慈恩寺偶題(鄭谷)
慈恩寺偶題
慈恩寺偶題
慈恩寺偶題
- 七言律詩。能・登・僧・冰(平声蒸韻)。
- ウィキソース「雲臺編 (四庫全書本)/卷下」「三體唐詩 (四庫全書本)/卷4」「全唐詩/卷676」参照。
- 詩題 … 『三体詩』では「慈恩偶題」に作る。
- 慈恩寺偶題 … 『雲台編』巻下、『三体詩』七言律詩・前虚後実、『全唐詩』巻676収録。なお、鄭谷の別集(個人の詩文集)である『雲台編』、および『全唐詩』では「慈恩寺偶題」に作る。
- 慈恩寺 … 大慈恩寺。長安城の東南部、晋昌坊の東半分を占めた大寺院。今の陝西省西安市雁塔区にある。境内にある大雁塔が特に有名。ウィキペディア【大慈恩寺】参照。
- 偶題 … たまたま題する。詩などを偶然に作ること。「題」は、壁などに詩歌を書きつけること。偶作・偶成に同じ。
- 鄭谷 … 849~911。晩唐の詩人。字は守愚。袁州宜春(今の江西省宜春市)の人。光啓三年(887)、進士に及第。官位は右拾遺から都官郎中に至る。「鷓鴣」の詩は特に有名で、「鄭鷓鴣」とも呼ばれる。『鄭守愚文集』三巻、『雲台編』三巻がある。ウィキペディア【鄭谷】(中文)参照。
徃事悠悠添浩歎
往事 悠悠として浩歎を添う
- 往事 … 過ぎ去った昔のこと。
- 悠悠 … 遥かに隔たっている様子。
- 浩歎 … 深いため息をつくこと。浩嘆。
- 添 … 『三体詩』では「成」に作る。
勞生擾擾竟何能
労生 擾擾として 竟に何をか能くせん
- 労生 … 苦労の多い人生。『荘子』大宗師篇に「夫れ大塊は我を載するに形を以てし、我を労するに生を以てし、我を佚するに老を以てし、我を息するに死を以てす」(夫大塊載我以形、勞我以生、佚我以老、息我以死)とある。ウィキソース「莊子/大宗師」参照。『三体詩』では「浮生」に作る。「浮生」は、はかない人生。
- 擾擾 … ごたごたとみだれるさま。
- 竟 … 結局。とどのつまりは。そのあげくに。
- 何能 … 何ができるというのだ。
故山嵗晩不歸去
故山 歳晩れて 帰り去らず
- 故山 … ふるさとの山。転じて、故郷。
- 歳晩 … 年が暮れること。
- 不帰去 … 故郷に帰ろうとしない。
高塔晴來獨自登
高塔 晴れ来って 独り自ら登る
- 高塔 … 境内にある大雁塔を指す。
林下聽經秋苑鹿
林下に経を聴く 秋苑の鹿
- 林下 … 林の木々のもと。
- 聴経 … (鹿が)読経の声に聴き入る。
- 秋苑 … 秋の庭。ここでは、大慈恩寺の境内を指す。
- 苑 … 『全唐詩』には「一作院」とある。
江邊掃葉夕陽僧
江辺に葉を掃く 夕陽の僧
- 江辺 … 川のほとり。『三体詩』では「渓辺」に作る。
- 掃葉 … 落ち葉を掃き集めること。
- 夕陽 … 夕日。
吟餘卻起雙峰念
吟余 却って起す 双峰の念
- 吟余 … 詩を吟じたあと。
- 却起 … ふと思い出す。
- 双峰 … 蘄州黄梅県(今の湖北省黄岡市黄梅県)の城西十五キロに双峰山がある。そこに禅宗の四祖道信の道場だった双峰山四祖寺があり、双峰寺とも呼ばれた。『湖北通志』巻七、黄梅県の条に「双峰山は県の西三十里に在り、一名は西山、一名は破額山、亦た四祖山と曰う、即ち大医禅師の道場なり」(双峯山在縣西三十里、一名西山、一名破額山、亦曰四祖山、即大醫禪師道場)とある。ウィキメディア・コモンズ「湖北通志」参照。また、同じく黄梅県の城東十二キロに五祖弘忍の道場だった五祖寺があり、東山寺・東禅寺・双峰寺とも呼ばれた。詳しくは鎌田茂雄の論文「湖西省仏教寺院訪問記」(PDFファイル、『禅研究所紀要』25号、1997年)参照。なお、双峰寺が韶州(今の広東省韶関市)にあったとする従来の説(『増註三體詩』等)はここでは採らない。
曾看菴西瀑布冰
曾て看る 庵西 瀑布の氷
- 庵西 … 庫裡の西。
- 瀑布冰 … 大きな滝の流れ落ちる、氷のような冷たい水。
テキスト
- 『増註三體詩』巻二・七言律詩・前虚後実(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻六百七十六(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『鄭守愚文集』巻一(『四部叢刊 続編集部』所収)
- 『雲台編』巻下(『唐詩百名家全集』所収)
- 厳寿澂・黄明・趙昌平箋注『鄭谷詩集箋注』巻三(上海古籍出版社、1991年)
- 『文苑英華』巻二百三十九(影印本、中華書局、1966年)
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