楚辞　招（しょう）隠（いん）士（し）第十二

桂樹叢生兮山之幽、偃蹇連蜷兮枝相繚。

桂樹（けいじゅ）叢生（そうせい）せり山（やま）の幽（ゆう）、偃蹇（えんけん）連蜷（れんけん）して枝（えだ）相（あい）繚（まと）う。

山氣巃嵸兮石嵯峨、谿谷嶄巖兮水曽波。

山（さん）気（き）巃（ろう）嵸（しょう）して石（いし）嵯峨（さが）たり、谿谷（けいこく）嶄巌（ざんがん）として水（みず）曽（かさ）ねて波（なみ）たつ。

猨狖群嘯兮虎豹嘷、攀援桂枝兮聊淹留。

猨狖（えんゆう）群（ぐん）嘯（しょう）して虎（こ）豹（ひょう）嘷（さけ）ぶ、桂（けい）枝（し）を攀（よ）じ援（ひ）いて聊（いささ）か淹（えん）留（りゅう）す。

王孫遊兮不歸、春草生兮萋萋。

王孫（おうそん）遊（あそ）んで帰（かえ）らず、春（しゅん）草（そう）生（しょう）じて萋萋（せいせい）たり。

歳暮兮不自聊、蟪蛄鳴兮啾啾。

歳（とし）暮（く）れて自（みずか）ら聊（やす）んぜす、蟪（けい）蛄（こ）鳴（な）いて啾啾（しゅうしゅう）たり。

坱兮軋、山曲

、心淹留兮恫慌忽。

坱（おう）として軋（あつ）たり、山（やま）曲（きょく）

（ふつ）し、心（こころ）淹（えん）留（りゅう）して恫（いた）んで慌忽（こうこつ）たり。

罔兮沕、憭兮栗、虎豹穴。

罔（もう）として沕（かく）れ、憭（りょう）として栗（おのの）き、虎（こ）豹（ひょう）の穴（あな）。

叢薄深林兮人上慄。

叢薄（そうはく）深林（しんりん）、人（ひと）上（のぼ）りて慄（おのの）く。

嶔岑碕礒兮、碅磳磈硊、樹輪相糾兮林木茷骫。

嶔岑（きんしん）碕礒（きぎ）として、碅磳（きんそう）磈（かい）硊（き）たり、樹輪（じゅりん）相（あい）糾（まつわ）り林木（りんぼく）茷（はい）骫（い）す。

青莎雜樹兮薠草靃靡、白鹿麏麚兮或騰或倚。

青（せい）莎（さ）樹（き）に雑（まじ）わり薠草（はんそう）靃（すい）靡（び）たり、白鹿（はくろく）と麏（きん）麚（か）と或（ある）いは騰（のぼ）り或（ある）いは倚（よ）る。

狀貌崯崯兮峨峨、淒淒兮漇漇。

状（じょう）貌（ぼう）崯崯（ぎんぎん）として峨峨（がが）たり、凄凄（せいせい）として漇漇（しし）たり。

獼猴兮熊羆、慕類兮以悲。

獼（び）猴（こう）と熊（ゆう）羆（ひ）と類（るい）を慕（した）って以（もっ）て悲（かな）しむ。

攀援桂枝兮聊淹留。

桂（けい）枝（し）を攀（よ）じ援（ひ）いて聊（いささ）か淹（えん）留（りゅう）す。

虎豹鬪兮熊羆咆、禽獸駭兮亡其曹。

虎（こ）豹（ひょう）闘（たたか）い熊（ゆう）羆（ひ）咆（ほ）え、禽（きん）獣（じゅう）駭（おどろ）いて其（そ）の曹（ともがら）を亡（うしな）う。

王孫兮歸來、山中兮不可以久留。

王孫（おうそん）帰（かえ）り来（きた）れ、山（さん）中（ちゅう）には以（もっ）て久（ひさ）しく留（とど）まる可（べ）からず。