八佾第三 2 三家者以雍徹章
042(03-02)
三家者以雍徹。子曰、相維辟公、天子穆穆。奚取於三家之堂。
三家者以雍徹。子曰、相維辟公、天子穆穆。奚取於三家之堂。
三家者、雍を以て徹す。子曰く、相くるは維れ辟公、天子は穆穆たりと。奚んぞ三家の堂に取らん。
現代語訳
- 三家老は、「御歌」で祭りをおわる。先生 ――「『居ならぶ大名、大君おおらか』なんて、三家老のお宮では無意味だよ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 魯の大夫三家が家祭の場合に、供物を下げるとき雍の詩をうたわせる。孔子様が非難しておっしゃるよう、「雍の詩には、『諸侯が祭のおてつだいをして、天子は上品にすわってござる。』という意味の、陪臣三家の堂上には似合いもつかぬ文句がある。三家の祭にそれを歌わせるとは、僭上も僭上だが、物を知らぬにもほどがある。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 三家のものが、雍の詩を歌って祭祀の供物を下げた。先師がこれを非難していわれた。――
「雍の詩には、『諸侯が祭りを助けている。天子はその座にあって威儀を正している』という意味の言葉もあるし、がんらい三家の祭りなどで歌えるような性質のものではないのだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 三家 … 魯の家老の三家、孟孫氏・叔孫氏・季孫氏を指す。ウィキペディア【三桓氏】参照。
- 者 … ここでは添え字で、意味はない。
- 雍 … 雍のうた。『詩経』周頌の「雍」の詩を指す。『詩経』では「雝」に作る。「相維辟公、天子穆穆」が『詩経』からの引用箇所。原文はウィキソース「詩經/雝」参照。
- 徹 … 祭祀が済んで供物をさげること。「撤」に同じ。
- 相 … 助ける。「助」に同じ。
- 維 … 語助の辞。
- 辟公 … 諸侯のこと。「辟」は、君主の意。
- 穆穆 … 威儀正しく奥ゆかしいさま。
- 奚 … 「なんぞ~(ならんや)」と読み、「どうして~であろうか(いや~ではない)」「どうして~しようか(いや~しない)」と訳す。反語の意を示す。
- 堂 … 廟堂。
- 取 … 用いる。
補説
- 『注疏』に「此の章は三家の僭を譏るなり」(此章譏三家之僭也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 三家者以雍徹 … 『集解』に引く馬融の注に「三家者とは、仲孫・叔孫・季孫を謂うなり。雍は、周頌、臣工の篇の名なり。天子宗廟に祭るに、之を歌いて以て祭を徹す。今三家も亦た此の楽を作す者あるなり」(三家者、謂仲孫、叔孫、季孫也。雍、周頌臣工篇名也。天子祭於宗廟、歌之以徹祭。今三家亦作此樂者也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「又た其の失を譏るなり。三家は即ち是れ仲孫・叔孫・季孫なり。並びに皆僭濫す。故に此れ之を并言するなり。季氏は最も悪たり。故に巻初に独り季氏のみを言うなり。雍とは、詩篇の名なり。徹とは、礼に天子の祭竟り、祭の饌を徹せんと欲す。則ち先ず楽人をして先ず雍の詩を歌わしめ以て神を楽しましむ。後乃ち祭器を徹し、時に於いて三家祭竟り、亦た雍の詩を歌いて以て徹祭す。故に云う、三家は雍を以て徹するなり、と。三孫は同じく是れ魯の桓公の後なり。桓公の嫡子荘公、君と為る。而して桓公の庶子に公子慶父・公子叔牙・公子季友有り。仲孫は是れ慶父の後、叔孫は是れ叔牙の後、季孫は是れ季友の後なり」(又譏其失也。三家即是仲孫叔孫季孫也。竝皆僭濫。故此并言之也。季氏爲最惡。故卷初獨言季氏也。雍者、詩篇名也。徹者、禮天子祭竟、欲徹祭饌。則先使樂人先歌雍詩以樂神。後乃徹祭器、於時三家祭竟、亦歌雍詩以徹祭。故云三家者以雍徹也。三孫同是魯桓公之後。桓公嫡子莊公爲君。而桓公之庶子有公子慶父、公子叔牙、公子季友也。仲孫是慶父之後、叔孫是叔牙之後、季孫是季友之後)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「此れ弟子の言なり。将に夫子の譏る所の語を論ぜんとし、故に先ず此の文を設けて以て首引と為す。三家は、仲孫・叔孫・季孫を謂う。雍は、周頌の臣工篇の名なり。天子宗廟に祭るとき、之を歌いて以て祭を徹す。今三家も亦た此の楽を作して以て祭を徹す、故に夫子之を譏る」(此弟子之言。將論夫子所譏之語、故先設此文以爲首引。三家、謂仲孫叔孫季孫。雍、周頌臣工篇名。天子祭於宗廟、歌之以徹祭。今三家亦作此樂以徹祭、故夫子譏之)とある。また『集注』に「三家は、魯の大夫、孟孫・叔孫・季孫の家なり。雍は、周頌の篇の名。徹は、祭畢わりて其の俎を収むるなり。天子の宗廟の祭には、則ち雍を歌いて以て徹す。是の時三家僭して之を用う」(三家、魯大夫孟孫叔孫季孫之家也。雍、周頌篇名。徹、祭畢而收其俎也。天子宗廟之祭、則歌雍以徹。是時三家僭而用之)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 子曰、相維辟公、天子穆穆。