見愛於南子。無道之世、並以取容。孔子惡時民濁亂、唯佞色是尚、忠正之人不容其身。故發難乎之談、將以激亂俗。亦欲發明君子全身遠害也)とある。また『注疏』に「宋朝は、宋の美人にして善く淫し、時世之をにくむ。言うこころは人は当に祝鮀の口才有るが如くなるべくんば、則ち貴重せられん。若し祝鮀の佞無くして、而も反りて宋朝の美有らば、難きかな今の世の害より免かるるは」(宋朝、宋之美人善淫、時世疾之。言人當如祝鮀之有口才、則見貴重。若無祝鮀之佞、而反有宋朝之美、難乎免於今之世害也)とある。また『集注』に「朝は、宋の公子、美色有り。言うこころは衰世にを好み色を悦ぶ。此に非ざれば免れ難し。蓋し之を傷むなり」(朝、宋公子、有美色。言衰世好諛悦色。非此難免。蓋傷之也)とある。
  • 宮崎市定は「子曰く、衞の國で有名な祝鮀のような辯才を持たずに、宋朝のような美貌を持ったなら、どんな不幸な身の上になるか知れない」と訳し、「從來の解釋はこれを衞の國の運命のこととして、祝鮀の辯才によって宋朝の害毒を制御するのでなかったら、國が滅びていたかも知れない、と文章以上の意味を付け加える。しかしここはやはり、美貌が仇になる個人の運命を言ったものであろう」と解釈している(『論語の新研究』219頁)。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ夫子時俗の甚だ衰えて、古えの徳を尚ぶにかざることを傷むなり」(此夫子傷時俗之甚衰、而不如古之尚德也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「朱註は一不を以て二有を管す。辞に於いて順ならず、従う可からず。……蓋し佞とは古え口才を称す、未だ姦悪かんあくの意有らず。……聖人の之を悪む所以の者は、行いのおよばざるを以てなり。……祝鮀・宋朝は、皆衛の大夫なり。……其の臣に祝鮀の才無く、而うして唯だ宋朝の美有り、故に孔子は其の患難を免れざることを論ずるのみ。門人が之を録せる所以の者は、孔子平日佞を悪む、而うして時有ってか是の言有るを以て、故に以て聖人の道の大いにして、人才を没せず、其の論は大いに曲士拘儒こうじゅの類の如きに非ざることをあらわすのみ」(朱註以一不管二有。於辭不順。不可從矣。……蓋佞古稱口才。未有姦惡之意。……聖人所以惡之者、以行之不逮也。……祝鮀宋朝、皆衞大夫。……其臣無祝鮀之才、而唯有宋朝之美、故孔子論其不免於患難耳。門人所以録之者、以孔子平日惡佞、而有時乎有是言、故以見聖人道大、不沒人才、其論大非如曲士拘儒之類耳)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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