公冶長第五 26 子曰已矣乎章
118(05-26)
子曰、已矣乎、吾未見能見其過、而内自訟者也。
子曰、已矣乎、吾未見能見其過、而内自訟者也。
子曰く、已んぬるかな。吾未だ能く其の過ちを見て、内に自ら訟むる者を見ざるなり。
現代語訳
- 先生 ――「もうダメかな…。わしはまだ、あやまちに気づいて、みずからをさばく人を見ないんだ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「だめじゃのう。わしはまだ、自分で自分の過ちを発見して自分で自分を責める者を見たことがない。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「なんともしようのない世の中だ。自分の過ちを認めて、みずから責める人がまるでいなくなったようだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 已矣乎 … もうだめだ。もうこれまでだ。今となっては、どうにも仕方がない。慨嘆・絶望をあらわす言葉。「已矣」「已矣哉」「已矣夫」も、すべて「やんぬるかな」と読む。この言葉は『論語』の中で、もう一か所「衛霊公第十五12」にも見える。
- 能 … 「よく」と読む。可能の意を示す。
- 訟 … 心の中で自分を責める。
補説
- 『注疏』に「此の章は時人の過ち有るも、能く自ら責むるもの莫きを疾むなり」(此章疾時人有過、莫能自責也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 已矣乎 … 『義疏』に「已は、止むなり。止んぬるかなとは、此れ以下の事、久しく已む無きを歎ずるなり」(已、止也。止矣乎者、歎此以下事久已無也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「已は、終なり。吾未だ人の能く自ら其の己の過ちを見て内に自ら責むる者有るを見るなり。将に終らんとするも復た見ざるを言う、故に已んぬるかなと云う」(已、終也。吾未見有人能自見其己過而内自責者也。言將終不復見、故云已矣乎)とある。また『集注』に「已んぬるかなとは、其の終に見るを得ざるを恐れて之を歎くなり」(已矣乎者、恐其終不得見而歎之也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 内自訟者也 … 『集解』に引く包咸の注に「訟は、猶お責のごときなり。言うこころは人過ち有りて、能く自ら責むる者莫きなり」(訟、猶責也。言人有過、莫能自責者也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「訟は、猶お責のごときなり。言うこころは我未だ人能く自ら其の行う所の事を見て過失有るを見ざるは、内に自ら責むる者なり」(訟、猶責也。言我未見人能自見其所行事有過失、而内自責者也)とある。また『注疏』に「訟は、猶お責のごときなり」(訟、猶責也)とある。また『集注』に「内に自ら訟むとは、口言わずして心自ら咎むるなり」(内自訟者、口不言而心自咎也)とある。
- 『集注』に「人過ち有りて能く自ら知る者鮮なし。過ちを知りて能く内に自ら訟むる者は尤も鮮しと為す。能く内に自ら訟むれば、則ち其の悔悟深切にして、能く改むること必せり。夫子自ら終に見るを得ざるを恐れて之を歎ず。其の学者を警むこと深し」(人有過而能自知者鮮矣。知過而能内自訟者爲尤鮮。能内自訟、則其悔悟深切、而能改必矣。夫子自恐終不得見而歎之。其警學者深矣)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「人の過ちに於けるや、改むるを憚りて必ず文る。苟くも能く其の過ちを見て、内に自ら責むること、訟むる者の必ず人の非を許して、少しも仮借せざるが如ければ、則ち其の悔悟深切、繊毫も遺すこと無し。実に学を好む者に非ずんば、豈に能く然らんや。夫子其の終に見ることを得ざるを歎ずれば、則ち天下学を好む者無きに非ずして、真に学を好む者の甚だ尠なきを見る可きなり。子路は人之に告ぐるに、過ち有るを以てせば則ち喜ぶ。百世の師と称すも、宜なり」(人之於過也、憚改而必文。苟能見其過、而内自責、如訟者之必許人之非、而不少假借、則其悔悟深切、纖毫無遺。非實好學者、豈能然乎。夫子歎其終不得見、則可見天下非無好學者、而眞好學者之甚尠也。子路人告之、以有過則喜。稱百世之師、宜矣)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「顔子は過ちを弐ねず。蓋し顔子の死して後、此の人を見ること少なし。家語に弟子の行を称する、顔子の外、亦た此れ有ること莫し。夫子の嘆ずる所以なり」(顏子不貳過。蓋顏子死後、少見此人。家語稱弟子之行、顏子之外、亦莫有此。夫子所以嘆也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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