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子衿(『詩経』国風・鄭風)

子衿
きん
『詩経』国風・鄭風ていふう
  • 〔テキスト〕 『毛詩』巻四(『四部叢刊 初編経部』所収)、『詩集伝』巻四(『四部叢刊 三編経部』所収)、他
  • 雑言古詩。〔第一章〕衿(kiəm)・心(siəm)・音(iəm)(侵部)。〔第二章〕佩(buə)・思(siə)・來(lə)(之部)。〔第三章〕達(that)・闕(khiuat)・月(ngiuat)(月部)。※王力『诗经韵读』(上海古籍出版社、1980年)の《诗经》入韵字音表(111~145頁)および203~204頁参照。
  • ウィキソース「詩經/子衿」参照。
  • この詩は、会いに来てくれない男性を思い続ける女性の歌(諸説あり)。
  • 子衿 … あなたのえり。「子」は成人した男子に対する敬称。あなた。
  • 詩経 … 中国最古の詩集。305編。孔子が編集したといわれる。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・しょう(祭礼の歌)の三部からなる。風は国風ともいい、周南・召南・はいよう・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・ひんの十五に分かれる。雅は大雅・小雅の二つに分かれる。頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。『毛詩』『詩』ともいう。ウィキペディア【詩経】参照。
〔第一章〕
靑靑子衿
青青せいせいたるえり
  • 青青 … 青々とした。
  • 子衿 … あなたのえり
悠悠我心
悠悠ゆうゆうたるこころ
  • 悠悠我心 … あなたを慕う私の思いは尽きない。「悠悠」はここでは思いがいつまでも続くさま。
縱我不往
たとわれかずとも
  • 縦 … 「たとい~とも」と読み、「たとえ~であっても」「仮に~でも」「万が一~でも」と訳す。逆接の仮定条件の意を示す。「縦令」「縦使」も同じ。
  • 不往 … 行かずとも。行かないからといって。
子寧不嗣音
 なんいんがざる
  • 寧 … 「なんぞ」と読み、「どうして」と訳す。
  • 嗣音 … 「嗣」は継ぐ。「音」と音信。連絡を寄こすこと。
〔第二章〕
靑靑子佩
青青せいせいたるはい
  • 佩 … 腰につける帯び玉。佩玉。
悠悠我思
悠悠ゆうゆうたるおも
縱我不往
たとわれかずとも
子寧不來
 なんきたらざる
  • 子寧不来 … あなたはなぜ来てくださらないの。
〔第三章〕
挑兮達兮
とうたりたつたり
  • 挑兮達兮 … 「挑達とうたつ」を分割した言い方。「挑達」は行ったり来たりして、あっちこっち人を探し回るさま。または、飛んだり跳ねたり、軽やかに舞ったりするさま。「兮」は調子を整える助字。
在城闕兮
じょうけつ
  • 城闕 … 物見台のある城門。
一日不見
一日いちじつざれば
  • 一日不見 … たった一日会わないでも。
如三月兮
三月さんげつごと
  • 三月 … つき。三ヶ月。
余説
  • 子衿 … 詩序に「子衿は、学校の廃するをそしるなり。世乱るれば則ち学校修まらず」(子衿。刺學校廢也。世亂則學校不脩焉)とある。朱熹『詩集伝』に「此れ亦淫奔いんぽんの詩」(此亦淫奔之詩)とある。「淫奔」は本来、男女関係において、ふしだらなことの意であるが、当時と現代との恋愛観・結婚観には大きな懸隔がある。従ってここでいう「淫奔の詩」とは、現代的感覚で言えば単に「男女の恋愛の詩」程度の意であろう。
  • 青青子衿 … 毛亨もうこう『毛伝』に「青衿は青きりょうなり。学子の服する所」(青衿青領也。學子之所服)とある。「領」は、えり。鄭玄『鄭箋』に「礼に父母いませば、衣の純は青を以てす」(禮父母在衣純以青)とある。「純」はふちをとること。『集伝』に「青青は純縁の色。父母をそなうれば、衣の純は青を以てす。子は男子なり。衿は領なり」(青青純縁之色。具父母衣純以青。子男子也。衿領也)とある。
  • 悠悠 … 『集伝』に「悠悠は思の長きなり」(悠悠思之長也)とある。
  • 嗣音 … 『毛伝』に「嗣は習うなり。いにしえは教うるに詩と楽とを以てし、之を誦し之を歌い之を絃し之を舞う」(嗣習也。古者教以詩樂。誦之歌之。絃之舞之)とある。『鄭箋』に「嗣は続なり」(嗣續也)とある。『集伝』に「いんは其の声問を継続するなり」(嗣音繼續其聲問也)とある。
  • 青青子佩 … 『毛伝』に「佩は佩玉なり。士は瓀珉ぜんびんびて青きじゅ」(佩佩玉也。士佩瓀珉而靑組綬)とある。「瓀珉」は玉に似て美しい石。「組綬」は官印を腰につるす組紐。『集伝』に「青青は組綬の色。佩は佩玉なり」(靑靑組綬之色。佩佩玉也)とある。
  • 不来 … 『毛伝』に「来たらずは、一たびも来たらざるを言うなり」(不來者。言不一來也)とある。
  • 挑兮達兮 … 『毛伝』に「挑達とうたつは往来してあい見るのかたち」(挑達往來相見貌)とある。『鄭箋』に「国乱れて人は学業を廃し、但だ好んで高きに登りて、城闕を見、候望こうぼうを以て楽しみと為す」(國亂人廢學業。但好登高。見於城闕。以候望爲樂)とある。「候望」はうかがい望むこと。『集伝』に「とう軽儇けいけん跳躍のかたち。達はほうなり」(挑輕儇跳躍之貌。達放恣也)とある。「軽儇」は身軽。「放恣」は気まま。
  • 在城闕兮 … 『毛伝』に「城に乗りて闕を見る」(乘城而見闕)とある。
  • 一日不見。如三月兮 … 『毛伝』に「言うこころは、礼楽の一日も廃す可からず」(言禮樂不可一日而廢)とある。
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