奚取於三家之堂 … 『集解』に引く包咸の注に「辟公は、諸侯及び二王の後を謂うなり。穆穆は、天子の容なり。雍の篇、此を歌うは、諸侯及び二王の後来りて祭を助くること有るが故なり。今三家但だ家臣あるのみ。何ぞ此の義を取りて之を堂に作さんや」(辟公、謂諸侯及二王之後也。穆穆、天子之容也。雍篇、歌此者、有諸侯及二王之後來助祭故也。今三家但家臣而已。何取此義而作之於堂邪也)とある。「二王之後」とは、夏・殷の後裔のこと。周代、夏・殷の子孫たる杞と宋との君を諸侯とはせず、二王として礼遇した。また『義疏』に「前は是れ記者の言にして、此れは是れ孔子の語なり。孔子雍の詩の曲を称して、以て三家を譏るなり。相は、助なり。辟は、猶お諸侯のごときなり。公は、二王の後なり。穆穆は、敬なり。奚は、何なり。孔子云う、此の詩曲は、時に祭を助くる者、諸侯及び王者の後有るを言う。而して天子の容儀尽く敬すること穆穆然たり、と。今三家の祭、但だ其の家臣有るのみ。何ぞ諸侯二王有る後、及び天子穆穆たらんや。既に此の事無ければ、何ぞ空しく此の曲を其の家の廟堂に歌うことを用いんや」(前是記者之言、此是孔子語也。孔子稱雍詩之曲、以譏三家也。相、助也。辟、猶諸侯也。公、二王之後也。穆穆、敬也。奚、何也。孔子云、此詩曲、言時助祭者、有諸侯及王者後。而天子容儀盡敬穆穆然。今三家之祭、但有其家臣而已。有何諸侯二王後、及天子穆穆乎。既無此事、何用空歌此曲於其家之廟堂乎)とある。また『注疏』に「此れ夫子譏る所の語なり。先ず詩の文を引き、後に其の取る可からざるの理を言うなり。相くるは維れ辟公、天子は穆穆たりとは、此れ雍詩の文なり。相は、助なり。維は、辞なり。辟公は、諸侯及び二王の後を謂う。穆穆は、天子の容貌なり。雍篇此を歌うは、諸侯及び二王の後の来たりて祭を助くること有るが故なり。今三家は但だ家臣なるのみ。何ぞ此の義を取りて之を堂に作さんや」(此夫子所譏之語也。先引詩文、後言其不可取之理也。相維辟公、天子穆穆者、此雍詩之文也。相、助也。維、辭也。辟公、謂諸侯及二王之後。穆穆、天子之容貌。雍篇歌此者、有諸侯及二王之後來助祭故也。今三家但家臣而已。何取此義而作之於堂乎)とある。また『集注』に「相は、助なり。辟公は、諸侯なり。穆穆は、深遠の意、天子の容なり。此れ雍の詩の辞なり。孔子之を引きて、三家の堂、此の事有るに非ず、亦た何ぞ此の義を取りて之を歌わんやと言う。其の無知妄作、以て僭窃の罪を取るを譏るなり」(相、助也。辟公、諸侯也。穆穆、深遠之意、天子之容也。此雍詩之辭。孔子引之、言三家之堂、非有此事、亦何取於此義而歌之乎。譏其無知妄作、以取僭竊之罪)とある。
- 穆穆 … 『義疏』では「穆穆矣」に作る。
- 奚取 … 宮崎市定は「奚取は、どんな取柄があるか、猿の物眞似で大笑いだ、の意」と言っている(『論語の新研究』183頁)。
- 『集注』に引く程頤の注に「周公の功、固より大なり。皆臣子の分の当に為すべき所なり。魯安くんぞ独り天子の礼楽を用うるを得んや。成王の賜、伯禽の受、皆非なり。其の因襲の弊、遂に季氏をして八佾を僭し、三家をして雍徹を僭せしむ。故に仲尼之を譏る」(周公之功固大矣。皆臣子之分所當爲。魯安得獨用天子禮樂哉。成王之賜、伯禽之受、皆非也。其因襲之弊、遂使季氏僭八佾、三家僭雍徹。故仲尼譏之)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「当時の人、三家の僭礼を視て、徒らに其の非を規すこと能わざるのみならず、反って之を挙げて以て美談と為す。故に夫子之を斥けて、以て其の僭妄の罪を明らかにし、且つ其の聞きて之を改むることを欲するなり。夫れ位愈〻盛んなれば、則ち責愈〻重し。禄愈〻高ければ、則ち任愈〻大なり。……故に人の上と為りて学を知らざるは、其の蔽必ず此に至る」(當時之人、視三家僭禮、不徒不能規其非、反擧之以爲美談。故夫子斥之、以明其僭妄之罪、且欲其聞而改之也。夫位愈盛、則責愈重。祿愈高、則任愈大。……故爲人之上而不知學、其蔽必至於此)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「三家者、者の字は語助、意義無し。三子者の者の如し。古者の歌詩、皆其の義に取る所有り。而して雍の詩の三家の堂に於ける、取る所有ること莫し。魯君の堂に於けるも、亦た取る所有ること莫し。孔子其の非礼を斥けず、但だ詩を以て之を言い、之を訝る者の若く然り。開喩する所以なり。……穆穆は、蓋し深遠の意。天子礼を行い、辟公の之が儐相と為ること有り。則ち天子は廼ち為す所無き者の若くして、唯だ其の穆穆然として美なるを見るのみ。是れ雍の詩の義なり」(三家者、者字語助、無意義。如三子者之者。古者歌詩、皆有所取於其義。而雍詩於三家之堂、莫有所取焉。於魯君之堂、亦莫有所取焉。孔子不斥其非禮、但以詩言之、若訝之者然。所以開喩也。……穆穆、蓋深遠意。天子行禮、有辟公爲之儐相。則天子廼若無所爲者、唯見其穆穆然美已。是雍詩之義也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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