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憲問第十四 3 子曰士而懷居章

335(14-03)
子曰、士而懷居、不足以爲士矣。
いわく、にしてきょおもうは、もっすにらず。
現代語訳
  • 先生 ――「男が家を恋しがっては、男いっぴきの資格がなくなる。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「いやしくも士たる者は、四方に出動して天下を経営する意気込みがなくてはならぬ。安住の地に恋々れんれんしているようなことでは、士とはいえぬぞ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「士たる者が、安楽な家庭生活のみを恋しがるようでは、士の名に値しない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 士 … 本来は卿・大夫・士の士で、中堅の役人層を指すが、ここでは、志のある立派な人の意。
  • 居 … 私的な生活。家庭の安逸。
  • 懐 … 恋々とすること。常に心から離れないこと。
補説
  • 『注疏』に「此の章の言うこころは士は当に道に志し、安居を求めざるべし。而るに其の居に安んずるを懐うは、則ち士に非ざるなり」(此章言士當志於道、不求安居。而懷安其居、則非士也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 士而懐居、不足以為士矣 … 『集解』の何晏の注に「士は当に道に志して、安きを求めざるべし。而るに其の居を懐うは、士に非ざるなり」(士當志道、不求安。而懷其居、非士也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「居を懐うは、猶お居に安きを求むるがごときなり。士と為すに足らずは、士に非ざるを謂うなり。君子は居に安きを求むること無し、士なり。若し居を懐わば、士たるに非ざるなり」(懷居、猶求安居也。不足爲士、謂非士也。君子居無求安、士也。若懷居、非爲士也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「居は、こころの便安する所の処を謂うなり」(居、謂意所便安處也)とある。便安は、穏やかに落ち着くこと。便利がよく安らかなこと。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「士たる者、当に四方を経営するの志有りて専ら安逸の楽しみを求む可からざるべし」(爲士者、當有經營四方之志而不可專求安逸之樂)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「士にして居を懐うは、以て士と為すに足らずは、其の居に安んぜんことを求むるを謂うなり。男子生まれて四方の志有り、故にを門にく。礼なり。朱註に、居は意の便安する所の処を謂う、と。此れ其そ天理人欲じんよくの説にして、豈に刻ならずや。蓋し四方に使いするは、士の重務なり。大夫も亦た四方に使いす。然れども其の邦に在りて政に従うは、是れ大夫の重務なり。故に孔子士に於いて、多く使事を以て之を言う。春秋微なる者に人という、皆士なり。以て見る可きのみ」(士而懷居、不足以爲士矣、謂求安其居也。男子生而有四方之志、故懸弧於門。禮也。朱註、居謂意所便安處。此其天理人欲之説、豈不刻乎。蓋使於四方、士之重務也。大夫亦使於四方。然其在邦從政、是大夫之重務也。故孔子於士、多以使事言之。春秋人微者、皆士也。可以見已)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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